きんえんSwitter

医者の心の目で日々を綴ります

拒否の理由

2018年06月12日 | 禁煙治療
以前、ある精神科病院に招かれて禁煙講話をしたことがあります。

病院を敷地内完全禁煙化することにしたので、まずは職員に講話をしてほしいということで私に依頼がありました。

単科の精神科病院を敷地内完全禁煙化!
とても素晴らしい取り組みです。
もちろん喜んで引き受けました。


そして当日、楽しく和やかに講話を終え、さて帰ろうというとき、ひとりの看護師さんが私のところに駆け寄ってきました。


「(私は)タバコを吸わないのに、なんで仕事終わったあとに話聞かなきゃいけないんだろう(怒)って思って嫌々出席したんですけど、聴けてよかったです!」


少し興奮した様子で握手まで求められました。
彼女の話はまだ続きます。


「わたし、バツイチなんですけど、別れたダンナがすごくタバコ吸ってて、そのせいで咳喘息になっちゃったんです。私が肺がんになったらどーするの!タバコやめてよ!って頼んだのに、絶対やめないって言われて…(泣)」


泣かれました。



たしかに離婚は大変です。
当事者でも一言で説明するのは難しいくらい複雑な人生の出来事です。

けれども、この時の彼女の涙は、離婚のゴタゴタを思い出したから、ではないと思いました。


この日彼女は私の講話を聴いて、やっと理解したのです。
どんなに彼女がダンナさんに頼んでも、彼が「タバコはやめない」と断固拒否した理由が。


自分がこんなに苦しい思いをして、タバコをやめてほしいと頼んでいるのに、ダンナがその気持ちを受け取ってくれないのは、自分が愛されていないからなのか?
拒否されるのは自分に落ち度があるからなのか?

彼女はきっとそんなふうに、かなり悩んだり、悲しんだりしたのだろうと思います。

でも彼がタバコをやめないのは、自分が愛されていなかったからではなく、彼が依存症という大きな力に、はがいじめにされていたからなのだと、彼女はそのとき初めて理解し、そして心が開放されたのです。
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