NHKスペシャル、「ここまで来たうつ病治療」という番組があった。
以前からNHKの「うつ病」の特集番組は残念な内容が多かったのだが今回はどんなものかと思って一応は見ておく。
どうせ患者さんにも聞かれるだろうしね。
まず「うつ病はこころの病気ではなく脳の病気」という場面からスタート。
なんかしょっぱなからアメリカの最新治療は素晴らしいという論調・・・嫌な予感。
はじめにrTMS(反復経頭蓋磁気刺激)という磁気刺激による治療法の紹介。
うつ病患者では前頭葉の血流が低下しており、不安や恐怖などの感情をつかさどる扁桃体が暴走してうつ病になるという仮説に基づいて、前頭葉のDLPFC(背外側前頭前皮質)を直接磁気で刺激して扁桃体の暴走を抑えるという理屈らしい。
入院したり外来にかよってrTMSをやって帰るというのが標準的な治療の時代がくるのか?
つづいて電極を埋め込んで脳の深部(ブロードマン25野)を直接刺激する治療の紹介。
rTMSも電気磁気刺激もすでにパーキンソン病の治療では行われているものでたまに電極を埋め込んだ方もみかけるが、うつ病で電極を埋め込むというのはあまり想像したくない。
特にうつ依存症や身体表現性障害の方にうっかりそのような手術をしてよけいドロドロしないか心配だ。
そういえば骨折なんかでも直接物理的に刺激すると早く治るということで温熱療法や超音波の治療が行われている。
脳でも同じだとするとなんとも原始的な感じ。
しかし、これらはまだまだ研究段階の治療法である。
それならば、すでに世界中で広く行われていて効果も安全性も立証されているmECT(修正電気けいれん療法、安曇総合病院でもやっています。)はなぜ全く紹介しないのだろう。
脳機能や脳血流の改善ということを考えると作業療法や運動療法などで体をうこかしていくのもいいだろうが、このへんにも全く触れられず。
「うつ病」の診断にも科学的手法がとりいれられるようになってきている、と、操作的診断であるDSMの弊害とともに客観的な臨床検査である光トポグラフィー検査(NIRS)を紹介。つづいて双極性障害をうつ病と診断されたり、うつ病を認知症と言われて不適切な治療を受け続けてきた人間も多いというようなケースを紹介。
NIRSが認知症や、うつ病と双極性障害、統合失調症などの鑑別の補助になるのはどうやら確かそうだから、あれば便利だろうが、DSMと併用するとかえってますますいい加減な診療が増えそうな気もする。
従来の問診による診断はそんなにダメか?
さらに軽度のうつは「ことばの力で治す」ということで、カウンセリング(特に認知行動療法)で脳を変えるという研究を紹介。
認知行動療法の訓練を受けて回復したという女性が登場していたが、高強度で集中特訓みたいにやっていた。
訓練を重ねると悲しい気持ちになっても前向きな考えができるようになり感情がコントロールできるようになるという。
さらに脳のfMRIの扁桃体の画像を分析した図を見て観察しながら楽しかった出来事を思い出してフィードバックをかけて扁桃体をコントロールできる方法を習得する研究の場面を紹介。
アメリカの自己啓発ポジティブ教の人間改造みたいでなんだかいやだなぁと思ってしまった。
ライフイベントによるストレスをゆがんだ形で受け止めてしまう認知の癖を修正する認知行動療法はたしかに有効である。
しかしこれは生活の中で行なっていくことがベターだと思う。訓練のための訓練ってのはつまらなそう。
とくにうつ状態のときには苦行だろう。
楽しくできないと続けられないから当事者をあつめたグループで当事者研究っぽくやれればなおさらいいと思うけど・・。
番組としては「脳科学が変え始めたうつ病治療、その恩恵が早く広まるようになってほしい」とのまとめだった。
それはいいにしても、いろんな研究や実践が紹介されるものの終始軽い調子でありなんだか無理やりである。そして新しいことを言っているようで、大して新しいことは言っていない。
なにより問題なのは、まだまだ実験段階の診療をセンセーショナルに取り上げ、どこでも受けられる有効性が確立した治療に関してはふれなさすぎなこと・・。
特に抗うつ薬の治療にかんしては双極性障害につかわれると危険ということをあおるのみで、その有効性についてはまったく触れなかった。
以前の番組といいディレクターは抗うつ薬に恨みでもあるのだろうか。
大勢の人を助けている薬による治療はそんなにダメか?
