幾百年鎮まる岩を共に見し我が愛用の巾着(きんちゃく)は消ゆ
昨日 職場より庵への帰途のことなり
午後五時を少し過ぎたる頃 夕日に染まりて桃色なる雲の西空に流るるを見る
車を停め 巾着袋をもちて降りたる
巾着 是 我が愛用のものなり かれこれ二十年は使ひたる哉
其 鹿皮にて作りたるものにして 皮革製造を業とする御方より何かの折にいただきたる
地色白色系にして紺色の線の格子模様の鏤(ちりば)められたれば
いよいよ気に入りてをれり
ここ数年 中に デジカメ 充電器 パソコンと繋ぐコード メモリーカード の入れたる
さて 巾着よりカメラを出せば 巾着を車の後部バンパーに置きて その場にて西空にカメラ
向けるも 構図に不満あれば 車の前方へ移動したる
シャッターを二度ほど切りて これでよしとおもへり
そのまま運転席のドアを開けて車に乗れば助手席にカメラを置きて発進したる
この時 なぜか心に隙間あり
予 常に巾着を手にぶら下げゐて 置きざりにすることなし
されど この時 車の上に置きぬ
また 使ふ度に巾着にカメラを戻しきたる
されど この時 巾着は後部座席にあるものと思ひ込みて 戻さざる
今 かへりみるに常ならざる己が行為は何故なる哉
己にも解し難き事なり
庵に戻りて 巾着袋消えゐたるを知る
既に闇の迫り来たれば 明朝に落としたるとおもへる場所を捜索せんとす
今朝六時半に庵を出でれば七時前に問題の場所に着けり あたり一帯を探すも
見つからず
我が愛用の巾着袋は消へ去りにけり
＊画像：千本神社の苔むす岩(下野國茂木町） 2007.1.28 11:30 撮影
