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ここを訪れるのは、だいたい一軒目でノドを潤した後、二軒目か三軒目といった頃合いで。
混んでるから、無理言って席を作ってもらうんだけど。
酔いざましにレモンサワーなどを頼む。
すると、猫がカウンターに飛び乗って隣まで来る。
お酒と料理をチラリと見る。
そして、俺の顔は絶対に見ない。
(この辺はニャンコの矜持というモノでしょうね)
相変わらず目ツキの悪いヤツだ。
(でも、お酒はやらないぜ)
突然だが。
先日、森高千里の『渡良瀬橋』をハンバート・ハンバートがカバーしているのを聴いた。
演歌の如く、思いっきり後ろ向きな歌詞に改めて驚かされた。
『電車に揺られ この町まで あなたは 遭いに来てくれたわ♪
わたしは 今もあの頃を 忘れられず生きてます♪
今でも 八雲神社へ お参りすると あなたの事祈るわ♪
願いごと ひとつ叶うなら あの頃に戻りたい♪』
まあ、今のポップソングみたいに、ありがちな前向きさを装う必要はない。
人間だれしも何かを懐かしんで、ただ過去を振り返るだけの日だって、
そりゃまあ、あるだろうしね。
2杯目はウーロンハイ頼んで、カツ煮を食べよう。
カウンターにカツ煮があると必ず頼む。
だからこんなに痩せてるんでしょうね、ぼかぁ。
でも、しゃれた料理はもうコリゴリだ。
1軒目は料亭で目ん玉飛び出るようなアレで。
シータクに乗せられ、見送られる。
(タクチケは前もって運ちゃんに手渡されている)
しかし、車が滑り出した途端に俺は言う。
「あー、すいません・・・。降ろしてください、新橋でぇ(笑)」
運転手さんにはホントに申し訳ない。
銀座で乗って新橋で降車だもんね(笑)
でも、まともなお酒が欲しいし。
和尚水もしたい。
そして僕は途方に暮れる間もなく、タクシーを降りて居酒屋に飛び込む。
話は戻って。
『渡良瀬橋』の歌では、主人公の女性は都会に住む彼氏との結婚を諦める。
そして、今も暮らす「この町」に美しい夕日が沈むのを見つめながら歌詞が終わる。
女性は、彼氏がかつて言ってくれた「きれいなトコで育ったね」という言葉と、
彼氏がこの町の夕日を好いてくれたことが今でも忘れられない。
Cメロでようやく彼女は過去の決断を語る。
『何度も悩んだわ だけどわたし ここを離れて 暮らすことできない♪』
そっかぁ。
まあ、都会に出ていく的な決断だけがエラいって訳でもないもんねぇ。
この町を出ませんわたし、ってのもよく考えて導き出した決断だろうから。
「なあ、お前さぁ、この話どう思う、彼氏を諦めて故郷に残るって話?」
知らん(プイッ)
「あッ、てめ・・・」
夜は更ける。
(おしまい)
<おまけ>
ちなみに『渡良瀬橋』は森高千里本人による作詞である。
こういう歌詞を聴いた時に
「ああ、はいはい。バブル絶頂期にミニスカの帝王・森高千里がド演歌な歌詞を未練たっぷりに歌いあげることで世の男性陣をヒイヒイ言わした、いわば接待ね、この曲」
などとニヒルな分析をする僕チンはここ10年くらいでキレイに居なくなりました。
今や普通に、
「へー、好きだった人を諦めるくらいイイ町なんだなぁ。大きな夕日なんだろうなぁ」
なんてウーロンハイ飲みながら一人つぶやく純情っぷり。
(隣の人、びっくりさせてごめんなさいネ)
鈍化したのかって?
んー、ようやく素直な人間になってきたんだよ、きっと(笑)
<今度こそおしまい>