「おもいでのアルバム」という歌がある。<いつのことだか思いだしてごらん あんなことこんなことあったでしょ>。卒園式の子どもの歌にぐっと来た経験をお持ちの方もいるだろう▼一年の移ろいと思い出の歌だが、いやな思い出は一切出てこない。<うれしかったこと おもしろかったこと いつになってもわすれない>。脚本家の山田太一さんが「ノスタルジーとは過去のいいとこ取り」と書いていたが、人の脳には良い思い出ばかりを残すようなところもあるのか。あの歌にそんなことを思う▼最近の調査によると日本人の七割が平成は良い時代だったと考えているという。けっこうなことだが、去りゆく平成から良い思い出ばかりを拾い集めているようなところもあるかもしれない▼平成を継ぐ新元号は万葉集の「初春令月、気淑風和」から「令和」となった。耳になじむにはまだ時間がかかるだろう。漢文学者の白川静さんによれば、令の字は神のお告げをひざまずいて受ける人の形だそうだ。命令、指令の令。神意に従うことから「良い、りっぱ」の意味になったらしい▼神託と聞き、若干のいかめしさを覚えるが、平成にしても当時は音がやや軽いという声を聞いたものだ▼平和の「和」、協調を意味する「和」の文字を重く受け止めたい。それが大切にされる時代になれば、おのずとその新元号は広く愛されよう。