それで、20年前の出来事を思い出し、再び詳細な話を夫にしたのだった。
夫は出張に行ったまま、長期間帰らないことがよくあった。冬場などは、自家用車は家に置いていくので、車のバッテリーが上がってしまわないように、週に1度エンジンをかけるよう言われていた。
大雪の降った日の翌日などは、駐車場の雪かきをしてからの作業となる。
その日も、エンジンをかける前に大量に降った雪をかく作業をしていた。
その時私は、夫が置いていった作業用のジャンバーを着ていたのだが、普通の防寒ジャンバーとは表地が違っていた。ザラザラとした手触りで、まるでサンドペーパーみたいだなと思うほどの変わった生地だった。
我が家の車の両隣にはそれぞれの家の車が駐車中で、他所様の車に傷を付けないよう気をつけながら雪かきをした。
やがて雪かきを終えて、ふと隣に駐車されている車のサイドミラーを見ると、私のジャンバーが触れた辺りに、擦れて塗装がはげている部分があることに気づいた。
私だろうか。物をぶつけたりはしていないが、狭い場所を行ったり来たりした。ああ、やっぱりこのサンドペーパーみたいなジャンバーの生地が、傷を付けてしまったみたいだ。大失敗。このジャンバーを着なければよかったと後悔した。
しかしもはやどうすることも出来ない。ありのままの事実を伝えなければと覚悟を決め、駐車場の車がどなたのものなのか、管理人さんに聞き、菓子折りを携えてお詫びに行くことにした。
塗装にどれだけの費用がかかるだろうかと、弁償する金額が気になった。
夕方だったが、ご主人はまだ帰宅していなかった。奥様に事情を正直に話して、お詫びした。すると奥様は「あれは会社の車だから大丈夫」とあっさりしたもので、弁償の必要もないと言った。心底ホッとした。
以上の話は20年ほど前、一度夫に話していたのだが、話し終わると夫は、「ジャンバーの表生地で車に傷がつくということは絶対ない」と断言した。
「えーっ、そうなの?でも、サンドペーパーみたいな生地のジャンバーだったよ」と説明するも、あり得ないと重ねて言った。
では、あのサイドミラーの横についていた傷は、前からついていたものだったのか?それだったら、菓子折り持参しなくてもよかったのか。とんだ早とちりだったようだ。
20年前の話をして、意外な真実がわかった日だった。
私には「何の罪も無かった」という身の潔白が証明されたが、菓子折りを買う必要が無かった事が家計をつかさどるものとしては今更ながら残念。損したー。
物事には「慎重な検証、確認、判断」を欠かしてはいけないということを改めて学んだ。そしてあの時、先ず夫に報告して判断を仰げば良かったのだ。そこを飛ばして、独断で行動したのが誤りの始まりだった。ま、それがいつもの私のスタイルなのだが、遅いけど、これからはそうしようと心から思ったのだった。