WIREDという雑誌は、かつて1994年から1998年までの4年間、日本版が刊行されていた。
創刊から休刊まで4年間で実に49冊が書店に並んだ。
学生だった俺は本屋さんに行っては毎号購入し、わりと熱心に読んだ記憶がある。
買い込んだWIRED49冊は、当時の部屋で空間的に割と大きなスペースを占めていた。
だけど、WIREDが食っていたのは決して部屋のスペースだけではなかった。
WIRED的な「感性」とか「気分」みたいなものが、俺の心の一定のスペースまで占拠していたのだった。
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当時、Windows95の発売を端緒とするデジタル熱みたいなものが一つのピークを迎えつつあった。
俺らはメール機能もついていない第一世代の携帯電話を買い求め、どんな些細なことも携帯で話し合った。
オペレーション・システム(OS)の発売日にみんなが家電屋に並び、買い求めたWindows95の箱を持ってガッツポーズ!
そんなの、今の若い人にはジョークとしか思えないだろう。
並んで買うって、村上春樹の新作の発売日じゃあるまいし。
でも昔のガンプラやドラクエのブームを振り返ってみても、我々はとにかく ”よく並ぶ” 民族なのかもしれない。
(ちなみに俺は村上春樹の新作だろうが、新しいiphoneだろうが、宮沢りえのサンタフェだろうが、列には並びませんが)
とにかく、そんな「よく分からないけど、Windowsやインターネットでデジタルにならないと世の中に置いて行かれる!」
という熱病のような気分に、WIRED日本版はジャストフィットした。
当時のWIREDは、小林編集長の週刊文春的、またはFF(フォーカスフライデー)的なセンスが絶妙な塩梅で入り交じり、スタイリッシュな誌面に程よい下世話さがトッピングされていた。
俺は実態のよく分からない『デジタル業界』の匂いに憧れて(?)、誌面に書かれた他愛もない噂話を夢中で読みふけった。
その噂話の対象だって、当時ソフトウェアベンチャーの巨人だったジャストシステムとかね(笑)
果たして、ご記憶にある人がいるだろうか?
一太郎が日本においてはマイクロソフトのWORDよりもよほど強かった時代を・・・。
その他の登場人物と言えば、分かりやすいようにちょっと芸能人的メンバーで言うと、飯野賢治(Dの食卓)とか、千葉麗子(「ヨーガ、ヨーガ」)とか、伊藤穣一(後のMITメディアラボ所長。残念ながら元・所長)、高城剛(ハイパーメディアクリエイター。後の沢尻エリカの旦那、あ、こっちも元・旦那かぁ)とかね。
『マルチメディア』なんて言葉が世を席巻していた、牧歌的な時代の話だ。
急にマルチメディアなんて言われても、みんな何をしたらいいのか分からないので、CD-ROMドライブ付きのパソコンを買って、とりあえず雑誌の付録についてるCD-ROMを見たりしていた(笑)
当時の雑誌にはとにかくCD-ROMが付いていた。
あのCD-ROMたちは今いずこ。
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そんで、止まらない昔ばなしを無理やりストップして、時は2011年。
(今、書いてみて思ったけど、2011年も既に立派な昔ばなしですネ)
再び刊行されたWIRED日本版。
今度は米国版に近い、だいぶTech寄りのテイストでリスタートした。
最初の2冊を買ったけど、どうにも興味が持てなかったな。
WIREDが変わったのもあるけど、たぶん俺の方も変わってしまったのだろう。
ところが、久々に手に取ったWIRED vol.33『MIRROR WORLD』。
北村みなみさんという方の20XX年のAR機器を題材にしたコミック『サマタイム・ダイアリー』が掲載されていて、とても良かった。
俺はとにかくアナクロな人間で、新しいテクノロジーに対しては思わず距離を取ってしまう。
ついでに、新興のアプリやサービスのプロバイダーに対してもちょっと訝しんで見るようなところがある。
(メルカリとかTikTokとかのコトです)
でも、本来テクノロジーは人々を助け、生活の幅を広げるツールだ。
過度の依存や過信さえしなければ(そこが難しいんだけど)、テクノロジーは人生を豊かにしてくれる。
そのことが、北村さんの漫画を見るとよく理解できる。
それに、僕は昔からこういう風に作品のなかで歳月の移ろいが表現されている作品に弱い。
映画でも『レジェンド・オブ・フォール』とか『リバー・ランズ・スルー・イット』とかさぁ。
(奇しくもどっちもブラピですね、たまたまです)
自分のカチコチ頭をちょっとでも柔らかくする意味あいでも、本作を読めて良かった。
どんなお話かは、ぜひ雑誌を買ってご確認ください。
ついでに、最新号の「ナラティブと実装」特集について一言。
コンピュータの先駆けとなった機械たちに敬意を表す写真家マーク・リチャーズのフォト群がとにかく素晴らしい。
カリフォルニア州マウンテンビューにあるコンピュータ歴史博物館(偶然ですが今年俺も訪問叶いました!)で、
歴史的な機械たちにダメージを与えぬよう白手袋をはめた彼は、3年にわたり1,000点を写真に収めたとのこと。
愛だね、愛。(永瀬正敏)
これはそのマーク・リチャーズの写真の転載だが、WIREDという美しい雑誌だからこそ出来た事だと思う。
この1977年HEWLETT-PACKARD製の電卓、目覚まし、ストップウォッチ、タイマー、カレンダー付の腕時計のクールさときたらどうだろう。
カレンダーが200年分対応という、そのヘビーデューティな思想にウットリしてしまうじゃありませんか。
(ここでは画素落としてます)
こちらも気になる人は雑誌を買って美しい誌面でお楽しみください。
この2冊は久々に楽しかったナ。
<Amazon>
WIRED (ワイアード) VOL.33 「MIRROR WORLD - #デジタルツインへようこそ」(6月13日発売) | |
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WIRED (ワイアード) VOL.34 特集「ナラティヴと実装 ~ 2020年代の実装論」(9月13日発売) | |
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