気分障害はアイドリングの不調という例えをよく使うが、オーバーヒートしたエンジンの冷却がおわったらrTMSやmECTによる治療はイグニッションキーを回したり、キックスターターを蹴ったり、押しがけをしているような感じなんだろう。(抗うつ薬はオイルや洗浄剤をいれているイメージ)しかし、エンジンだけかかればいいというものでもない。
燃料を浪費しない上手な運転の仕方も練習しないといけないし、行き先も見つけていかなければいけない・・・。
失われた時間や、思い描いていた未来を修正していまの場所から新たな物語をつむいでいく作業はどのみち必要なわけだし。
最新治療も含めて、いろんな治療は確かに回復のきっかけにはなるが、それですべてではないよなぁと思う。
結局悪循環になっているところを絶ち切ってどう良い循環にしていくかということに尽きると思う。
そのために動かせるところから動かしていくということ。
こういう情報も苦労されている方には希望の一つにはなるとはおもうが・・・。
最新治療もいいが、ていねいな従来治療といろんな治療や支援が有機的に連携していることがいちばん大切なのだとおもうのよね。
そういった意味で「うつ病治療」の特集としてもプロデューサーの意図的な取捨選択がおこなわれたなんともアンバランスで残念な番組構成と思いました。
まぁ、テレビ番組の特集というのはこんなもんなのかなぁ。
光トポグラフィー検査をやっている病院や、TMSで臨床研究をやっている神奈川県立精神医療センター芹香病院なんかは相談が増えて大変だぞ・・・。
オラシラネ(;´д`)トホホ…
以前からNHKの「うつ病」の特集番組は残念な内容が多かったのだが今回はどんなものかと思って一応は見ておく。
どうせ患者さんにも聞かれるだろうしね。
まず「うつ病はこころの病気ではなく脳の病気」という場面からスタート。
なんかしょっぱなからアメリカの最新治療は素晴らしいという論調・・・嫌な予感。
はじめにrTMS(反復経頭蓋磁気刺激)という磁気刺激による治療法の紹介。
うつ病患者では前頭葉の血流が低下しており、不安や恐怖などの感情をつかさどる扁桃体が暴走してうつ病になるという仮説に基づいて、前頭葉のDLPFC(背外側前頭前皮質)を直接磁気で刺激して扁桃体の暴走を抑えるという理屈らしい。
入院したり外来にかよってrTMSをやって帰るというのが標準的な治療の時代がくるのか?
つづいて電極を埋め込んで脳の深部(ブロードマン25野)を直接刺激する治療の紹介。
rTMSも電気磁気刺激もすでにパーキンソン病の治療では行われているものでたまに電極を埋め込んだ方もみかけるが、うつ病で電極を埋め込むというのはあまり想像したくない。
特にうつ依存症や身体表現性障害の方にうっかりそのような手術をしてよけいドロドロしないか心配だ。
そういえば骨折なんかでも直接物理的に刺激すると早く治るということで温熱療法や超音波の治療が行われている。
脳でも同じだとするとなんとも原始的な感じ。
しかし、これらはまだまだ研究段階の治療法である。
それならば、すでに世界中で広く行われていて効果も安全性も立証されているmECT(修正電気けいれん療法、安曇総合病院でもやっています。)はなぜ全く紹介しないのだろう。
脳機能や脳血流の改善ということを考えると作業療法や運動療法などで体をうこかしていくのもいいだろうが、このへんにも全く触れられず。
「うつ病」の診断にも科学的手法がとりいれられるようになってきている、と、操作的診断であるDSMの弊害とともに客観的な臨床検査である光トポグラフィー検査(NIRS)を紹介。つづいて双極性障害をうつ病と診断されたり、うつ病を認知症と言われて不適切な治療を受け続けてきた人間も多いというようなケースを紹介。
NIRSが認知症や、うつ病と双極性障害、統合失調症などの鑑別の補助になるのはどうやら確かそうだから、あれば便利だろうが、DSMと併用するとかえってますますいい加減な診療が増えそうな気もする。
従来の問診による診断はそんなにダメか?
