Toshiが行く

日々の出来事や思いをそのままに

ああ青春

2024-06-12 06:00:00 | エッセイ

 

 

Mとは高校の3年間同じクラスだった。

彼は高校を卒業すると、すぐに就職し社会人になったせいか、

まだ大学の4年間を過ごさなければならない青二才のこちらに比べ、

〝大人度〟に随分と差がつき、ひどくませた奴に見えた。

 

大学2年の時、「春休みに遊びに来ないか」との手紙が届いた。

彼が就職した先は兵庫県の三宮。

長崎県から県外には一度も出たことがなかったから

「行く」の二つ返事だったのは言うまでもない。準急に飛び乗った。

ポケットには帰りの汽車賃ほどしかない。「俺に任せておけ」との言葉が頼りだった。

三ノ宮駅で迎えてくれた彼は、そのまま神戸市街、六甲山などを連れ回した。

つれづれ、どんな社会人生活を送っているか話してくれたが、

それは会社勤めをしている兄たちの話し方と変わりなく、

自分がひどく子供に思えたものだ。

 

    

 

社会人になってまだ2年ほどしかたっていないのだから、

それほど金があるはずはない。そこらあたりの定食屋で夕食を済ませた。

さて、寮に行ってゆっくり談笑するのかと思ったら違った。

「ちょっと、ここへ行くぞ」彼が指さしたのは、何とストリップ劇場だった。

彼は慣れた足取りで劇場へ向かうが、未体験のこちらはどうしていいものやら、

ためらってしまう。

だが、未成年という倫理観より好奇心がまさった。

彼の後ろから、おずおずと劇場へ入っていった。

 

後方の立ち見から見るステージは華やかで、ただただ驚くばかり。

すると、どこぞのお兄さんが寄ってきて、

「兄ちゃんたち、ちょっと顔かせや」とトイレに連れ込まれた。

「この写真、どや。5枚で300円にしとくわ」。

彼は物おじせず、「兄さん、もらっとくわ」いともあっさり、

その写真を内ポケットにしまい込んだ。

 

頬をほんのりさせながら劇場を出ると、またまた驚かす。

「さて、どこに泊まろうか」というのである。

「お前の寮じゃないのか」と聞けば、「寮は狭くて2人は寝れない」と言うのである。

結局、落ち着いたのは連れ込み宿だった。

「こんばんは」と戸を開ければ、応対に出てきたおばさんがきょとんとしている。

若い男2人連れとあれば、さもあらん。

案内された部屋には、ダブルベッドがでんと待ち構えていた。

「写真見るか」と言われ、どれどれと手に取ったものの、

何がどうなっているのか、さっぱり分からない。

それが分かるようになったのは、もう何年も後のことだ。

初めてベッドを共にした相手がMだったなんて……。

遠い遠い昔、まさに青春の1ページであった。

 

 

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2 コメント

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Unknown (hanakonoantena20220612)
2024-06-14 11:29:26
こんにちは☺️。

目に浮かぶような情景描写でした👍。
返信する
Unknown (Toshiが行く)
2024-06-14 16:55:29
hanakonoantena20220612さん ありがとうございます。
60年前のことを今も鮮明に覚えているんですね。
余程インパクトのある思い出だったんでしょう。
返信する

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