「ひとがた流し」 北村薫
お薦め度:特選☆☆☆☆☆ /
2007年4月26日讀了
2005年8月20日から2006年3月23日まで「朝日新聞」に連載されてゐた連載小説。
私は朝日新聞を讀まない者なので、その存在を知つたのはつい最近のことだつた。
さて、この作品について、いつたい何を書いたらいいのか。
まづ登場人物について。
この作品には、学生時代からの親友同士の女性が3人登場する。
アナウンサーで独身の「トムさん」こと石川千波。
千波の小學校時代からの友人で作家の、水澤牧子。
この2人が高校で知合つた日高美々。
「(前略)この三人が本當に親しくなつたのは、大學に進んでからだといふ。」
「學生生活を共にした、かつての娘たちも、いまは四十を越した。さういふ女三人の日常的付き合ひが、いまだに續いてゐる。かなり、珍しいことだろう。」
千波は獨身だが、ギンジローといふ猫を飼つてゐる。
牧子は離婚して、さきといふ娘と二人で暮らしてゐる。
この二人、もしかすると、 「月の砂漠をさばさばと」 の主人公たちかもしれない。
複雜なのが美々。
美々には玲といふ娘がゐるが、いまの夫との子供ではない。
玲がまだ1歳の頃に離婚し、ものごころつく前には今の夫である「類」と再婚したのだ。
そのことを玲は知らない。
かういつた女三人と娘二人の付き合ひが、たんたんと描かれてゆく。
しかし、「たんたんと」描かれてゐるなかに、物語の伏線が張られてゐて、とあることから、一氣に物語は進行してゆく。
この作品のなかで、印象に殘つた會話がある。
千波が玲に語る言葉だ。
「人が生きていく時、力になるのは何かつていふと、-《自分が生きてゐることを切實に願ふ誰かがゐるかどうか》だと思ふんだ。-人間は風船みたいで、誰かのさういふ願ひが、やつと自分を地上に繋ぎ止めてくれる。(後略)」
粗筋を書いても仕方がない。
感動を傳へようと思ふとストーリーに觸れざるをえない。
ジレンマに陷つてしまふ。
いつそ、開き直つてしまはう。
友情つて素晴らしい。
それが若い頃からずつと繼續してゐるのであれば、なほのこと素晴らしい。
彼女達の共有して來た時間といふものの素晴らしさよ。
その時々で濃淡はあれど、最後の瞬間まで分かち合へる、共に積み重ねられてきた時間。
そして、お互ひがお互ひを理解し合へることの嬉しさ。
友情もそして愛も。
かけがへのない時間をともに過ごすことの大切さ。
あなたは、自分の大切な人のつむじの形を知つてゐますか?
私は、そこまでは知らない・・・
「そんな、ささいなこと」といふなかれ。
些細なことの積み重ねが人生といふものではないか。
著者の「付記」の最後に次の言葉がある。
(以下引用)
・・・・・・・・・・
これらの單語(私注:「涙」といふ言葉)を書かないのを、わたしは逃げとは思はない。それは、わたしにとつて、物語のひとつの要素でもある《祈り》に近いものである。
・・・・・・・・・・
千波は倖せだつたと私は思ふ。
なぜなら、《自分が生きてゐることを切實に願ふ誰か》が、少なくとも確實にひとりはゐることを知ることができたから。
お薦め度:特選☆☆☆☆☆ /
2007年4月26日讀了
2005年8月20日から2006年3月23日まで「朝日新聞」に連載されてゐた連載小説。
私は朝日新聞を讀まない者なので、その存在を知つたのはつい最近のことだつた。
さて、この作品について、いつたい何を書いたらいいのか。
まづ登場人物について。
この作品には、学生時代からの親友同士の女性が3人登場する。
アナウンサーで独身の「トムさん」こと石川千波。
千波の小學校時代からの友人で作家の、水澤牧子。
この2人が高校で知合つた日高美々。
「(前略)この三人が本當に親しくなつたのは、大學に進んでからだといふ。」
