夫婦のネズミと三匹の子ネズミが住んでいた。ある日、お父さんのネズミは食べ物を探しに行ったまま帰らなかった。どうやらネコに襲われたらしいが、お母さんは子ネズミたちには黙っていた▼その日以降、お母さんのネズミが食べ物を探しに出るようになる。ある日、お母さんも帰らなかった。子ネズミはおなかを減らし、泣きながらお母さんを捜しに向かう。さて子ネズミたちはどうなるか。スリランカに伝わる民話だそうだ▼事件に巻き込まれ、帰らぬ親を待ちわびる子どもたちもいるのではないか。悲しい想像をしてしまうスリランカでの大規模テロ事件である▼キリスト教会やホテルなどが標的になった。春の日曜。その陽気さが似合うべき場所が無残な現場に塗り替えられた。死者は三百人に迫る。やりきれない▼断定はできぬが、イスラム教過激派の関与が指摘されている。背景は同国が抱える宗教間の対立感情か。今回のテロ事件が新たな対立と憎悪を生みださぬか心配する▼子ネズミたちはお母さんを捜しに行く途中で例のネコに出くわす。子ネズミの話を聞き、ネコは自分がネズミの両親を殺してしまったことに気がついて涙を流す。自分にも三匹の子猫がいる。ネコは子ネズミを家に連れ帰り、育てたという。宗教の違いも対立もきっといつか乗り越えられる。その民話を今はどうあっても信じたいのである。