昨日、青森地裁でグリーンピースメンバーによる横領鯨肉確保事件についての公判前整理手続きが行われた。この手続きは非公開であるため、詳細は書けないが、裁判所が発表したとおり、①鯨肉を取得した際に、不法領得の意思(権利者を排除し他人のものを自己の所有物と同様に、その経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思)があったかどうか、②不正を暴くという目的での行為であり、正当行為となるかどうか、③国際人権規約によると処罰されるべきではないのではないか…の3点が争点であることが確認された。
このうち、①については、確保した鯨肉をそのまま横領の証拠として検察に提出したのであり、これをも「不法領得の意思」があるということにすると、今後、市民による不正追及行為を行うことができなくなってしまうのではないか、という問題があり、②についても、市民が善意で行う不正追及行為が正当視されない社会には住みたくないような感じもする。
③は新しい議論なので、弁護側主張のうち、国際人権規約の判例と同視される欧州人権裁判所の判例を引用している部分を紹介したい。
■■引用開始■■
「FressozおよびRoir対フランス」の判例では、2名のジャーナリストが、匿名の税務関係者による違法な情報漏えいを受けて、プジョー社の取締役の納税申告書を公表したことから、盗難資料を入手したとしてフランスの裁判所から贓物犯罪で有罪判決を受けた。この取締役が2年間で45.9%の昇給を自らに与えていたことを示すこの2名のジャーナリストによる記事は、プジョーの労働者が昇給を要求して拒否されていた労使紛争のさなかに発表されたものであった。裁判所はこの事件の判決において以下のように判断し、両名に対して刑事罰を科すことはヨーロッパ人権条約10条に反するとした 。
「民主主義社会において報道機関が果たす不可欠な役割を認識しながらも、裁判所は、第10条がその保護を認めているという前提で、原則としてジャーナリストを通常の刑法に従うという義務から解放することはできないことを強調する。確かに、第10条2は表現の自由の行使の限界を定義している。本件の特殊な環境において、世間に情報が知らされるという利益が、申請者に送付された資料の出所の疑わしさによりもたらされた申請者の『義務と責任』にまさるかどうかを判断しなければならない。」
(中略)
「つまり、取材に携わる個人は、法を犯すことを全般的に許可されているのではなく、個々の事例において、世間に情報が知らされることの重要性が刑法によってもたらされる利益にまさるかどうかを評価しなければならないのである。」
(中略)
「欧州人権裁判所は、FressozとRoireが、透明性の高い方法で誠実に行動しており、納税申告書のコピーを入手するという犯罪行為が彼らの記事の信頼性を証明するのに必要であったと判断した。」
(中略)
「現在検討中の事例について、裁判所は、当該事件に関するFressoz氏とRoire氏の記事にも彼らの誠実さにも疑問がないことを指摘する。課税査定の真正さを検証したRoire氏は、ジャーナリストとしての自身の職業を遂行する(倫理)基準に従って行動した。個々の資料からの抜粋は問題となっている記事の内容を裏付ける目的があった。よって、納税申告書の公表は対象となっている事案についてのみならず、提供された情報の信頼性にも関係があった。」
■■引用終了■■
ジャーナリストは、形式的に法を犯してでも、真実を伝えなければならないときがあるし、そのことは正当化されるというわけだ。
そして、そのような正当化は、ジャーナリストのみならず、誠実に不正を摘発しようとする市民団体にもなされるという。
■■引用開始■■
イギリスにおいて、ロンドン・グリーンピース(被告人両名が所属しているNGOとは関係ない)という市民団体がその配布物においてマクドナルド社を批判したことに対して、名誉毀損で訴えられたケースである。この「マック名誉棄損」裁判では、裁判所は、環境運動家が享受する表現の自由はジャーナリストのそれよりも水準が低いとするイギリス政府の主張について、次のように判示してこれを退けた 。
「(イギリス)政府は、申請者がジャーナリストではなかったので第10条のもとで報道機関に与えられる高い水準の保護を受けるべきではないと指摘した。しかしながら裁判所は、民主主義社会においては、ロンドン・グリーンピースのように小規模で非公式の運動グループであっても、自身の活動を効果的に実行できなければならないこと、そして、主流ではないこのようなグループもしくは個人が、健康や環境など一般的な公共の利益に関する問題についての情報や思想を広めることによって国民的論議に貢献できるようにすることについては強い世間の関心が存在することを考慮している。」
■■引用終了■■
つまり、目的の正当性と手段の相当性によって、市民の不正を暴くという行為は、民主主義社会に資するというのが、ヨーロッパスタンダードなわけだ。
そして、その基準は、日本でも当然、適用されるべきだと考える。
弁護団の主張の要約版が、
http://www.greenpeace.or.jp/press/releases/attached/20090213humanright.pdf
に掲載されているので、二人の行為を批判する方は、ぜひ、一読していただきたい。
※二人のインタビューはこちら→http://www.tv.janjan.jp/0902/0902130364/1.php
【おまけ:愉快な仲間たち番外編】
13日午後9時52分、青森駅構内の待合室で愉快な仲間が目を覚ました。眠りに落ちたのは、推定午後9時40分。本人は、目覚めたときもまだ、午後9時50分発東京行きの夜行バスを待っているつもりだった。
次の瞬間、反射反応のように、待合室の大きな丸い時計に目を向けた。「やばい」…。鞄を掴み、バスが待っているはずもない10番乗り場へダッシュした。
幸い、一台の深夜バスがエンジンをかけて止まっていた。
「間に合った…」。しかし、切符を一瞥した車掌の言葉は思いがけないものだった。
「もう、出ましたよ」…。その車掌のバスは、仙台から青森についたところだった。
…あと一駅ってところで、眠って乗り越すってことありますよね。50分待っていたのに…。クゥ~。
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★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
