石坂祥次郎の若い人のような、しかし時代設定は昭和24年、戦後のまだ進駐軍がいる頃、旧制中学から新制高校にちょうど切り替わる時に17歳の高校2年生を迎えていた倉沢明史(あけし)が主人公。文芸に関心を持ち、左翼活動が盛んだった頃、恋愛の経験をする主人公、最初の女友達は親同士が知り合いの一つ年上の慶子、文通をしたりお互いの家を訪問したりして恋愛感情を相互に抱く。ある日、慶子の家を訪問した主人公は慶子に接吻されて興奮する。慶子は口紅を付けた口の形を手紙につけてよこす。明史はうれしくて舞い上がるが、慶子からの手紙がぷっつりととぎれる。 ある日、通学途中にかわいい女子中学生棗をみつけて勇気を出して声をかける。棗は中学3年生、来年は明史の西荻高校を受験するという。明史はなんとしても入学してほしいと願う。お互いに心惹かれて、丘の上で口づけをかわす。しかし棗は家庭教師の西堀に嫁ぐという。 なんという若い、酸っぱいような恋愛物語だろう。三鷹事件が当時の事件として挿入されるが、明史の心はそのような事件や時事には向いていない。高校生の純粋な恋愛物語、この時代にはあったのだ。 春の道標 (新潮文庫) 読書日記 ブログランキングへ