ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

証紙ってぇもの…

2008-12-06 17:59:02 | 着物・古布
博多の帯!…といいたいところですが「伊達締め」です。

実は知り合いの呉服屋さんが「博多織の展示会」をやりまして、
ぜひ「博多織」のプロを引き合わせたい…と、お客さんが来る前に、
いえまでつれてきてくださいました。
博多織の帯と着物をみせていただいて、イマドキの呉服事情なども
ちょっと話したりして…わたし眼正月させていただいたのです。
伊達締めは、まぁ荷物の底に入っていたのを見つけまして、
ああこれも博多織ですよ、といわれて買っちゃいました。柄が気に入って…。
博多織のランクは、中の小さい証書のひし形のマークの色、です。
証紙についてはこちらをご覧下さい。ちなみにこの伊達締めは「金」です。

さて、証紙…ですが…何かとわからないことが多いのも証紙です。
昔々は、その地域で作られたものに単純に「何々染め」とか「何々織り」と、
名前がついたわけで、その技術はたいがいは「そのあたりのもの」でした。
時代とともに、さまざまな理由で産地が広がったり、技術が広まったり…。
それでもそのスピードはそれほど速くはなかったわけです。
ところが近代に入って情報の伝達がだんだんと早くなり、技術が進歩し、
どこにいても、その技術を真似して作ろうと思えば作れる…なんてことになり、
また伝統工芸とか人間国宝とか、本に載ったとかテレビで紹介されたとか、
そういうことが「ヒトに認められる基準」となり、
今度はそのお墨付きがあるとかないとか…。

そんなことで、証紙で証明するようになったわけですが、
その産地のなんとか組合とか保存会とか、別々のところで出してたりして
一貫性がなかったりするものもあるわけです。
名前が一人歩きしてみたり、偽者が出たり、
間違ってはいないんだけど、同じ産地でいろいろな「ホンモノ」がでてきたり…。
また江戸小紋のとき書きました「型染め」と「捺染」など、
作り方の別方法ができたり…。もちろん悪いことばかりではないけれど、
結局ややこしいことがたくさんでてきたのに、消費者が着物離れしてしまった今、
日常生活の中でそういう情報を耳にするチャンスは減ってしまったわけです。
だからホンモノか偽者か…なんて悩んだりするんですね。

「証紙」というと思い浮かぶのは大島紬と結城紬、でしょうか。
大島の場合は証紙はいまのところ4種類あります。
有名なのは「地球」か「国旗のクロス」か、ですね。
残りふたつは「高倉印の笠利」「鶴印の都城」です。
でも、私も話に聞いただけで実際の証紙も見たことがありませんし、
「これは笠利です」とか「これは都城です」と、実際の反物を
見せてもらったこともありません。
やーーーっと「鶴印」の証紙の写真を見つけました。
鶴だといわてみれば、鶴の形がわかると思います。


   


奄美大島や鹿児島ほど有名でない、というだけで
「本物じゃないんじゃないの?」なんてことだったら
大島にとってはヒゲキですね。

さて、あなたは「大島」と聞いたら、どんな紬を連想しますか?
あの独特のこげ茶とか黒とかの細かい絣の柄…。
実は大島紬はどこで作っていても「大島」の定義通りの作り方をしていれば、
たとえ韓国でも「ホンモノ・大島」なのです。
例えばそれは「ちゃんと信州のそば粉で、信州そばの作り方どおりに作って
それを料理して出せば、東京の真ん中で『信州そば』と看板を出しても
偽者ではない」…なんかすごいたとえ話ですけど、
結局そういうことなんです。
では「大島紬」の定義ってなんでしょ。

・絹100%
・先染め手織り
・平織り
・締機(しめばた)により、手作業で経緯絣及び緯絣を加工したもの
・手機(てばた)で絣合わせをして織上げられたもの

この五つです。
あの独特の色を出す「泥染め」は、定義には入っていません。
それは大島でも泥染めでないものもあるからです。
大島の一番大切な定義は「締機」という絣の作り方です。
大島の中でも「泥染め」は、第二の特徴として「泥染め」という
別の証紙がつくわけです。草木染には「草木染」の証書がつきます。

おまけにいろんな技術の進歩で、素人にはとてもわからない製造方法の違いが
いろんな「紬」を産んでいます。
色大島は、化学染料です。藍大島は藍で染めたもの、
泥藍は藍で染めて泥染めをしたもの、白大島は地をそめないもの…。

