きんえんSwitter

医者の心の目で日々を綴ります

毎日有煙想

2018年09月12日 | 禁煙治療
「以心伝心」という言葉がありますが、日本人はこの「言わなくてもわかる」というのが好きですね。

特に近しい人との関係においては、信頼・親密の深さの尺度のように扱われているようにも思います。


けれども、あえて言葉にすることが大切な時があります。

たとえば、なかなか理解に苦しむ心情に向かい合わねばならないとき。


そんなときは、苦しみながらでも、どうにかして言葉で表現するように努めてみる。

そうすると、複雑に絡み合った糸の塊がだんだんと解きほぐれ、本質的な部分が見えてきて、理解できない苦しみから解放されるということもあります。




依存症は、心とからだの両方の症状が複雑に絡み合って表現される病気ではないかと思います。

ですから、禁煙治療には、この心の症状の改善のために、言葉という道具を上手に扱うことが重要な鍵になってきます。



以前、中国出身の女性が禁煙外来にいらっしゃったことがあります。

ほとんど日本語が話せず、通訳をしてくれる人もいなくて、私は大げさなジェスチャーと漢字の筆談で彼女とコミュニケーションをはかりました。

もちろん禁煙補助薬も使いました。

3回目くらいの外来で、彼女はつらそうな顔をしながら、「毎日有煙想」と紙に書いてよこしました。



禁煙のつらさは「タバコが吸えないこと」ではなく、「タバコ吸いたさに襲われること」であることは、万国共通なのです。

しかしその吸いたさも、薬を使いながら、日常生活のちょっとした工夫をすることで、だんだんと「吸いたい」から「吸っていたことを思い出す」程度に緩和されていくものなのです。
もちろんその間、周囲の優しい支えとアドバイスがあれば、おおいな手助けにもなります。


そういう話を含めたアドバイスが、つまりカウンセリングが、言葉が通じる相手にならとても効果的なのですが、外国人の彼女には充分理解していただくことができず、結局そのとき彼女は、禁煙しきれませんでした。


苦い思い出です。






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