仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

『 ネクロポリス 』 (上・下) 恩田 陸

2009-04-07 00:01:01 | 讀書録(ミステリ)
『 ネクロポリス 』 (上・下) 恩田 陸

お薦め度 : ☆☆☆☆
2009年4月6日讀了


中學生の頃、FM放送のオープニングで聞いた言葉を思ひだした。
「けふとあしたの出會ふ時、クロスオーバー・イレヴン」
けふはいつ迄たつても「けふ」であつて、明日にはなりえないのに。
ませたガキであつた私はさう思つたものだ。

「この世とあの世の出會ふとこ、アナザー・ヒル」
ううむ、前半が「字餘り」で後半が「字足らず」だけど、まあいいか。

生きてゐる者が死者に出會へる場所、アナザー・ヒル。
年に1度「ヒガン」が行なはれるところ。
「ヒガン」はもちろん日本語の彼岸からきてゐる。
ここは、大英帝國の植民地であつたが、黒潮の關係でかなりの日本人も流れつゐた島らしい。
そのお蔭で、イギリスの文化と日本の文化が渾然としてゐる。

主人公のジュンが論文作成のために「ヒガン」に參加したのだが、例年の「ヒガン」とは樣子が違つて、不可解な出來事が起こるのであつた。
上卷の途中までは舞臺設定の説明がかなりを占めるため、もどかしい思ひをするかもしれない。
しかし、上卷の後半から少しづつ物語は加速してゆき、下卷に入るとさらに謎が深まり、物語は一氣呵成に進行して行く。

「血塗れジャック」に殺された人々はヒガンに現はれるのか?
入り口の鳥居に屍體をぶら下げたのは何者か?
ジミーとテリーの双子は何者で、ジミーはどこへ消えてしまつたのか?
「黒婦人」は血塗れになつた部屋からどのやうにして消え、いま生きてゐるのか?

恩田陸の作品としては、謎解きの要素が多いが、本質はミステリといふよりはファンタジーである。
謎は最後には明らかになるが、それでお終ひといふわけではない。
むしろ、「アナザー・ヒル」といふ架空の世界の、奇妙なまでの存在感こそが、恩田陸の世界である。

解説で萩尾望都さんがこの島の位置を推理してゐるが、そんなことをしたくなるほど、この島には魅力がある。
「ヒガン」には參加したいとは思はないが、この島には行つてみたいと思ふのである。



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