戦後、占領軍の主導で日本にも放送行政を司る政府から独立した委員会である「電波監理委員会」が設置されたことは何度も紹介してきた(ここなど参照)。今日は、この委員会が廃止されたときの国会答弁を紹介したい。質問者は、山田節男参議院議員、後に広島市長となり原爆被害にあった広島市の復興に尽くした人である。
彼は13回国会内閣・郵政・電気通信委員会連合審査会で次のように述べた。
【電波法、放送法、これはいわゆる電波という国民公有のものに対して飽くまで公平に分配し、又最も国民の利福に合致するような工合に電波を利用し、又放送法或いは更に言論の自由ということも保障するということは電波監理法の原則になつております。これはもら憲法から申しましても、飽くまで守つて行かなくちやいけない。然るに今回これを一大臣の諮問機関にしてしまう、ここに私は憲法上非常にこれはいわゆる反動的になる、悪く言えば官僚主義にしてしまう、女史に悪く言えば党利党略に利用されるという危険が多分にある。殊にこの電報に関しまして、或いは放送に関しまして必ず免許という問題が起きて来る。免許ということはこれは一つの利権になる憂えが多分にあるのであります。これは丁度公益事業委員会が昨年九分断されるときにいろいろ噂に上つたと同じような、もつと熾烈な形においてこれが行われるのであります。而も今電波監理委員会が行なつておる電波行政は、占領軍政下においていろいろな制約を受け、又技術的に外国に非常に遅れておりますので、今日まで本質的な発達をしていない、今後この数年間においては全く測り知るべからざる発展をするのであります。従つて行政組織の上においても煩填になるし、又最初に申上げておるように、この電波行政、放送行政というものは言論の自由或いは電波の、万民公有の電波の公平なる有効且つ適切なる利用という本質を持つておる。これを一大臣が主管するということは非常にこれは危険性がある。わたしはいろいろ詳しく説明を申上げて大臣もこの点は御了知のことだと思う。そこで今回やはりこういう法案を本参議院に出されまして、かようなもう非常な……あなたは行政の簡素化、合理化、能率化という建前で今回の行政機構の改組をやつた責任者でありまするが、この郵政省の設置法の一部改正案について、電波監理委員会の存置問題に関する限りにおきましては、これは私は、極めて失乱な言い分でありますけれども、認識が足りないと思う。そこに非常な危険が包蔵される、又国民の利害が不公平に扱われるという危険が多分にある。これは私は国民の一人として判断しまして誠にこれは不合理極まるものである、危険千万なものであると思うのでありますが、重ねて私はお聞きしておきますが、野田大臣としてはこれが最上のものである。たとえ次期の総適挙の結果、自由党が再び内閣をとつてもこの一年、二年は絶対に変えないのだ、それだけの自信を持つてお出しになつているかどうか、この点を私は重ねて確認しておきたいと思います】
これに対し、野田聖子現議員の祖父である野田卯一行政管理庁長官は、
【電波監理行政を実施するために今回の機構改正におきまして電波監理委員会を廃止しまして、その仕事を郵政省の電波監理局で行うということは、私は現在並びに将来の電波監理行政の重要性に鑑みまして適当であるというふうに考えておりまして、先ほども一党一派に偏したようなことになつて、国民に対して非常に不公正な電波行政をやるのじやないかという御心配がありましたが、我々といたしましては、現内閣としては絶対そういうことは考えておりませんし、又他の党が内閣をとられましてもそういうことはないのじやないか。やはり飽くまで公正に、憲法の示すところによつて行政をなすべきものである、こういうふうに考えております。その点は私は余り心配いたしておりません。飽くまで公正に、立派な電波行政をやつて行きたい。電波行政にこれから測り知るべからざる重要性があるということにつきましては、私は内閣といたしましては郵政大臣が直接の担当責任者となりまして、今後最善を盡してそれに善処して行かなければならんと、かように考えておる次第でございます】
と回答している。【現内閣としては絶対そういうことは考えておりませんし、又他の党が内閣をとられましてもそういうことはないのじやないか】という言葉のあまりの軽さ…。
山田議員はただ、次のように言うしかなかった。
【これは私は野田大臣とこの問題については見解の相違というのじやなくて、あなたはやはりこれがもう永久に正しいものであるとおつしやる。併し見解の相違というよりか、要するに電波行政というものの現在並びに将来に対しても認識の相違から来ていることである。今野田大臣はそういう確信を持つて、そういうことをおつしやるならば、私は一応大臣の言葉として記録にとどめておいて、後日この言葉が正しいか、私の言葉が正しいかということは、これはもう今後の事態が証明すると思うからこれ以上私は議論いたしません】
電波監理委員会が廃された結果、新聞社による波取り合戦、そしてそれを利用した田中角栄による新聞・テレビの系列化と放送局支配、NHKに対する政府の口出しなど様々な問題が発覚し、表現の自由は制約されていった…山田議員と野田長官のいずれが正しかったかはもう一目瞭然である。
当時の市民はこの議論の重大性を知り得なかったし、それに反対すべき勢力はレッドパージによって追放されていた。
インターネットに対する規制がされようとしているいま、私たちは、その情報を知りうるし、その問題点がどこあるかも多くの専門家が指摘し、警鐘を鳴らしている。山田議員の忠告に耳を傾けることのできなかった当時の市民とは違い、私たちはいま、自ら、判断をするだけの力を持っている。
身近な人にできるだけ多くこの事実を伝え、できるだけ多くの政治家にインターネットの自由を守るよう求めましょう!
(その1、その2、その3、その4、その5、その6、その7、その8、その9、その10、その11、その12、その13、その14もご参照下さい。)
★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
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