★「News for the People in Japanを広めることこそ日本の民主化実現への有効な手段だ(笑)」(ヤメ蚊)
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このうち、①については、確保した鯨肉をそのまま横領の証拠として検察に提出したのであり、これをも「不法領得の意思」があるということにすると、今後、市民による不正追及行為を行うことができなくなってしまうのではないか、という問題があり、②についても、市民が善意で行う不正追及行為が正当視されない社会には住みたくないような感じもする。
③は新しい議論なので、弁護側主張のうち、国際人権規約の判例と同視される欧州人権裁判所の判例を引用している部分を紹介したい。
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「FressozおよびRoir対フランス」の判例では、2名のジャーナリストが、匿名の税務関係者による違法な情報漏えいを受けて、プジョー社の取締役の納税申告書を公表したことから、盗難資料を入手したとしてフランスの裁判所から贓物犯罪で有罪判決を受けた。この取締役が2年間で45.9%の昇給を自らに与えていたことを示すこの2名のジャーナリストによる記事は、プジョーの労働者が昇給を要求して拒否されていた労使紛争のさなかに発表されたものであった。裁判所はこの事件の判決において以下のように判断し、両名に対して刑事罰を科すことはヨーロッパ人権条約10条に反するとした 。
「民主主義社会において報道機関が果たす不可欠な役割を認識しながらも、裁判所は、第10条がその保護を認めているという前提で、原則としてジャーナリストを通常の刑法に従うという義務から解放することはできないことを強調する。確かに、第10条2は表現の自由の行使の限界を定義している。本件の特殊な環境において、世間に情報が知らされるという利益が、申請者に送付された資料の出所の疑わしさによりもたらされた申請者の『義務と責任』にまさるかどうかを判断しなければならない。」
(中略)
「つまり、取材に携わる個人は、法を犯すことを全般的に許可されているのではなく、個々の事例において、世間に情報が知らされることの重要性が刑法によってもたらされる利益にまさるかどうかを評価しなければならないのである。」
(中略)
「欧州人権裁判所は、FressozとRoireが、透明性の高い方法で誠実に行動しており、納税申告書のコピーを入手するという犯罪行為が彼らの記事の信頼性を証明するのに必要であったと判断した。」
(中略)
「現在検討中の事例について、裁判所は、当該事件に関するFressoz氏とRoire氏の記事にも彼らの誠実さにも疑問がないことを指摘する。課税査定の真正さを検証したRoire氏は、ジャーナリストとしての自身の職業を遂行する(倫理)基準に従って行動した。個々の資料からの抜粋は問題となっている記事の内容を裏付ける目的があった。よって、納税申告書の公表は対象となっている事案についてのみならず、提供された情報の信頼性にも関係があった。」
■■引用終了■■
ジャーナリストは、形式的に法を犯してでも、真実を伝えなければならないときがあるし、そのことは正当化されるというわけだ。
そして、そのような正当化は、ジャーナリストのみならず、誠実に不正を摘発しようとする市民団体にもなされるという。
■■引用開始■■
イギリスにおいて、ロンドン・グリーンピース(被告人両名が所属しているNGOとは関係ない)という市民団体がその配布物においてマクドナルド社を批判したことに対して、名誉毀損で訴えられたケースである。この「マック名誉棄損」裁判では、裁判所は、環境運動家が享受する表現の自由はジャーナリストのそれよりも水準が低いとするイギリス政府の主張について、次のように判示してこれを退けた 。
「(イギリス)政府は、申請者がジャーナリストではなかったので第10条のもとで報道機関に与えられる高い水準の保護を受けるべきではないと指摘した。しかしながら裁判所は、民主主義社会においては、ロンドン・グリーンピースのように小規模で非公式の運動グループであっても、自身の活動を効果的に実行できなければならないこと、そして、主流ではないこのようなグループもしくは個人が、健康や環境など一般的な公共の利益に関する問題についての情報や思想を広めることによって国民的論議に貢献できるようにすることについては強い世間の関心が存在することを考慮している。」
■■引用終了■■
つまり、目的の正当性と手段の相当性によって、市民の不正を暴くという行為は、民主主義社会に資するというのが、ヨーロッパスタンダードなわけだ。
そして、その基準は、日本でも当然、適用されるべきだと考える。
弁護団の主張の要約版が、
http://www.greenpeace.or.jp/press/releases/attached/20090213humanright.pdf
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※二人のインタビューはこちら→http://www.tv.janjan.jp/0902/0902130364/1.php
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13日午後9時52分、青森駅構内の待合室で愉快な仲間が目を覚ました。眠りに落ちたのは、推定午後9時40分。本人は、目覚めたときもまだ、午後9時50分発東京行きの夜行バスを待っているつもりだった。
次の瞬間、反射反応のように、待合室の大きな丸い時計に目を向けた。「やばい」…。鞄を掴み、バスが待っているはずもない10番乗り場へダッシュした。
幸い、一台の深夜バスがエンジンをかけて止まっていた。
「間に合った…」。しかし、切符を一瞥した車掌の言葉は思いがけないものだった。
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★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
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