。三連休。持ち帰り仕事と、Amazonで注文していた専門書が届いて、結構、充実した?時間を過ごしました。で、何となく思いついた、何てことないネタでの小話です。
衣替え
10月になり、さすがに秋風が桜宮市に吹き始めた。速水家の愛うさぎのありすも、夏毛の間から冬毛がちらほら顔を見せ始めた。
そんな連休のある日。田口は珍しく仕事場大好きの不精者のくせに、今日はせっせとタンスの中を整理していた。
「これはクリーニングかぁ。こっちのは洗濯しておけばいいか…」
引っ越し用の段ボールを右手と左手の先に1つずつ置いて、取り出した夏物をポンポンと放り投げる。着るものに全く頓着しない田口も、さすがに衣替えはしないと困る。なので、今日は夏物と秋物の入れ替えを行っていた。
基本、田口は洗濯可の服は、ほぼ全て洗濯機に入れていた。と言うのも、それぐらいできないはずはないぐらい高性能な洗濯機がどーんと洗面所にあるのだ。
実は洗濯機が壊れたとき、田口は東京主張で不在だった。で、「洗濯機が壊れたーっ!」と慌てて連絡してきた速水に買い換えを頼んだら、えらく高性能の機種が届いて……びっくり。しかも、値段を聞いて、二度びっくりした。さらに、機能が多すぎるため取扱説明書があまりに厚くて、今もって、洗濯機の横に立てて読まないと使えなかったりする…。が、使わなければ、持ち腐れというわけで、田口は日夜、洗濯機の性能をチェックしていた。
てきぱき。自分の分を適当に分けた後、田口はもう一度、それぞれの箱に入った服を確認した。後は速水のものをまとめて、一気にクリーニング屋に頼むとお得意様特典で、2割引になるのだ。
「よし。これでオッケー。で、速水は…」
と田口がオレンジ新棟の若きジェネラルを探すと…。
「この毛を集めたら、ふわふわの枕ができるかなぁ。ありすぅ」
あのジェネラル・ルージュはどこ? と、誰もが目を背けるだろう情景がリビングの床で展開されていた。
速水はのんびり床に寝転がって、愛うさぎを抱き締めながら、半分、夢の世界だ。いや、幼児化していた。滅多にない休みをごろごろ速水がするのは、速水の勝手だが、するなら、することをしてからして欲しい。が、今日の田口だ。
「速水! ありすの毛を引っこ抜くな! するなら、ブラッシングをして、毛はまとめてゴミ箱に入れろ。そんな風に摘むと、あちこちに毛がふわふわするだろう!」
速水が喘息を持っているのを知っているだけに、田口の剣幕は本気だ。うさぎの毛で発作が誘発されるような速水ではないと知っていても、季節の変わり目だ。何がきっかけで発作を起こすか分からない。
「いちいちうるさい奴…」
「え?」
「だーかーらー、お前は細かいって…」
ありすを胸に乗せて、ぶちぶち速水が文句垂れる。その態度が、今の田口にはかちんと来た。
「でもって、お前はひとりで無茶して自滅するんだよな!」
田口は速水の前に、仁王立ちすると怒鳴った。その勢いに、ありすがぱっと速水から降りて、自分のケージに逃げ込んだ。
「あっ、振られた。行灯がでかい声出すから、ありすがびっくりしただろうが…」
拗ねた目と口調で、速水は田口を見上げた。そのどこか甘えたような目を、田口は無視する。今日は何としてでも、衣替えをしたいのだ。
「出させたのは誰だよ。俺が悪いのかよ。え?」
いつになく田口は強気だ。
「…行灯が反抗期だ」
「誰が反抗期? 俺が反抗期なら、お前は退化だ。ぶちぶち言う暇があるなら、早く衣替えしろ。今日中にクリーニングに出すんだからな」
田口は自分の段ボールをドンっと、速水の横に置いた。
「お前も早く整理しろ。しないと、俺が勝手にするぞ。それでもいいのか?」
「…自分でします…」
速水はすごすごと立ち上がった。まだ、日中は暑いので、半袖でも十分だ。というのは、季節を大事にする田口には通用しない。しかも、田口に服の整理をされた日には、莫大なクリーニング代が掛かるというのを、速水は身をもって知っている。これが田口の愛だとしても、速水はたかが服のクリーニングにン万円も掛けたくないというのが、本音だったりする。
(あーあ。ありすはいいなあ。天然の毛皮だから、夏服だ、冬服だと着替えなくていい。しかも、寒くなるとちゃーんと防寒対策も自動でできるなんて…。俺もうさぎになりたい。)
と、田口の視線に追い立てられながら、服の整理をする速水は、かつての『東城大の猛虎』という姿はどこにも見つけられなかった。
★ 夏物をクリーニングに出そうと思ったら、冬物を春に出したままで取りに行っていないのを思い出したLunaです。うーん。7月には取りに行きますと言ったのに、そのままにしていた…。近いうちに、出しそびれた冬物を持って行かなくては…。だって、衣替えシーズンで割引になるから…。