「転居しました。」と一瞬読んだが、「転」の字の右側の「云」が抜けていた。抜けているにもかかわらず、脳が予測して読んでしまった。「云」がなくても「云わずもがな」で察したと言ったところだろうか。
先週の出来事だが、気温30度超えが続いた日、同じ棟の誰かが、階段の踊り場にある窓を開けた。
暑さに耐えられず、何とか風通しの良い状況を作ろうとしたものと思われた。それは全く問題のないことなのだが、日が落ちて電灯がついても窓は開いたままだった。
すると、当然電灯の明かりに誘われて、昆虫の類が入ってくる。
翌日の朝になると誰かが窓を閉めるのだが、閉じられた窓には屋内に入り込んだ昆虫が、外に出ようと窓に集まっているという状態だ。
丁度私が階段を下りていた時、踊り場の窓に蜂がいた。
そのままにしておくと、きっと蜂は死んでしまう。
蜂を刺激しないようにそっと窓を開け、外へ逃がした。
その翌日も2匹の蜂。また窓を開けて逃がした。
我が家に侵入したハエ等に対しては、家宅侵入罪でハエ取りリボンによる“貼り付けの刑”だが、我が家以外の場所では昆虫に優しい私だ。
昆虫を助ける時いつも私の頭に浮かぶのは、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のお話。
極悪人だが一度蜘蛛に情をかけ殺さなかった男が、地獄に落ちた時に、救いの蜘蛛の糸が天上から垂れてくる。
そんな風に、私が地獄へ落ちた時、蜂が助けてくれないかしらと、見返りを期待するそんな下心もあったかも知れない。
夫は窓の蜂に気づきながら助けることは無く、「虫が入ってくる」と、しきりに夜間窓を開け放す住人の批判を繰り返す。
私は夫ほど問題にはしていなかったが、文句ばかり言って行動しない夫に少々ウンザリ。
私は、窓を開けっ放しにする人に貼り紙で要望を伝えることにした。
「窓を開けた方は、夜間、虫が入りますので、必ず閉める様お願い致します。」
手近にあったピンク色の西洋紙に書いて、踊り場の窓のすぐ下にセロテープで貼った。
貼り紙を貼った翌日、30度超えの日にもかかわらず、階段の窓は開かなかった。
貼り紙にビビったのかな?と思った。
更にその翌日、窓は開いていたが、私の書いた貼り紙が無かった。
夫がはずしたのか、或いは、管理人さんが外したのだろうかと思った。些末な事なので、夫に確認もしなかった。
貼り紙をしてから3日目、窓は閉まっていたが、昨日無かった私の貼り紙が貼られていた。謎だー。
ミステリーは、やっぱり必然的に推理してしまう。
恐らく窓が開いた日、開けた人は貼り紙を外して家に持ち帰ったのだと思う。それは夜間、窓を閉めるのを忘れない様に、リマインダーとして利用したのでは無いか?そして閉める時に、再び貼り紙を貼ったのではないか。そんな事を憶測した。それ以外考えられ無かった。
もし、そうだとしたら、何だか「チャッカリ屋さん」だなぁと思った。
何れにしても、こちらの気持ちは伝わったようなので、用済みと思い貼り紙を処分した。
それ以降は、夜間の窓の開け放しは無かった。
平和的に解決して心から安堵した。