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駆込み女と駆出し男

2015-06-08 00:08:49 | 映画

先日の休みに映画を観てきた。

大泉洋 主演の時代劇、“駆込み女と駆出し男”だ。

原作は故・井上ひさし氏の時代小説、“東慶寺花だより”。

執筆に11年を費やした、井上氏の遺作だ。

 

 

時代劇の映画は好きで、大抵見てしまうのだが、

この作品も劇場にポスターが掲示された時から興味を持ち、

予告編も何も観ないまま前売券を購入した。

好きな俳優、大泉洋が主演、

アイドル歌手から一転、もうすっかり実力派俳優となった、満島ひかり

そしてこれまでまだ一度も演技を観たことのなかった、人気俳優の戸田恵梨香

この3人がメインキャストの時代劇なんて観ないわけにはいかない。

 

時は江戸末期。

鎌倉に東慶寺という、夫との離縁(離婚)を望む女性が逃げ込む、幕府公認の“駆け込み寺”があった。

当時は夫の希望でしか離縁が認められず、妻側はどんなにひどい夫であっても、

どんなに相手を嫌いになっても、自分から望んで離縁することは認められていなかった。

だが、夫の暴力や浪費,浮気など、どうしても耐え難く離縁したいとき、

東慶寺へと駆け込み、御用宿にて聴き取り調査があり、

離縁するにたる理由があると認められれば、役人の仲介によって離縁の手続きがなされる。

 

その際、夫側がすんなりと離縁の申し出を受け容れて、

離縁状をしたため提出すれば、その場ですぐに離縁が成立するが、

そうでない場合、妻は東慶寺へ2年間身を寄せることになる。

妻を夫側からの暴力や嫌がらせから逃れるため、外部から遮断された寺で生活する。

そして2年後には強制的に離縁状を認めさせる。

 

 

あるとき、二人の若い女性が東慶寺へと駆け込んできた。

ひとりは、婚姻してはいないが、ある豪商の妾である、お吟(満島ひかり)。

裕福なたたずまいで、品格と気高さを併せ持つ妖艶な女性。

相手の豪商、三郎衛門(堤真一)の経歴や身の上に不信を抱き、離縁を決意した。

もうひとりは、製鉄所で働く鉄練り職人の、じょご(戸田恵梨香)。

顔に痛々しく火傷跡が多数あり、職人肌で所作もわきまえていない女っ気の薄い女性。

先代のときから祖父とともに職人として働いていて、

その後取り息子と婚姻したものの、代が変わってからは夫が放蕩三昧。

製鉄所の運営はすべてじょごに任せっきり、

酒と女に溺れ、じょごへの暴言,暴力も酷くなる。

それに耐えかねて、着の身着のまま駆け込んできた。

 

東慶寺の御用宿、柏屋で二人の聴き取り調査が始まる。

柏屋の主人は、三代目の源兵衛(樹木希林)。

熟練の離婚調停人の源兵衛は、ふたりに優しく接し、ことのいきさつをじっくりと訊く。

その脇に、江戸から戻って無職状態だった源兵衛の甥、信次郎(大泉洋)が座っていた。

信次郎は江戸で医者の見習いとして、また駆出しの戯作者として勉強していたのだが、

天保の改革のさなか、質素倹約令,奢侈禁止令などで、

庶民の暮らしに活気がなくなり荒んでいくなか、

江戸での勉学に見切りを付けて、叔母の居る、鎌倉の柏屋に居候していたのだった。

 

 

信次郎は源兵衛の脇でふたりの話を興味深く聞く。

離婚調停人の仕事を覚えるのはもちろん、

戯作のヒントとしても聴き取りは大きな糧になる。

医者の見習いでもあった彼は、じょごの顔にある、無数の火傷跡をみて、

治療してやりたくなり、拒むじょごに構わず、無理やり手当を始める。

これまで夫に顔の火傷をさんざんバカにされ、さらに暴力まで振るわれていたじょご。

信次郎の熱心さや優しさに、心惹かれていく。

 

聴き取りの結果、お吟もじょごも駆け込みが認められ、二年間の東慶寺入りが決まる。

だが、安全だと思われていた東慶寺、ここから波乱に満ちた生活がはじまる。

 

外部から遮断された環境のなか、こっそり逢引する信次郎とじょご。

体調を崩し、病の床に伏せってしまうお吟。

担当医として、その看病をすることになる信次郎。

また、東慶寺には、ゆう(内山理名)という女性もじょごと一緒に入っていた。

ゴロツキ侍に父の道場を乗っ取られたあげく夫を殺されて、

そのまま無理矢理婚姻させられた ゆう。

二年経ち、離縁が叶った暁には、父と夫の仇討を望んでいた。

だが、ゴロツキの夫に役所の言い渡しも幕府の決まりも通用せず・・・。

 

 

お吟の囲い者、豪商の三郎衛門も、

離縁に納得いかず、東慶寺へ出入りしている信次郎に目を付ける。

彼は商人だが、それは表向きの顔。

裏の顔はとんでもない男だった。

そして・・・それを知っていて、三郎衛門を心から愛していたお吟。

彼女が三郎衛門と離縁を望んだ本当の理由は・・・?

 

柏屋にはそれ以外にも、妻に駆け込みされて離縁を迫られ、

納得いかない夫達が殴り込みにやってくる。

やくざ者の彼らを機転の効いた嘘と饒舌な話法で追い払う信次郎。

さらには東慶寺で起こる妊娠騒動。

離縁希望の女性が寺内で身ごもってしまう。

外部と遮断され、尼寺で男性禁制のはずの東慶寺。

疑われるのは当然、医者として出入りしていた信次郎。

さらにさらに、老中、水野忠邦(中村育二)の命で、

東慶寺そのものの取り潰しが画策される・・・・!

