中国の処世訓『菜根譚(さいこんたん)』は、「多く蔵する者は、厚くうしなう」と言っている。ユダヤの格言にはこうあるという。「あなたがたくさんのものを持てば、悩みごともたくさんになる」。持てるがゆえの苦悩があって、失う時にそれだけ強く痛むのだと、古人は説いていよう▼「うそだ」「陰謀である」「最後まで戦い抜く」。フランスのテレビが報じた日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告のインタビューの動画をみた。反撃であろう。一昨日の四回目の逮捕の直前という映像にあったのは冗舌で、時折激しい、自信に満ちた物言いである▼築き上げた地位に加え、将来得られるはずであった富も失おうとしていよう。もし予定通りに、記者会見が開かれていれば、国内外に向けて、同様の強い口調がみられていたはずだ▼一方で、東京地検特捜部による今回の逮捕容疑が語る容疑者の像は、自信に満ちた語り口だった人物の姿とは、まったく相いれない▼中東オマーンの販売代理店が絡んでいる事件は額が大きく、不正に還流させたカネを私的に流用した疑いもあるという。過去のケースと比べても悪質性を感じさせる▼二転三転してきた展開は、またしても大きく動いた。保釈後の異例の拘束で、再び司法制度への国外からの批判を呼び起こす可能性があるだろう。想像以上に激しい、持てる者の抵抗をみているようである。