更にその産地によって組合を作り、その組合ごとに「証紙」を決めています。
単純に、大島は「地球が奄美」「旗が鹿児島」ですが、
泥染めをやっているのは奄美だけ、だから奄美で染められた糸なら、
鹿児島で織られたものにも泥染めの名前が入ります。つまり「旗印で泥染め」。
奄美大島で染められても草木染なら「草木染」の証紙になります。
また韓国大島は、泥染めがないだけで「定義」は守っていますから、
「大島紬」でまちがいありません。但し鹿児島でも奄美でもありませんから、
「メイド・イン・コーリア」の産地証明になります。
ああややっこしい…。

じゃ、よく似た名前の「村山大島は?」
村山大島は、奄美大島とは全く別物、同じところは「生糸を使っている」こと、
元々村山アタリで織られていた紬があり、世の中に「大島」というものが
歓迎され、広まるようになったけれどたいへん高価である、
そこで大島によく似た風合い色柄の織物を作ろう、と紬糸ではなく生糸で織った…
大島は紬糸で織っていませんから、本来は紬ではなく「平織りの絣織物」です。
村山はそこをまねたわけです。
だからと言って大島をまねた偽者、ではありません。
元々、いいものはその技術を盗まれるくらいいいものなわけで、
例えば「加賀友禅」は、京友禅が源流です。
ただ、まねをするだけでなく、今度は加賀での特徴を確立し、
それが「加賀友禅」と認められていったというわけです。
八丈も、八丈島の黄八丈だけでなく「○○八丈」と名前のあるところがあります。
それは「八丈の技術や特色を真似て、更に当地の特色を盛り込んだもの」で、
まねっこのニセモノではありません。
つまり、呉服の偽者というのは「そこで作っていないのにそこを名乗る」とか、
「そこの技法を使っていないのに、その技法を名乗る」ことなわけです。
だから「村山大島」は、大島紬の色柄をまねて生糸で平織りの絣を作った、
というだけできちんと産地は「村山」と名乗っていますし、
かすりも「締機」ではなく「板締め」であることはわかっています。
ニセモノ大島とか、大島紬のコピー商品ではないのです。
実際大島紬があまりにも高価で手が出ないため、
その雰囲気を楽しむためのものとして、いっとき村山は人気の商品だったのです。

また、結城紬の方は、本場でも大島のように定義が決められて、
それ以外のものは「そうではない」と言い切れる状況にないものもあります。
元々の結城は「手つむぎの真綿糸、手くびりの絣、いざり機使用」ですが、
それにやっぱり「重要文化財」の指定があったとかなんとか…。
本場結城と呼ばれるものには「結」の字、
石下地方の結城には「紬」の字が入っています。
また本場結城紬でも、卸商組合に所属していなければ「結」はつけられません。
石下も結城には違いありませんが、石下の定義で決めていますから、
石下の証書であって、結城全体の証書ではありません。
また三つの定義の以外の作り方のものでも、
証紙がついたりしているものもあるのだそうです。
こうなったらもうシロートなんかにゃわかりません。
結城紬については、呉服屋さんでさえも「??」があるのです。

モンダイなのは、昔は呉服屋さんが、というより、商売をする人が、
自分の仕事に誇りを持っていましたから「間違いのないもの」を仕入れ、
それを「これは何々どこそこのホンモノですよ」と売ってくれたわけです。
だから証紙の見方なんてわからなくても、呉服屋さんが
「これは鹿児島で織られている泥染め大島」といえば、そうだったわけです。
それが今は「証紙がついてりゃごまかせる」とばかりに、
にせものにそれらしい証紙をつけるなんぞと、とんでもないサギが出てきたり、
よくありますね消火器売りつけるのに「消防署の『方』から来ました」っての、
追求したら「消防署からきたって言ってない」なんてのが。
そういう商売といいますか、それをそう思い込んだのはアンタでしょ、
こっちはただ証書がついてますよといっただけだ、みたいな…。
そういう意味で、今は消費者も賢くならなきゃならんのですね。

いいもの本物は、ほしいと思うもののひとつではありますが、
あせらず眼を肥やして、まずは普段着物をジャカジャカ楽しみましょう。





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10 コメント

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ためいき^^ (えみこ)
2008-12-06 19:21:06
とんぼさんの知識にはアタマが下がったきりです^^;
大島紬に関しては、だいたいこんな感じで…と
知ってはいても
実際にちゃんとお話をうかがう機会もないし
うかがっても出るのはため息ばかりですしと
関わりのないように感じていましたが
知らないということとは別なんですね。ありがとうございます。
伊達締めも素敵ですね^^うらやましいです。
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Unknown (陽花)
2008-12-06 19:36:04
本当にお詳しい!
ただ漠然と・・・しか知らなかった事が
こんなに色々教えて頂けて、みんなが
賢くなったら呉服屋さんもうかうかして
いられませんね。
伊達締めいいお色ですね~
返信する
見て触って (otyukun)
2008-12-06 23:11:29
着物に証紙が必要か不必要かと問われれば有った方が良いと答えますね。
一応の指標になるからです。
トンボさんの様に詳しくない人が殆どだからでもあります。

