ある女が舞踏会に招待されたが、身に着ける宝飾品を持っていなかった。資産家の友人にダイヤの首飾りを借りたが、事件が起きる。その首飾りをなくしてしまう。モーパッサンの短編「首かざり」である▼必死に捜すも見つからない。女とその夫は多額の借金をして似た首飾りを買い、紛失の事実を隠したまま友人に返す。借金を返すのに女は十年、身を粉にして働き、すっかりやつれる。ある日、女は友人に事実を告げる。友人は驚く。「あれは安物の模造品だったのに」。なんのための苦労の日々だったのか。がっくりきただろう▼安倍首相の連続在職日数が二千七百九十九日となった。佐藤栄作元首相を抜き、ついに憲政史上最長。安倍さんにはめでたき日なれど、へそ曲がりのコラム書きは「首かざり」を思い出している▼安倍さんが胸を張った経済政策アベノミクスを模造品とまでは言わぬ。株価は上がった。国の税収も伸びた。されど、喧伝(けんでん)していた生活の豊かさはいつまでたっても実感できない▼そしてコロナである。アベノミクスが積み上げた一応の経済効果もコロナによって吹き飛びそうな見通しである。不運とはいえ、七年半の取り組みとはなんだったのか▼お加減がすぐれないとうわさされる。二千七百九十九日の苦労と芳しくない結果を前にすれば、気持ちの方が弱くなったとしても無理はないかもしれぬギ・ド・モーパッサンは、フランスの自然主義の作家、劇作家、詩人。『女の一生』などの長編6篇、『脂肪の塊』などの短篇約260篇、ほかを遺した。20世紀初期の日本の作家にも影響を与えた。ウィキペディア