映画と自然主義 労働者は奴隷ではない.生産者でない者は、全て泥棒と思え

自身の、先入観に囚われてはならない
社会の、既成概念に囚われてはならない
周りの言うことに、惑わされてはならない

南部の人 (ジャン・ルノワール)

2013年02月06日 19時02分58秒 | ジャン・ルノワール
(1945 91min)

意地悪

意地悪の第一は、デイジーちゃん (わざと人を困らせる、女の子)
『野ぶどうよ』、祖母を呼び止めたデイジーちゃん.
『食べないの』、おいしそうに野ぶどうを頬張りながら、祖母に聞いた.
蛇が怖い祖母は、草むらに入るのを躊躇っていたけれど、お腹がすいて食べ来た.
『蛇はいいの?』
『怖いけど』
夢中になってぶどうを食べる祖母に、この子は蛇をプレゼントしたのだった.
意地悪の好きな、女の子だったのかしら?
あるいは、こんな可愛らしい女の子が蛇を持って怖くないのかしら?、こう思わせて意地悪を描く、ジャン・ルノワールが意地悪なのか?

隣の農家の男 (わざと人を困らせたり、辛く当っていじめる男たち)
井戸を借りに来たサムに対して、親父は自分も辛い想いをして、苦労してきたのだから、お前も辛い思いをしろと言って、貸さなかった.
牛乳を分けてもらいに来ても、豚に与える牛乳があっても、嫌だという.更には、わざと野菜畑を荒らしに来て困らせる.
助け合う事とは無縁の、意地悪な二人だった.
けれども、大鯰がかかったとき、親父は勝手に手助けに来た.そして、俺が鯰を捕まえた、と、言いたかったらしい.

隣の農家の娘 (優しく接する女性.さりげなく助けようとする女性)
サムが尋ねて行くと、やっと隣人ができた、と、彼女は嬉しそうだった.
男二人に対して、娘は、さりげなく牛乳を渡そうとする、優しい心の女性だった.

居酒屋の親父と客を引く女
お釣りをごまかす親父と、ふられた腹いせにインチキ親父に味方した女は、意地悪な奴等.
釣りを返さないのがわざとであれば、物を投げ合って店を無茶苦茶にしてしまうのもわざとであり、女まで店を壊していた.
サムが石をぶつけてティムを助け、その後、さりげなく二人は逃げるけれど、この辺が、さりげなく助けると言ってよい良いのかしら?

子供の病気
食料のない困難な冬を、家族で助け合って乗りきった一家だったけれど.
春になり、畑を耕し終えて種まきを済ませ、やっと困難を乗り越えたと思った矢先に、子供が病気になった.
大地に平伏すノーナ、サムも耐えきれなくなって、天に向かって愚痴を言い放ったのだけど.けれども、サムの母親に惚れていたらしい、雑貨屋のハーミーの助けによって、困難を乗り越え、綿の実りを迎えることができたのだった.
『名前はウォルターにするわ』、酒場の女より優しい雌牛の助けによって、子供の病気も良くなったようだ.

結婚式と豪雨
その夜の豪雨は、収穫前の綿花をわざと狙ってきたかのように、洪水となって畑の収穫の全てを奪い去った.
洪水という自然の意地悪の前に、一度は農夫を続けることを断念しかけたサムだったのだけど.皆で協力して後片付けをしている家族、その姿の中にあるさりげない愛によって、彼は再び農夫を続ける勇気を取り戻したのだった.
『おまえは根っからの農夫だけど、おれは工場で働くことが好きだ』
都会で働く者は田舎で農夫の作った物を食べ、農夫は工場で作られた農機具で畑を耕す.自覚はなくても、いつでも皆が助け合って生きている、あるいは協力し合って生きている.その心は、一緒に暮らす家族のさりげない愛と同じものなのでしょう.

もう一度デイジーちゃん.この子の表情はいつでも素敵.
コートがなくて学校へ行けないので、お婆さんの毛布を取り上げコートを作る.コートが縫い上がって「似合うよ」これは母親、お婆さん、どちらの言葉なのでしょうか.テイジーちゃん、お婆さんの方を振り向いてから、それから母親の方を見て嬉しそうな表情.なんと言おうかしら、意地悪の反対の心を全て含んだ笑顔、こう言っておこう.

愚痴ばかり言って困らせる祖母も、洪水の後片付けを手伝った.さりげなく助け合う愛情に満ちた家族、ティムの言葉を借りれば、自然と心の暖まる家族を描いた映画でした.
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意地悪
わざと人を困らせたり、つらくあたっていじめたりすること.(大辞林)

『わざと人を困らせる』に対しては『さりげなく人を助ける』
『つらく当たる』に対しては『優しく接する』
『いじめる』を、私なりに補足すれば、
『強いものが弱いものを困らせること』であり、それに対しては、『強いものが弱いものを守ること』

ジャン・ルノワールは、辞書を引くように、自然な人の心を自然に描き上げています.


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