「京友禅」の証紙もあるんですよ。
これを、我が得意先は鼻で笑って付けようとはしません。
何故なら自信があるのと、機械捺染やインクジェットもこの証紙を貼る事が出来るからです。
このままでは、真に不親切な証紙です。
「手描き友禅」「手描きローケツ」「摺型友禅」「写し糊型友禅」「ジェット友禅」などその出自が明白な証紙に変更すべきだと思います。

要は明白にする事に尽きます。
返信する
Unknown (とんぼ)
2008-12-06 23:48:45
えみこ様
覚えなきゃならなくて…だったのですが、
今は便利しています。
細かいことまで知らない店員さんも
いるくらいで…。
知らないよりは、知っているほうが
いいかもしれませんね。
返信する
Unknown (とんぼ)
2008-12-06 23:51:59
陽花様
イマドキは、お客側も、ある程度は
知っていたほうがいいこともありますね。
伊達締め、こんなにいいの使うの
はじめてですー。
うろこなので「厄除け」のつもりです。
返信する
Unknown (とんぼ)
2008-12-06 23:58:03
otyukun様
私も証書はあったほうがいいと思います。
ただ、ややこしいのは困るので、
要するに「簡略に・明確に」ですね。
同じ産地でいろいろにしないで、
ひとくくりで細かくわければいいんですよね。
違うものをつけられないように…。
おっしゃるとおり「インクジェット小紋」は
きちんとしてほしいですね。
「自信がある」というのもわかるのですが、
いまや「染」と「印刷」の違いも
わからない人もいるのですから。

返信する
本物と偽物 (りら)
2008-12-07 03:07:39
どっちでも本人が着易くて気に入っているのなら良いんじゃないか?と思うのですが、その前に、価格ってのがあるんですものねぇ。
騙そうとする人がいるから、騙されまいと必至になる人たちも出てくる・・・

本来なら物の良し悪しってのは証紙じゃなくて、布そのものの風合い、肌触り、色合い、柄で見分けられる物なはずじゃないか?と思うんです。
そして、それができるのが見巧者、着巧者と言われる人だと・・・・
理想論になっちゃってますけど。
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Unknown (とんぼ)
2008-12-07 14:52:35
りら様
私もそう思います。
洋装の「ブランド志向」というのが、
そのまま着物に持ち込まれている気がします。
そりゃ大島はステキだし、
いいなぁと思うのは、さすがにお高い。
でもそうでないものにだっていいものは
たくさんあります。
「大島だから選ぶ」のではなく
たくさんの中で大島を選ぶ、にならないと、
ただ名前と証紙に振りまわされることだって
ありますよね。
どっちみち買えないしーーははは。

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オークション・リサイクルではとくに (おつう)
2008-12-07 19:29:11
実物を見られない環境で買う場合、確かに証紙は一つの目安にはなりますよね。
使い回しや偽造もできるんですが。

わたしも結城も大島も持ってますがリサイクルで買ったものです。
証紙は両方ありませんが、絣の細かさ・軽さ・色柄・風合い・雰囲気の良さ・・・などから本場大島紬と地機手織りの結城紬だと思っています。
べつに間違っていたって構わないし、着心地がすっごくいいので気に入っています。

とんぼさんも以前書いておられたと思うのですが、ブランド名の付加価値で着物の高級化を図ってきた方々のおかげで、本来最高の普段着であるはずの紬が「お高い着物・よそいき着物」として定着していますよね。
軽くて疲れない水に強い大島などは、最も普段に着られるべきと個人的にはおもっているのですが。(贅沢な話ですが;)
普段着着物派の若い女の子たちに「高い・洗えない・面倒な絹は着たくない」と敬遠されていたりするのが哀しいところです。
もったいないです。
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Unknown (とんぼ)
2008-12-08 21:59:41
おつう様
本来、証紙なんてものはなくたって、
着物は色柄、価格で、自由に着れば
いいものだと私思います。
着物が特別のものになってしまって、
何か付加価値をつけなきゃならなくなって、
品質を保証するだけのはずのものが、
「高級品」の代名詞みたいになってます。
それでだまされる人がいたり、
意味が違うのにそう思い込んだり…。

洋風ブランドに対する意識と同じように
思ってしまう、今の風潮も拍車をかけてる
みんなどこかがズレてる、
そんな気がしますねぇ。

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