さらに軽度のうつは「ことばの力で治す」ということで、カウンセリング(特に認知行動療法)で脳を変えるという研究を紹介。
認知行動療法の訓練を受けて回復したという女性が登場していたが、高強度で集中特訓みたいにやっていた。
訓練を重ねると悲しい気持ちになっても前向きな考えができるようになり感情がコントロールできるようになるという。
さらに脳のfMRIの扁桃体の画像を分析した図を見て観察しながら楽しかった出来事を思い出してフィードバックをかけて扁桃体をコントロールできる方法を習得する研究の場面を紹介。
アメリカの自己啓発ポジティブ教の人間改造みたいでなんだかいやだなぁと思ってしまった。
ライフイベントによるストレスをゆがんだ形で受け止めてしまう認知の癖を修正する認知行動療法はたしかに有効である。
しかしこれは生活の中で行なっていくことがベターだと思う。訓練のための訓練ってのはつまらなそう。
とくにうつ状態のときには苦行だろう。
楽しくできないと続けられないから当事者をあつめたグループで当事者研究っぽくやれればなおさらいいと思うけど・・。
番組としては「脳科学が変え始めたうつ病治療、その恩恵が早く広まるようになってほしい」とのまとめだった。
それはいいにしても、いろんな研究や実践が紹介されるものの終始軽い調子でありなんだか無理やりである。そして新しいことを言っているようで、大して新しいことは言っていない。
なにより問題なのは、まだまだ実験段階の診療をセンセーショナルに取り上げ、どこでも受けられる有効性が確立した治療に関してはふれなさすぎなこと・・。
特に抗うつ薬の治療にかんしては双極性障害につかわれると危険ということをあおるのみで、その有効性についてはまったく触れなかった。
以前の番組といいディレクターは抗うつ薬に恨みでもあるのだろうか。
大勢の人を助けている薬による治療はそんなにダメか?
気分障害はアイドリングの不調という例えをよく使うが、オーバーヒートしたエンジンの冷却がおわったらrTMSやmECTによる治療はイグニッションキーを回したり、キックスターターを蹴ったり、押しがけをしているような感じなんだろう。(抗うつ薬はオイルや洗浄剤をいれているイメージ)しかし、エンジンだけかかればいいというものでもない。
燃料を浪費しない上手な運転の仕方も練習しないといけないし、行き先も見つけていかなければいけない・・・。
失われた時間や、思い描いていた未来を修正していまの場所から新たな物語をつむいでいく作業はどのみち必要なわけだし。
最新治療も含めて、いろんな治療は確かに回復のきっかけにはなるが、それですべてではないよなぁと思う。
結局悪循環になっているところを絶ち切ってどう良い循環にしていくかということに尽きると思う。
そのために動かせるところから動かしていくということ。
こういう情報も苦労されている方には希望の一つにはなるとはおもうが・・・。
最新治療もいいが、ていねいな従来治療といろんな治療や支援が有機的に連携していることがいちばん大切なのだとおもうのよね。
そういった意味で「うつ病治療」の特集としてもプロデューサーの意図的な取捨選択がおこなわれたなんともアンバランスで残念な番組構成と思いました。
まぁ、テレビ番組の特集というのはこんなもんなのかなぁ。
光トポグラフィー検査をやっている病院や、TMSで臨床研究をやっている神奈川県立精神医療センター芹香病院なんかは相談が増えて大変だぞ・・・。
オラシラネ(;´д`)トホホ…