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焼肉ドラゴン

2018-07-13 23:12:17 | 映画

先日の休みに映画を観に行った。

高度経済成長期の在日韓国人一家を描いたドラマ、“焼肉ドラゴン”だ。

監督は劇作家の鄭義信氏。

原作は鄭氏が制作・演出した舞台で、その映画化作品。

鄭氏にとっては初映画監督作品。

キャッチコピーは、“何があっても、本気でぶつかり、本気で生きた。”

 

 

何だこのタイトル?

映画館でチラシを手に取ったときの第一印象。

中央に大泉洋、真木よう子や井上真央らも写っている。

パッと見、昭和40年代の下町人情劇のようなものを想像した。

しばらくして予告編を観ると、在日韓国人一家の物語だと知る。

なるほど、それで焼肉なのね。

 

昨今芳しくない日韓関係、この時期にこのような映画を公開するなんて、

作り手側の、なにか恣意的なものを感じずにはいられない。

興味はあれど、なんとなく二の足を踏んでいた。

だが、タイトルが“焼肉ドラゴン”だ。

そこまで深く考えずに観ることができるコメディかもしれない。

大泉洋が主演っぽい扱いなのもそのためか?

そんなこんなで、けっきょく観ることにした。

 

 

1969年。

伊丹空港近く。

在日韓国人達が身を寄せ合って暮らしている地域。

その一角で、焼肉店を営業している一家があった。

店主、龍吉(キム・サンホ)の名前から、“焼肉ドラゴン”と呼ばれ、

同じ地域に住む、在日韓国人の常連客でにぎわっていた。

 

龍吉と妻の英順(イ・ジョンウン)には三人の娘と一人の息子がいた。

しっかり者の長女、静花(真木よう子)と、気の強い次女、梨花(井上真央)、

そして、歌と踊りが大好き奔放な三女、美花(桜庭みなみ)。

龍吉と順英は再婚同士。

静花と梨花は、龍吉の連れ子、美花は順英の連れ子。

末っ子の長男、時生(大江晋平)のみ、二人の間に生まれた子だった。

 

 

次女の梨花は、幼馴染で同じく在日コリアンの哲男(大泉洋)と婚約し、

この日、市役所へ婚姻届を提出し、晴れて夫婦となるはずだったが、

哲男が市役所の職員とモメて、それが叶わず。

焼肉ドラゴンで予定していた祝賀会は、哲男と梨花、

それに英順や静花も加わって大げんかになってしまう。

そんな騒動が日常茶飯事であるかのように関知せず、

末っ子の時生は屋根の上から景色を楽しみ、龍吉もまた息子と一緒にその景色を楽しむ。

 

 

時生は中学生。

受験に受かり、私立の有名進学校に通っているが、

在日ということで酷いイジメに遭い、学校に行きたがらず、とうとう失語症に陥ってしまう。

 

長女の静花は、子どもの頃に大けがをして、片足が不自由になる。

その原因をつくったのは、幼馴染の哲男であり、哲男はずっと負い目を感じている。

哲男は次女の梨花と結婚することになったものの、静花のことが好きで、

静花もまた、哲男のことが好きでいた。

哲男の静花への罪悪感と、静花の妹を想う気持ちで、ぎくしゃくしていた。

 

 

三女の美花は、ナイトクラブで働く長谷川(大谷亮平)と交際していた。

だが、長谷川は妻帯者で、ふたりは不倫関係。

長谷川は近い将来、離婚して、美花と再婚すると約束していた。

だが、英順はふたりの結婚を頑なに反対していた。

 

働きもせず、昼間から常連客と飲んでばかりいる哲男。

そんな哲男にうんざりして、常連客の日白(イム・ヒチョル)と情事に走ってしまう梨花。

哲男と梨花を気遣い、常連客の大樹(ハン・ドンギュ)と婚約する静花。

娘たちのいざこざや、イジメを受ける時生に悩み、感情を露わにして激しくぶつかる、英順。

何があっても静かに構え、やさしく厳しく家族を見守る、龍吉。

 

そんな騒々しい一家が、やがて時代のうねりを受けてバラバラになってしまう。

朝鮮戦争での特需から始まる、日本の高度経済成長期。

東京オリンピック、大阪万博、日本が華やかで輝かしく発展していくなか、

その影で、つつましくもたくましく生きる在日朝鮮人たち。

とある家族の愛と絆の物語。

 

 

 

面白かった。

悲壮感ただようものでもなく、社会的にメッセージを投げかけるようなものでもなく、

在日韓国人の立場上、不条理な扱いを受ける場面もあるけれど、

それでも、それを物ともせずにたくましく生きる人々の姿が、

生々しくも、面白おかしく描かれていた。

 

