コミュニケーションの基本は「言葉」です。
でも、言葉だけでは良いコミュニケーションは成り立たないと感じることが実に多いです。
コミュニケーションに際して、身振りや表情などといった非言語的要素の役割は、私たちが思っている以上に大きいようです。
「大丈夫」という言い方は、便利な言葉なので、外国語会話を勉強していると、割と早い時期に学習します。
けれども、実際のコミュニケーションの場では、「大丈夫」という言葉ほど、言葉通りに意味を受け取らないほうがいいなあと思うことがよくあります。
特にご高齢の方は、ぜんぜん大丈夫じゃないのに、「大丈夫」と、ほぼ反射的に、無意識に言ってしまっている場合が多いようなので、私が働いている医療現場では注意が必要です。
今日、病院の駐車場で転んでしまった方がいらっしゃいました。
80代男性。
おでこには大きな擦り傷。
私にも経験がありますが、不覚にも転倒してしまった瞬間というのは、本人は状況が全くわからないということがめずらしくありません。
ですから、傷の様子から、どんなふうな転び方をしたのかを想像するのですが、背中には小さな落ち葉がたくさんついていましたから、おそらく前に倒れただけでなく、勢いで仰向けにもひっくり返ってしまったようです。
幸い意識はしっかりしており、歩いている様子からも、捻挫や骨折などはしていないようです。
念のため他に痛いところはないか伺いましたところ、「大丈夫」とおっしゃいます。
でも、右膝を手でさすっています。
「膝もついて、打ったんですね。痛いですか?」
「うん。でも大丈夫だ」
ズボンは汚れたり擦り切れたりしていません。
額の傷を消毒したあと、手当を終わろうとしたとき、介助についてくれていた看護師が「念のため膝も見てみましょう」と言うので、ズボンをめくってみたところ、おでこよりもひどい擦り傷ができていたのでビックリしました。
優秀な看護師に助けられました。
「ぜんぜん大丈夫じゃないじゃないですか~」
「なんで転んだりしたのかなあ・・・年寄りはよく転ぶっていうけど、俺は大丈夫だと思っていたんだけどなあ」
打撲の痛みは後から強くなることもありますし、頭を打った後は、必ず周囲の人にそのことを知らせておいたほうがいいです。
特に高齢者は慢性硬膜下血腫という怖い病気に発展することがあるからです。
物忘れ、反応の悪さ、性格の変化、軽い麻痺などが、だいぶ日にちがたってから出現し、本人ではなく家族が異常に気づき、診断に至ることがあります。