先日の休みに映画を観てきた。
オダギリジョー主演の歴史ドラマ、“エルネスト もう一人のゲバラ”だ。
原題は“Ernesto”、原案はマリー・ソラーレス氏とエクトル・ソラーレル氏の共著、
“革命の侍 ~チェ・ゲバラの元で戦った日系二世フレディ前村の生涯~”。
キューバ革命の英雄、チェ・ゲバラ没後50年を記念して制作された、日本キューバ合同作。
チェ・ゲバラのボリビアにおける最期の戦いで、彼とともに戦った、実在した若き日系人の物語。
監督は、亡国のイージス,人類資金の阪本順治氏。
キャッチコピーは、“世界は、変えられる”。
チェ・ゲバラといえば、ベニチオ・デル・トロが主演の、
“チェ28歳の革命”,“チェ39歳別れの手紙”の二部作映画を10年ほど前に観た。
この映画でキューバ革命~ボリビア戦線と、革命戦士チェの戦いの生涯を知った。
1962年、アメリカとソビエトの確執によって生じた全面核戦争危機、キューバ危機。
それくらいでしか教科書に登場しなかった、カリブの島国キューバ。
そのキューバが革命によって社会主義国として誕生したこと、
アメリカと半世紀以上に渡って対立することになった経緯など、この二部作の映画で知ることができた。
ベニチオ・デル・トロ主演の、チェ28歳の革命/チェ39歳別れの手紙の二部作DVD
星のマークが入ったベレー帽に、むさくるしいヒゲ、遠くを見る強いまなざし。
これまでポスターとかTシャツのデザインなどで頻繁に見かけはすれど、
それが一体、何者なのかすら知らなかった、チェ・ゲバラという男を知った。
恥ずかしながら、その映画を観るまで、この人物の存在を知らなかった。
教科書のキューバ危機の内容には、
フィデロ・カストロは登場しても、チェ・ゲバラは登場していなかったように思う。
チェ・ゲバラを扱った映画では、チェ二部作以前に上映された、
革命に至るまでの若き日々を描いた、
“モーターサイクル・ダイアリーズ”も観るべきだろうが、これはまだ観ていない。
いずれ観たいと思っている。
映画館で、今回観た映画、“エルネスト”のチラシを初めて見たとき、
そのタイトルで、チェ・ゲバラが題材の映画なんだと、ピンと来た。
チェは愛称であって、彼の本当の名前は、“エルネスト”。
本当の名前はすごく長いが、大抵の場合、略称を含め、“エルネスト・チェ・ゲバラ”とされることが多い。
チラシを見ると、案の定、チェ・ゲバラらしき人物、その手前には日本人の兵士の姿。
今回主演のオダギリジョーが、若き革命戦士として、ゲバラとともに写っていた。
サブタイトルには、「もう一人のゲバラ」とあった。
なんだこれ?
内容が気になって、いつもはあまり読むことのない、裏面の物語詳細を読む。
ボリビア戦線に参加した、ひとりの日系人が居た。
彼はゲバラ本人から、“エルネスト”の名前をもらったと――。
すぐに前売券を購入したのは言うまでもない。
時は1962年のキューバ。
ソビエトをはじめとする社会主義国家と、
アメリカをはじめとする資本主義国家が対立する東西冷戦まっただなか。
ボリビア出身の日系人の青年、フレディ(オダギリジョー)が、キューバのハバナに降り立った。
庶民が貧困にあえぎ、医療も発展途上な祖国のために、
医者になる決意をしたフレディは、ボリビアからの医学留学生として、
幼馴染のグスタボ(ルイス・M・アルバレス)と共に、
フィデル・カストロが創立した、医科大学入学をめざし、
その予備過程を学ぶための寄宿舎に入る。
第二次世界大戦後、当時の世界情勢は、
アメリカ主導の資本主義国と、ソビエト主導の社会主義国によって派閥が別れ、
それぞれ、経済や外交、教育から、
軍事開発,宇宙開発、そして核・原子力開発など、激しく対立していた。
発展途上国や、どちらつかずの第三国を取り込むために二大国は躍起になる。
アメリカに近い中南米の国々はアメリカ側に取り込まれる。
力ある者を引っ張り出して、アメリカ依りの傀儡政権を築きあげる。
アメリカから資本がやってきては、工業から農業まで全てを牛耳られ、
その政府は必然的に独裁政権となり、民衆は搾取され続けて貧困にあえぐ。
その体制を革命によって打ち壊したのが、カストロとゲバラの行ったキューバ革命。
それ以前のキューバは、新米家のフルヘンシオ・バティスタが大統領となり、
アメリカの援助で私腹を肥やした傀儡政権で、絵に描いたような独裁政権が敷かれ、
