リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

悪夢の地域医療破壊計画

2011年11月12日 | Weblog
まるでビジョンのないままTPP交渉参加に突き進む日本国の縮図のようなことが地方の一病院で起きている。

大学病院を含む大病院の多い松本二次医療圏に連続した人口約6万人、高齢化率約30%の大北地区にある2つの中規模病院のうちの1つである安曇総合病院は一体地域においてどのような役割を担う病院を目指すのか。

高齢者中心の医療に比較的フィットした内科と整形外科と精神科の3本柱を中心とした今の延長線上に丁寧な高齢者障害者医療、生活支援、生活習慣病などの慢性期医療をおこない在宅医療や居住福祉などの充実をめざすのか。
それとも、集約化の流れに反し、これまでやって来なかった脳外科や心カテなどの救急医療、そして放射線治療などのがん診療の強化をおこなうのか。


(2×2のマトリックスで病院の在り方を考える。)

ふってわいたような地域医療再生のための補助金に、病院の中でも地域でも議論も不十分なまま、”医療に詳しい”地元の県議会議院と、すっかり臨床現場から解離した院長と、2人にいいなりの前事務長が中心となって救急医療の充実、ICUの新設、がん放射線治療機器の導入というとりあえずの計画をたてて補助金の申請を県に提出したということがことの発端だ。
ふつうに病棟立て替えの計画で出してくれれば何も文句はなかったのだが・・・。

病院再構築ということばでぼやかされているが、これは緊急の課題である老朽化し耐震上も問題がある内科外科の病棟の立て替えとはまったく別の話しだそうだ。

この計画のおかしさはこれまでこのブログでもさんざんのべて来たが、臨床現場から離れてしまった院長や、夢見る政治屋には現場のニーズというのが見えないようで、時代錯誤の拡大主義から離れられないようだ。

しかし、この計画は現場に取っては悪夢である。

職員の多くが反対、あるいは無関心であり、計画を県に提出したあとになってアリバイ的に職員全体集会もおこなわれたり、コンサルタントを入れたり、再構築検討委員会が開かれたりしてはいるが、院長は自論を変えるつもりはないようで全く話しにならないのである。

院長が先頭にたって臨床をやっていたり、現在院内に新たに「がん放射線治療」をやりたい、あるいは超急性期医療を積極的にやりたいという医師やスタッフがいて頑張っているなら応援しようという気にもなるが、そうではない。
予防医療やリハビリテーション医療や在宅医療を推進したり、化学療法や緩和ケアを丁寧にしたり、ふつうの二次救急を断らないことがまず先だということは現場にいればわかる。
再構築検討委員会地域医療部会での声もそういった声が大半であった。

今いる現場職員の声も聞こうとせず大事にできないのに、医師やスタッフは院長が大学医局などに頼み責任をもって確保するのだというからあきれてものが言えない。
しかも計画が実施されるころには「独裁者」を自任する院長は定年となるが「自分は責任を取れない」と明言していた。
もちろん一介の県議にだって責任はとれるわけではない。

過剰投資をしても医師をはじめとしたスタッフや患者が集まらず赤字が出たところで県や市町村が補填しつづけてくれるわけではないのである。
病院経営上は赤字が必至でも地域に取って必要なものだというのなら、地域住民の納得の上で公立病院でやるか補助金を毎年だして委託するかにしてほしい。

身の丈にあわない急性治療(ICU)、がん診療(放射線治療)とその工事などを引っ張って来たということで、政治家が、病院が成り立たなくなるまでのあいだいい顏ができるかも知れないということだけのことだ。
現場は、そんなことにおつきあいしているほどの余裕はない。

地域ニーズからも明らかにズレており職員も???な状態の中でトンチンカンなことを先頭に立ってやりたい人はいないだろう。
このまま計画がすすんでいってしまうととんでもないことになるように思う。


(平成23年11月11日、信濃毎日新聞より)

しかたがないので、そんないい加減な計画は却下、あるいは指導してもらうように直接、厚生農業協同組合連合会や長野県(知事や担当の健康長寿課)にも訴えてきた。
しかし県議の暗躍のためか何と、ひも付きの補助金が有識者で検討された結果、4億1800万円(なんと半端な金額!)ついてしまうことになってしまったようだ。

このまま計画が走り出してしまうと職員のモラール(志気)は間違いなく下がるだろう。
医師などは離職し、いまのレベルの診療すらできなくなる可能性が高い。

事務長は頭をかかえているらしい。

これでは地域医療再生計画どころか地域医療破壊計画である。
地域医療崩壊への序曲になり、あらたな聖地が誕生するのだろうか?

「地域ニーズにも、病院の実情にもあわない計画でした。計画は取り下げます。病棟の立て直しのために使わせてください。それが無理ならば補助金は返納します。」と頭をさげるしかないと思うのだが・・・。
病院長や長野厚生連理事長の英断を期待したいが、もっともそんなことが出来るようならこんな状況にはなっていないのだろうが・・orz。

地域住民に粘り強く訴えていくしかないのか?。


目指すべきは大町病院と安曇病院の連携、協業、そして統合。
二次医療圏と「がん診療」
なぜ、安曇総合病院への放射線治療機器という話しに?
大北地域の医療再編と安曇総合病院の再構築私案

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