「學生生活を共にした、かつての娘たちも、いまは四十を越した。さういふ女三人の日常的付き合ひが、いまだに續いてゐる。かなり、珍しいことだろう。」
千波は獨身だが、ギンジローといふ猫を飼つてゐる。
牧子は離婚して、さきといふ娘と二人で暮らしてゐる。
この二人、もしかすると、 「月の砂漠をさばさばと」 の主人公たちかもしれない。
複雜なのが美々。
美々には玲といふ娘がゐるが、いまの夫との子供ではない。
玲がまだ1歳の頃に離婚し、ものごころつく前には今の夫である「類」と再婚したのだ。
そのことを玲は知らない。
かういつた女三人と娘二人の付き合ひが、たんたんと描かれてゆく。
しかし、「たんたんと」描かれてゐるなかに、物語の伏線が張られてゐて、とあることから、一氣に物語は進行してゆく。
この作品のなかで、印象に殘つた會話がある。
千波が玲に語る言葉だ。
「人が生きていく時、力になるのは何かつていふと、-《自分が生きてゐることを切實に願ふ誰かがゐるかどうか》だと思ふんだ。-人間は風船みたいで、誰かのさういふ願ひが、やつと自分を地上に繋ぎ止めてくれる。(後略)」
粗筋を書いても仕方がない。
感動を傳へようと思ふとストーリーに觸れざるをえない。
ジレンマに陷つてしまふ。
いつそ、開き直つてしまはう。
友情つて素晴らしい。
それが若い頃からずつと繼續してゐるのであれば、なほのこと素晴らしい。
彼女達の共有して來た時間といふものの素晴らしさよ。
その時々で濃淡はあれど、最後の瞬間まで分かち合へる、共に積み重ねられてきた時間。
そして、お互ひがお互ひを理解し合へることの嬉しさ。
友情もそして愛も。
かけがへのない時間をともに過ごすことの大切さ。
あなたは、自分の大切な人のつむじの形を知つてゐますか?
私は、そこまでは知らない・・・
「そんな、ささいなこと」といふなかれ。
些細なことの積み重ねが人生といふものではないか。
著者の「付記」の最後に次の言葉がある。
(以下引用)
・・・・・・・・・・
これらの單語(私注:「涙」といふ言葉)を書かないのを、わたしは逃げとは思はない。それは、わたしにとつて、物語のひとつの要素でもある《祈り》に近いものである。
・・・・・・・・・・
千波は倖せだつたと私は思ふ。
なぜなら、《自分が生きてゐることを切實に願ふ誰か》が、少なくとも確實にひとりはゐることを知ることができたから。
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友情も愛情も、とても素晴らしかったです。
私も、千波は人よりも短い人生ではあったけど、
幸せな最期だったように思えました。
この作品を讀んで、「かけがへのない時間」といふことを考へさせられました。
「いま」この時間が大切なんですよね!
千波は倖せでした。
さう思ひます。
ブログを読ませていただいて
私と同じ文が心に残っていらっしゃった事を知り
思わずコメントを書かさせていただきたく・・・。
私は久しぶりに心温まる本が読めて
大感動でした。
月の砂漠・・・から繋がっていたんですね
読んでいませんでした。
友情がこんなにも素敵に描かれた作品は他にないですよね。
同じ感想を持った方がいらっしゃった と言うことにも感動でした。
又 遊びに来させて下さいね。
私も久しぶりに、感動する本に出會ひました。
北村薫さんの作品は、淡々としてゐるくせに、心に沁みてくるものが多いですね。
涙を誘はうとするあざとさが感じられません。
この本は私も5つ星です。
>同じ感想を持った方がいらっしゃった と言うことにも感動でした。
確かに、さうですね。
あの文章はいたく心に殘るものでした。
>又 遊びに来させて下さいね。
ぜひぜひ。
このところ、本が讀めないので感想を記すことも少ないのですが・・・