そんなバディスタ政権を打ち砕かんと立ち上がったカストロの民兵ゲリラ組織に、
若者らが志願兵として多数参加、政府軍を圧倒しバティスタはドミニカへと亡命。
こうしてキューバ革命は果たされた。
フレディは予備過程を修了し、無事、医大へと入学することができた。
新たな友人も増えて、いよいよ始まった医者への道。
だが、その医大入学直後に事件は起きる。
最高潮に達した東西冷戦。
キューバにソビエトがミサイル基地建設を始めたことをきっかけに、
アメリカがキューバ周辺の海域を封鎖して封じ込め、
キューバにおいて、ソビエトとアメリカ、一触即発の全面戦争の危機が訪れる。
のちにキューバ危機と呼ばれる事件だ。
キューバにおいても、反米意識が頂点に達する。
バティスタ政権時、米資本によって苦汁を舐めてきた市民たち。
革命によってようやく、それから逃れることができた。
それが再び、米国によって脅かされようとしている。
しかも今回は直接、アメリカがキューバ本土を攻撃してくる!
首都ハバナにあって、官営で大きな施設であるフレディの大学も、
この戦時体制において重要基地へと変貌する。
学業は中断され、他国からの留学生たちはいっせいに帰国する。
フレディは祖国ボリビアでの現状をみて、アメリカのやり方に強く反感を抱いていた。
革命以降のキューバに憧れを抱き、カストロに直接会って感銘を受けたこともあり、
ボリビアへは帰らず、キューバのためアメリカと戦う道を選ぶ。
フレディのみならず、多数の若者が志願兵として列を成すのだった。
フレディと仲間たちは戦闘訓練を経て配備される。
海岸沿いの見張りの砲台で警備の任に就く。
偵察,挑発のため、米軍機が飛来してくる。
これに逐一、対空砲者を浴びせる。
だが、決して弾を当ててはならないと上層部からの命令。
アメリカは攻撃開始の口実を待ちかまえているのだという。
その証拠に米軍機からは爆撃などが一切ないのだ。
一日一食24時間体制で、見張りを続けるフレディたち。
だが、突然危機は去り、志願兵たちは解任される。
ソビエトがミサイル撤去をはじめたことで、アメリカとの戦争はなくなったのだ。
ソビエトとアメリカとの都合で、キューバは戦争の危機に巻きこまれ、
キューバ抜きのソビエトとアメリカの勝手な合意でそれがなくなる。
アメリカとの関係も、もはや改善できないほど悪化してしまった。
キューバをないがしろにされたことでフレディは激高してしまう。
再び医大生に戻ったフレディ。
厳しい学業もこなし実習も重ねて、着々と医師の道へと邁進する。
ある日、キューバ革命の英雄、チェ・ゲバラ(ホワン・ミゲル・バレン・アコスタ)が、
突然、大学を訪問してくる。留学生たちとの交流目的だった。
ゲバラは気さくに学生たちの質問や要望に耳を傾ける。
そんな英雄の尊大さに、フレディは感激するのだった。
あと一歩で医師となって祖国ボリビアへ帰国できるというとき、
そのボリビアで軍事クーデターが発生する。
先に革命によって民衆が支持するパス政権が樹立していたものの、
その大統領がアメリカの指示する軍によるクーデターによって失脚。
新たな軍事政権は、かつてのアメリカ傀儡政権で民衆を虐げる独裁支配へと戻っていった。
すでに共産国として機能していた産業を次々と軍部が接収していき、
それに抵抗した農民や鉱夫たちが虐殺される。
その頃、ゲバラは、キューバをカストロ兄弟らに託し、自らは再び戦場に身を投じていた。
「今、世界の他の国々が、僕のささやかな助力を求めている――。」
動乱後のアフリカ、コンゴで革命を支持していたが、ボリビアを優先するため、
ふたたびキューバへと戻り、極秘裏に支援隊を募ってボリビアでの戦いの準備を始める。
祖国の動乱を知るフレディ。
いてもたってもいられなくなり、同郷の学友である、ホセ(アルマンド・ミゲール)とともに、
学長を説得し、誰にも別れを告げることなく、ひっそりと医大を退学した。
ボリビア革命支援隊に入隊し、厳しい訓練を受ける。
その合否判定、フレディはゲバラと再会する。
「戦地では本名で呼び合わない。」
そう言ってゲバラが、フレディに新たな名前を付ける。
「今日から君は、“エルネスト・メディコ”だ。」
ゲバラと同じ名前をもらった、フレディ改め、エルネスト。
“メディコ”とは、“医者”という意味。
同じく、医者だったゲバラが、似た境遇のフレディに親しみを込めてそう名付けたのか?