 

 

様々な難題がめまぐるしく展開されながら、月日が過ぎていく―。

駆け込み女のお吟は、じょごは、ゆうは、無事に夫から離縁状を勝ち取ることができるのか?

駆出しの医者、駆出しの戯作者の信次郎は、はたして立派な医者,戯作者になれるのか?

 


なかなか面白かった。

内容が多くて展開がめまぐるしい部分もあるが、

概ねじょごを中心に、お吟とゆうのエピソードを挟みながら進むので、

そこまで混乱することなく、話を追ってゆける。

ただ、駆け込み女のエピソード、他にもうひとり居たけれど、

こちらは、はじめのうち飲み込めていなかった。

実を言うと未だによく解っていなかったり。

 

 

大泉洋
のハマり役が凄かった。

清須会議のときの羽柴秀吉のような、もっとコミカルな役だと思っていたのだが、

仕事に勉学に熱心な草食系男子ってことで、コミカルではあるが、

期待しているほどのものではなかった。

とはいえ、この物語の主人公として、コミカルすぎないのは正解だ。

古典落語のような、口説文句を交えたような流暢な台詞を、

あの独特な声色でリズミカルにテンポよく放つ。

医学用語や薬草の種類、戯作者の名前に江戸の風俗、

聞き慣れない色んな単語が歯切れよくポンポン飛び出して、

それを聴いているだけで楽しい。

叔母の源兵衛役の樹木希林や、

柏屋の番台夫婦(木場勝己キムラ緑子)らとのやり取りも、いちいち面白い。

 


 

お吟役の、満島ひかり

安室奈美恵,MAX,SPEEDの妹分として、沖縄アクターズスクールから、

Folderのメインボーカルとして若干11歳でデビューした彼女。

女優に転身してから、しばらく経つが、また最近じわじわと存在感を増している。

そんな彼女が、眉なしお歯黒姿で、妖艶で気品のある、お吟を演じる。

元々が細面でシャープな顔立ちなので、しっくりきていた。

その居振舞いや台詞の発し方、大物監督や舞台監督を唸らせただけのことはある。

 

じょご役の、戸田恵梨香

これまで、スペックとかライアーゲームとか、

人気のドラマや映画に多数出演していたのは知ってはいたが、

どれも興味のないジャンルだったので、これまで彼女の演技を観る機会がなかった。

夫の酷い仕打ちで心塞ぐ若い女性を、しっかりと演じていた。

職人としての顔もあり、芯の強い度胸のある場面も描かれており、

また信次郎と恋仲になっていくところなど、見所がたくさんあり、

今回時代劇は初挑戦だったようだが、素晴らしい演技を見せてくれた。

この女優さん、今まで注目したことなかったけれど、かわいいな。

マリオカートフレンドだった、とつげきRさんがぞっこんだったよな確か。

この映画観てから、「75!」とか言ってる、

彼女が出演しているビールだか発泡酒だかのCMが、もうかわいくてかわいくて仕方ない。

 

 

略奪婚してきたゴロツキの夫と離縁し、

仇討しようとする、冷静な女剣士の戸賀崎ゆう役に、内山理名

劇中、ゆう役の女優さんが誰だか判らず、観終わった後に内山理名だと知った。

沈着冷静で武士のような所作で礼節を重んじる、りりしい女剣士。

誰だろ?えらい男前な女性やな~とか思っていた。

しかし30半ばかな、内山理名も渋くなったな・・・。

今井恵理子や新垣仁絵らと共演した、伝説のテレビドラマ、LxIxVxE(ライヴ)のときの、

吹奏楽部の初々しい女子高生役が今でも印象に残っている。

 

抜群の存在感を放っていたのが、やっぱり樹木希林

これまで数多くの作品に出演し、その演技うんぬんを、

自分のような者が語れるようなものではない。

なんというか・・・フジフィルムのCMって凄いよな。

こんな大女優さんをずっと使い続けられるなんてさ。

 

駆込み寺という、実在した施設を中心に、

江戸末期の時代背景や庶民の生活、娯楽、風俗、

いろんなものが詳細に描かれていて歴史モノとしても楽しめる。

見通しが暗くて立場が弱くて、悲壮感いっぱいであっても、

それでも明るく前向きに生きる女性のたくましさは、今も昔も変わらない。

 

 

家庭裁判所で離婚調停を経て、リアルに離婚を経験した自分は、

しばしば身につまされるような思いをする場面も。

逆の立場なので、この表現は誤りかもしれないが、

まあニュアンス的に、心にグサっとくるような感じをするシーンがある。

男性で離婚経験者で、その原因は自分にあると自覚しているひとは、

鑑賞する際に注意すべきかもしれない。

とはいえ、さすがに劇中に出てくる夫たちのような鬼畜はそうそう居ないだろうけどね。

あんなの現代じゃDVで訴えられんだろ。

 

 
 

駆込み女と駆出し男とコラボした限定販売のシネマイクポップコーン、“梅こんぶ味”。

ミスマッチで、なかなかクセになる味。

 



※戯作者(げさくしゃ):江戸後期から明治初期にかけて書かれた大衆向けの娯楽小説、戯作を執筆する作者のこと。

  教科書で普通に習うのは、“東海道中膝栗毛”の十返舎一九(じっぺんしゃいっく)くらいか。

  劇中には信次郎が尊敬する戯作者として、“南総里見八犬伝”を書いた曲亭馬琴(演:山崎努)が登場する。

 

 



 

 



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