いよいよリーグのシード神奈川との全勝対決である。
チーム状況は、前日の大逆転劇の余韻も冷めやらず、選手たちからは「今日はやるぞ」というようなオーラを感じ、朝からいい雰囲気である。
相手の神奈川は、今年の全日本実業団3位のリコーから瀬山(中大卒・22年全日本混合Wチャンピオン)桑原(筑波大卒)の二人、あと一人は信号機材の飯野(専大卒)であり、わが岩手3選手とも大学の先輩である。今までこの神奈川の選手たちと試合をすると5回に1回勝てるかどうかと言っており、誰もが実績ではどうも歯が立たないのであるが、大野は中大、星と北原は専大の現役でなのでお互い手の内は知っており、昨日からのこのままの勢いで若い彼らの潜在能力が発揮できればあれば、ひょっとして何かが起きるのではと、監督として一縷の望みは抱いていた。
オーダーは、1番大野対瀬山、2番北原対桑原、3番星対飯野、4番大野対桑原、5番北原対瀬山である。前半が勝負であり、出来ればラストまで回さず、3-0か3-1で勝ちたいと思っていた。
いよいよ試合開始である。
1番の大野は、先輩の瀬山に対してまったく臆せず真っ向からの勝負を挑みフォア対フォアのドライブ戦を制し、第3セットは相手の意地に落としたが、4セット目もまさに相手を圧倒する横綱相撲を見せ圧巻の勝利で幸先の良い1点を岩手にもたらし、チームに勇気と「やれるぞ」という雰囲気を作ってくれた。
2番で出た北原は、先輩大野に刺激されそのいい流れで桑原に対し1セット目を15―13で奪い、2セット目は7点で落とし3セット目は7点で奪取、4セット目を7点で落とし2-2のタイとなり、いよいよ最終5セット目である。
出だしが勝負と思っていた。北原はその意図を組んだかのように素晴らしい出足でリードを最後まで保ち結局3点で勝利、岩手に貴重な2点目をもたらしたのである。
3番手の星は、昨年まで専大のリーグ戦メンバーで全日本実業団ベスト8の信号機材の中心として活躍中の先輩飯野に挑み、第2セットを取り果敢に攻めたが4セット目を11―13で落とし、健闘したが1-3で先輩の軍門に散った。
しかし、この星の最後まであきらめないがんばりは、岩手の良いムードに影を落とすことなく次戦に繋ぐことが出来たことは、チームにとって本当に大きな貢献であったのである。
そして、4番大野の登場となる。
相手は桑原、2番での負けを取り戻そうと必死の戦いを挑んできた。
1セット目を6点で取り幸先良いスタートを切ったが、2セット目を11―13で落とし、3セット目は9点で取ってチーム勝利に大手をかけたが、4セット目は反撃に合い7点で落とした。
いよいよ運命の、最終5セット目である。
北原同様、出だしが勝負だと思っていた。常に先手を取り思い切ったプレーをする大野は、チェンジコートを挟んでもその手を緩めず、10-6運命のマッチポイントである。 勝利の瞬間!信じられない思いと、「やった!」という思いが交錯し、私の心は一瞬どこかへ飛んでいた。
実は勝利の最後となったプレーを私は、まったく覚えていないのである。
ただ、終始一生懸命声をからして応援していてくれた、岩手県の役員川口副会長と塚田先生が観覧席から走りながら手を振ってくれた姿を見て、やっと勝利を実感できたくらいであり、私は思わずその二人に対して右手でガッツポーズを送り返していたのである。
成年男子県勢悲願の入賞であり、43年ぶりの快挙がここに達成された瞬間である。
素晴らしい若い選手たちの、潜在能力・可能性の高さには本当に驚かされたし、このすごい瞬間に立ち会えたことは、私の卓球人生にとって、ことにも指導者としての私の経験の中に燦然と輝くものであり、関係者の皆さんに感謝するとともに「努力を続けていればいつかは報われるのだ」ということを、身をもって経験できたことは今後の卓球人生に大きな影響をもたらす勝利であった。