憧れの人物から、その戦士名を授かったエルネスト。
ゲバラとともに、ボリビアの地へ戦いに赴く。
すべては愛する祖国のために、彼らはなけなしの命を散らす―。
面白かった。
恋愛要素含むフィクションの部分も含め、主人公のフレディに焦点を置いているため、
チェ・ゲバラやフィデル・カストロら、キューバ革命の英雄たちや、
ボリビア戦線でのゲリラ戦の、戦闘シーンなどに期待していると、がっかりするかもしれない。
個人的には、世界史だったか政治経済だったかで習った、
キューバ危機のときのキューバ国内の情勢が色濃く描かれていて良かったし、
ゲバラのお忍び広島訪問のシーンも、すごく臨場感ある再現でよかった。
冒頭にも書いたが、チェ29歳の革命,39歳別れの手紙、二部作を観て、
キューバ革命ならびに、チェ・ゲバラに興味を持った者としては、
これは観ておくべき作品だったことは間違いない。
逆に、これらに興味ない人が観ると、非常に退屈な映画だったかもしれない。
フレディ・マエムラ・ウルタード(エルネスト・メディコ)を演じた、
主演のオダギリジョーがすごく良かった。
スペイン語のウマヘタは、あっちの人にしか判断できないが、
向こうの役者さんに混ざって、すばらしい演技を見せてくれた。
日焼けして髪をパーマにして、いちおう日系二世らしく外観も役作りしていたようだが、
やっぱりちょっと違和感があるのは仕方がないか・・・。
実際のフレディ氏は、日系二世とは思えないほど日本人っぽくなかったりする。
ボリビア人の母親の血の方を多く受け継いだようだ。
チェ・ゲバラ役の俳優さん、ホワン氏も良かった。
キューバではミュージカルダンサーや、テレビ番組の司会者として著名な方らしい。
物静かでありながらも、気さくでユーモアもある。
そんなゲバラ像を、ばっちり演じておられた。
チェ二部作でゲバラを演じた、ベニチオ・デル・トロの危機迫る演技も素晴らしかったが、
今作でのホワン氏の静かでありつつ存在感バツグンの演技も素晴らしかった。
広島でのシーンで、ゲバラにインタビューした、
中国新聞社の実在した記者を演じたのが、永山絢人。
NHKの連ドラ、べっぴんさんで初めて見た若手俳優さん。
当時、総理大臣もたったの10分しか面会せず、
誰も気にもしなかった、小さな島国キューバの大使に、ひとり興味を示してインタビューする。
原爆ドームや平和資料館を視察して、ゲバラが彼に言い放つ。
「アメリカにこんなひどいことをされて、日本はなぜ怒らないのか?」
それを聞いて、動揺して返答に困ってしまう。
冒頭のそのシーンの彼の演技がすごく印象的だった。
あと、ラストのスタッフロール、英語でキャストが流れ、
そこで初めて彼の名前が、「けんと」と読むのだと知った。
今までずっと、「あやと」だと思っていたよ。
前売特典でもらったクリアファイル。
裏面はなんと、安彦良和氏描きおろしだ!
フレディがハサウェイにしか見えないっ!
チェ39歳別れの手紙でも、フレディ・マエムラが登場する(右端)。
こっちの方が実物に似ている。
今頃記事にしたが、10月半ば公開されてすぐ観た。
11月末の今現在、おそらくほとんど公開終了しているだろう。
DVDが出たら、もう一度観ておきたい。
フレディがボリビア戦線に身を投じるラストは、
チェ二部作の、39歳別れの手紙にも登場した人物も出るし、
その辺を照合しながら併せて観直したいと思う。
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