男物の襦袢です。昨年のうちに「男物襦袢」をさがしてほしいという
お客様のご要望にお答えしまして、とりあえず3種ほどご用意しました。
着物の仕事をなさっておられるのですが、いわゆる「大手」とよばれる会社、
一応「研修」という形で着物のことは習ったとおっしゃるのですが、
実はあんまり詳しくない…ムリもありません。
着物のことをたかだか2~3週間でわかろーなんて?!
そんなこんなで、うちにくると商売ではなくお勉強になってしまうんですねぇ。
で、そのかたが「じゅばんがほしい」とおっしゃったわけで、
あんたんとこ呉服屋なのに、といったら「ここで見るようなのはない!」
そりゃそうですが。それでお取り揃え致しました。
着物は紺系アンサンブル、襦袢の柄はどんなのがいいかわからないのでお任せ、
ということでしたので、総柄と絵羽柄と両方選んでみました。
トップ写真のじゅばんは「木目に冊子柄」です。
普通冊子柄というと、何冊かが重なっているとか、散らしてある
というのが多いのですけれど、これは一冊だけ、「文化武鑑」です。
「武鑑」というのは、江戸時代に編成された武家の「紳士録」のようなもの。
元々は江戸の「出版・販売」、いまでいう本屋と出版社を兼ねた商売人が、
大名の紋所を集めた「紋辞典」のようなものを作ったのが始まり。
江戸時代は写真もテレビも新聞もありませんから、名前がどれほど有名でも、
実際に会ったことがなければ相手がわかりませんでした。
赤穂浪士が吉良さんを炭小屋からひっぱりだしたとき、
城中でカオを見たことがある浪士に確認させ、なおかつ額の傷と背中の傷で
本人であることを確認した、というのも、写真がなかったからです。
おまけにテレビの時代劇のように「南町奉行所」なんぞという看板も、
「何々家」という表札も実際にはありませんでした。
ずっと場所の変わらないものは、
看板がなくてもそれがなんであるかみんな知っていたからです。
とはいうものの、時には屋敷替えやお国替えもありますし、
商人は商売のためにも「何々の紋所は何々家」と、知る必要があったわけです。
また、当時駕籠の行列同士が行き会うとか、町を歩いていて行列と出会う、
といったような場合、挨拶の仕方にも「格」がありました。
情報量が極端に少ない当時は「紋所辞典」はたいへん便利だったわけです。
やがて、紋だけでなくその家の家系、係累、治めている領地、仕えている大名、
つかう道具の印、石高など、細かい情報も書かれるようになりました。
これが「武鑑」といわれるものです。
武鑑というものが世に定着して、毎年刊行されるようになってから、
特に「須原屋」という今でいうところの出版社が特に充実しているとされ、
武鑑なら須原屋、と言われるようになりました。
「文化武鑑」は、文化年間に作られたものです。
リアルな板目、その上の冊子の傷みの部分なども、かなり細かく描かれています。
こんな感じ…、
2枚目は、ガラッとかわってささっと描かれた墨絵風の「瓢箪と馬」、
これはあまりない「紬地」で「単」です。わざとムラ染めにしたココア色の地に、
馬の絵の四角い部分だけは「絞り」で染め残したもの。
なかなか凝ってますが、惜しむらくはこの白い四角部分が、
まっすぐ吊るしても、ややかしいでいること…。ご愛嬌ってとこで…。
三枚目は、まぁよくある「額絵」タイプなのですが、
とても大きな絵になってまして、下はまだ続き両袖にも柄が続いています。
大きな川のほとりに立つ楼閣の、あちこちに人がいます。
観光地のような感じ?お茶してる人たちもいれば、景色を眺めている人も…。
それほど珍しいという絵ではありませんが、たいへん大きくて細かくて、
物語が広がる感じです。
さて、この三着のうちから、お選びいただこうと思っているのですが、
実はもうひとつ「条件」を言われておりまして、
「10000円まで」、この三点とも、それをクリアしていますし
冊子と馬は「半衿」替えればそのまま着られます。
でも「冊子」はちょっと背中と裏の下の方ににシミがありますし、
「馬」は単ですし、「額絵」は一番安いですが少しヤケている部分があります。
全体的には全部着用可、お買い得だと思います。古着ですからねぇ…。
さぁ、オシゴトオシゴト??全部買ってくれないかなー!
文化武鑑の事なんて全く知りませんでした。
写真の無い時代の・・・言われてみればなるほどと
納得です。
コメントありがとうございました。
古いものといってもとっても珍しいものばかりお持ちなんですね。
特にこの襦袢の絵柄、書き物の絵柄、書き物の内容が読めるところなんて感心します。「鍋島」なんて文字が見えて身を乗り出しました。
「鍋島」出身なので。
時代考証などもお詳しいんですね。
私は単に昔の柄はいいなぁと感心してるだけなんで、勉強させていただきます。
写真や映像はすごい力を持っているってことですね。
いまでは逆に情報が「流れすぎて」困ってる…
皮肉なもんですよね、文明って。
さくら様
ようこそお越しくださいました。
古い着物には、今の時代にない色柄があって
おもしろがったり感心したりです。
もっときれいに写真が撮れるといいのですが…
勉強させていただくのは私の方です。
よろしくお願い致します。