とはいえ、コメディに走っているわけでもなく、

最悪な結末を迎える人もおり、

のちの歴史を知れば、その行動が間違いだと判るひとたちも居る。

韓国人らしい、むき出しの感情がぶつかり合う、人間味のあるキャラクターたち。

それが織りなすストーリーが、とても日常的で滑稽だった。

 

 

差別を受ける在日韓国人。

戦争によって職を求め日本へと逃げてきた韓国人。

逆に帰国支援事業で、夢を抱いて北朝鮮へと旅立とうとする在日韓国人。

時代に翻弄される人々がうまく描かれていた。

 

この舞台となった町の様子が、なんとなく理解できてしまうのは、

自分の生まれ育った町も、もと炭鉱町で、

自分が子どもの頃には、そこかしこにボタ山が在り、

ボロの貧乏長屋が軒を連ねていて、ならず者がたむろしていた。

その名残は未だに色濃く残っている。

 

 

俳優陣の演技が素晴らしかった。

真木よう子をはじめ、三姉妹はもちろん良かったけれど、

それよりも何よりも韓国人キャストが凄かった!

とくに、オモニ役のイ・ジョンウンさんとアボジ役のキム・サンホ氏の二人は最高だった。

向こうではキャリアもある著名な俳優さんらしい。

日本でいうと、渡辺えり子,西田敏行といったところかな?

日本語がまったく話せなかったらしいが、

それでも巧みに両方の言葉を使い分けて演技されていた。

 

 

脇役を演じた韓国人の俳優さんも良かった。

とくに、真木よう子演じる静花と婚約する、常連客の大樹さん役だった、ハン・ドンギュさん。

ちょっとかわいそうな役柄で登場するが、この方の演技が面白くてしょうがない。

少しデコが広く、ちょいハゲ頭なのをバカにされていたが、

よくよく見ると、役所広司に似ていて男前じゃないか。

オモニに“亀の子たわしみたいな頭”なんて言われていたが、

パンチパーマのアンタの方が、亀の子たわしだろ!ってツッコミたくなった。

 

 

あとは、大泉洋。

演技が旨いのはいまさら言うまでもないのだけど、

この役柄がどうにも感情移入できなかった。

あの両親は、よくこんなダメ男を受け容れたなと。

結果オーライだったかもしれないが、コイツのせいで喧嘩ばっか起きていた。

 

先にも書いたけれど、今現在、日韓関係は芳しくない。

竹島をめぐる領土問題、先の戦争に対する賠償問題、

日韓合意を反故にした慰安婦像設置問題に、排他的経済水域での違法操業。

拉致問題を抱える、北朝鮮との関係もそうだ。

朝鮮半島とのいさかいは、日本人にとって頭の痛い問題。

だが、それは相手にとっても同じ。

とりわけ日本に住んでいる、在日韓国人の方々には両国の昨今のいさかいがどう映っているのか? 

 

 

自分の高校来の友人にも、在日三世のひとがいる。

ふつうに日本人の名前だし、日本語しか喋れないし、

彼が結婚するまで、在日韓国人だとは知らなかった。

大学へ進み、きちんとした会社に就職し、地位ある役職に就き、

二十代で家を建て、三人の子どもにも恵まれ、日本人となんら変わりのない生活を送っている。

しかし、彼らの祖先が、どんな苦しい思いをしてきたのか、それを知る機会は少ない。

 

この映画でも、それはあまり色濃くは描かれていない。

しかし、劇中の家族のように、翻弄された一家があったのも事実で、

いろんな方からの体験をもとに、監督は原作を書かれたという。

ほんの少しではあるが、在日韓国人に対して知ることができるかもしれない。

歴史背景とか、そんなことは事細かくは書かれていないので、

そういうのが苦手な方でも、抵抗なく観ることができる作品でもある。

相容れない隣人なんて思わずに、よく似た東アジアの人間なんだと思って観たい。

 

いい映画だとは思ったけれど、不満点もある。

“焼肉”なんてタイトルに付けときながら、焼肉の描写が一瞬しかなかったところ。

もっとこう、きったない網でジュージュー焼かれるホルモンの画が欲しかった。

それを、小汚いおっさんらが、ビール片手にハフハフ言いながら頬張る光景も欲しかった。

そういう描写なら、今現在のここ田川の方が似合うかもしれん。

 

映画観て、その帰りに買ったホルモン。

いいホルモン買っても、やっぱ焼肉店じゃなきゃおいしくない。

フライパンだと固くなってダメだ。

 

 



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