『映画は撮ったことがない ディレクターズ・カット版』
神山健治(日:1966-)
2009年・『神山健治の 映画は撮ったことがない 映画を撮る方法・試論』INFASパブリケーションズ
2017年・講談社
そっかー、そっかー、そうだったのか!
いや10年前の本を読んで驚いてますけど。
2002年の『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の見えるものにしか見えないネットワークは、我が人生の書『ノーライフキング』(1988年・いとうせいこう)が着想のヒントになってたのか・・・。
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この小説は近未来SFではない。
時代設定も執筆された時期と同じ、1980年代後半。
インターネットはもちろん、ケータイもない時代なのに、巨大で複雑な「情報網」を構築した小学生達の話なのだ。
この子供達だけの「情報網」は「ライフキング」というゲームの攻略法の情報交換のために、自然発生的に出来上がった。
子供達のネットワークに流れる情報(噂)に、すべて死のイメージがつきまとっているのが、とても気になった。
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『ノーライフキング』は1988年にいとうせいこうが発表した小説だ。
初めて読んだとき最後のまで一度もページをめくる手を止められなかったし、オッサンになった今たまに読み返しても全く同じ状態になる。
(だから通勤電車で読むには向かない)
『ノーライフキング』を読むとファミコンが普及し始め、ドラクエが発売された頃がまざまざと思い出される。
当時の短パンは今みたいなヒザ丈じゃなくいわゆるホットパンツ的な短いヤツだったので、我々は季節を問わず短パンの脇からキン〇マをはみ出させていた。
(今なら公然わいせつだが、当時はコンプライアンスも甘かった)
我々はゲームの画面に映し出されるカクカクのドットで描かれた主人公や背景の街や海に、現実世界にも匹敵する奥深いもう一つの世界を見ていた。
『ノーライフキング』の主人公である平凡な小学4年生、大沢まことが学習塾のネットワーク(全国の小学生とほんの数秒間、数文字だけチャットすることができる)で、細々と仲間との会話をつなぐシーンが忘れられない。
秘密のネットワークを介して交わす情報は、彼らにとって生命線だ。
大人たちを頼ることはできない。
彼らは目前に迫った危機に気づくことさえできないのだから。
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刊行当時はバブル経済まっただ中、世の中の大人たちは好景気に浮かれていて、まさか今のような不況や大震災が来るとは誰も想像していなかった。
それなのに、この作品に登場する小学生は、自分達の未来がけっして明るいものではないことを、いち早く察知している。
いとうさんは、空気中に飛散している、まだ誰にも見えていない「何か」を捕まえて、『ノーライフキング』という小説に記録したのだと思う。
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『ノーライフキング』を上梓した1988年当時、いとうせいこうは27歳。
(ちなみに88年には神山健治は22歳)
当時、いとうせいこうが仮に小学生の気持ちのままで27歳の人生を生きていたとしても、つまり空気中の「何か」を感じる能力を失っていなかったとしても、ちゃんとその「何か」をすくい取って、文字に落とせる才能。
その才能がいとうせいこうにあったから、「何か」が14年後(2002年)に神山健治のS.A.C.に繋がったのだ。
そう思うと本当に感慨深い。
今夜は寝れないかも、マジで(笑)
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2002年、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の企画時に再読したときは、この少年たちが手に入れた「情報網」がデジタル化され、物理的なインフラとして使う時が来たという感覚がった。
そして、「見える者にしか見えないネットワーク」を分かる者だけが「笑い男事件」の深淵をのぞくことができる・・・・・・という構造のヒントになった。
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いやー、感動しすぎて勝手に下線を引いちゃいましたけども。
「真相を知ることができる」じゃなくて「深淵をのぞくことができる」ってのがミソだね。
ちなみに、本書の謎めいたタイトル『映画は撮ったことがない』は、執筆当時、30分(CM等を除いて実質21分間)というTVアニメーションのフォーマットで勝負していた神山さんが、文字通り
「映画の尺(2時間)は撮っていない」
という意味と
「いや、尺は短くとも映画と呼ばれてしかるべき作品を生み出してきた」
という自負の両方を込めたネーミングであるとのこと。
この点について、一読者の立場から言わせてもらえば、
「作品から受ける印象の強弱は、作品の尺の長短に比例しない」
ことを教えてくれたのが、まさに神山作品なのだ。
我々にとって大事なのは「何分その世界に浸らせてくれるか」じゃなくて、「どんな世界に連れて行ってくれるか」なんだから。
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