先日の「訪問着」のお話からちょっと広がります。
トップ写真は何の着物でしょう。
これは、昭和40年の本の中にあった写真です。
先日お話しした「あっさりめの訪問着」…ではなく、これは「付け下げ」と紹介されていました。
モノクロなのが残念ですが、例えばブルー地に花は黄色系かな…。
もう一枚、こちらは38年の本ですが、お茶席に…と「綸子の付け下げ」
同じページの反対側にこんな訪問着の写真がありました。
訪問着と付け下げは、似て非なるもの…。
今は、その差が縮まって、見ただけではわからない場合も多くなってきています。
元々、訪問着は「紋」が付いているのが当たり前、これは先日の訪問着の説明のところでかきましたが、
そういう「生まれ」であったものが時代とともに、「紋」をつけてしまうと着る場所が限られるから…と、
だんだん紋の数が減り、やがて「無紋」が多くなったわけです。
近代のように「紋はなくても豪華絢爛」な訪問着になって、では付け下げってなに…?
付け下げと訪問着の違い…これは以前説明していますが、おふたりさんに登場していただきましょう。
深夜の呉服屋さん、店先にて…
「つけさげ」…ねぇねぇ訪問着さん、聞いて聞いて。ワタシのおばあさんとかひいおばあさんは、
訪問着さんと違って、柄もちょっと抑え目で、そんで肩とか胸とかにも柄があんまりなくって、
前身ごろとおくみは柄がちゃんと続くけど脇のところはズレたりしたんだって。
そんで共八掛じゃなくて、八掛は別に買ったんだって。
でもさ、今のワタシって、柄も負けないくらいハデだし、肩先とかにも柄あるし、
脇もちゃんと柄つながってるし、ちゃんと『共八掛つきつけ下げ』なのよ。
だったらワタシだって『訪問着』って呼ばれたっていいと思わない?
「訪問着」…キモチはわかるけどねぇ…アナタそうやって棚に『反物』で置かれてるでしょ。
あたしたち訪問着はね、反物では柄を染めないのよ。
ちゃんと着物の形に裁断して、仮仕立てされてから、一枚ずつ染めたり刺繍したりするの。
それが訪問着であるしょーこみたいなものなのよ。だからやっぱりアナタは訪問着にはなれないの。
とまぁ、ちがいといったらそういうことなんですね。
元々は、付け下げは訪問着ほど豪華ではなく、小紋よりは改まったもの…という位置づけのもの。
礼装では略礼装になります。柄にもよりますが、色無地と同じ程度です。お茶席などでは重宝されます。
元々付け下げの出始めのころは「付け下げは、絵羽ではなく・紋もなく・共八掛ではない」が定義でした。
戦後生まれのもの、とされていますが、一説には戦時中から「贅沢禁止」の風潮を受けて、
考え出されたもの、といわれています。そのあたりから戦後の何もない時代(お金も)に受けたのでしょう。
私は、以前付け下げのことを「仇花」のようなかわいそうな着物だと書いたと思います。
付け下げは、昔のものを見ると、着た状態での柄行が確かに訪問着よりは華やかさに欠けますし、
一続きの柄になっていない、肩に柄がない等明らかに訪問着とは違う…という印象がハッキリしたものが多いです。
そして、何よりも大きな違いですが、作られるときに「反物のまま染められる」ということです。
これは今でもかわりません。そして元々「共八掛」がありません。紋もいれません。
だったのですが…それが今はいろいろ…です。
着物に柄を入れるとき、訪問着、留袖などは最初に反物を着物の形に裁って仮縫いします。
仕立てあがったときにきちんと柄が続くように、位置を合わせて染めたり描いたりしていきます。
だから、留袖や訪問着には、おくみと重なる前身ごろ部分は、途中までしか柄がありません。
更に共八掛分がいるので、元の反物も「四丈物」といわれる余分な長さがあります。
柄つけの手間と、反もの長さと、それだけで、普通の着物よりは高くなるわけです。
付け下げは、この手間をはぶくために、反物のままで「ここまで袖」という感じで反物の端にシルシをつけて、
柄をつけていきます。前身ごろは中まで全幅柄があるのが普通です。長さは普通の着尺の長さです。
付け下げは、出始めのころは前とおくみの柄が揃うものはありますが、脇はきちんと合いません…のはずでした。
これが、今のものは、訪問着のようにつながっているモノも多いわけです。
手元に昭和56年の「美しいキモノ」の本があるのですが、中に「重め柄の付け下げ」というのがあります。
「重め」というのはつまり「重厚」ということで、豪華な感じのするもの…です。
いわれなきゃ訪問着だと思う柄です。上の赤い訪問着みたいな感じ。
説明には「付け下げは柄の軽重の幅が広いので重宝である」と言うようなことが書いてあります。
つまり…訪問着のときに「重厚なものから、オシャレ着まで幅広いものだ」と書いたのと同じで、
付け下げも、そういう性質を持っているということなんですね。
並べると同等にはならないけれど、色柄でカブる部分は多いというわけです。
だったら「共八掛つき付け下げ」なんて、わけのわからないものは作らないであげてほしいと思うのです。
プロの方でも、着物に仕立てられてしまったら、元は訪問着か付け下げが判別が難しい…。
お店で見て、仮縫い状態なら訪問着、反物なら付け下げ…今はそこまでいかないとわかりません。
つまり「付け下げ」というのは、柄つけの方法というべきものなんですが、
今は訪問着より価格が安い、けっこう豪華な柄もある、脇の柄もちゃんとあってるし、共八掛もついているし、
柄は吉祥柄だし…じゃ訪問着っていってもいいじゃん…というわけ。
でも最初の作り方が違う…どっちでもいいようなものですが、
元々は訪問着と真横に並ぶことはできない着物だったわけです。
だったら、そのまま、あいまいではあっても、共八掛はないとか、脇の縫い目で柄は合わないとか、
それで残せば「そういう便利なジャンル」を確立できたと思うのですが、
「よくしすぎたばっかりに」アイマイなものになってしまったんですね。
昭和30年代の着物本を見ると「訪問着」のあとは、この付け下げタイプのものが「外出着」として、
いろいろ載っています。小紋でも柄を絵羽に老いた「付け下げ小紋」と言うのもあります。
先日「訪問着はいろいろピンキリあったのに、結局作る枚数が少ないから、一点豪華、で、
結婚式用などの高価なものを作る。だから地味目のオシャレ訪問着は今あまりない」と書きました。
だったら「付け下げ」は「付け下げ」で、小紋よりちょっとオシャレで、ちょっと安くできて、
柄によって訪問着のようにも見えるものは、略礼装にも使える、というくくりで定着すればよかったのに・・・と思うわけです。
そういう立ち位置を、きちんと決めてあげるのは、着る側の責任だと思うわけです。
わざわざ共八掛までつけて、上げ底みたいなことをしなくてもいいじゃないかと…こりゃ売る側の責任。
以前にもいいましたが、もし和装洋装がまぜこぜのまま、ちゃんと伝わってきていたら、
だんだんそういう変化が少しずつ続いて、それぞれの落ち着き場所ができたのではないかと思うわけです。
別に付け下げについてイカっているというのではありません。否定するつもりもありません。
アッサリ訪問着も、重め付け下げも、ちゃんとわかって着れば、それぞれにそのよさを生かす場所があり、
着る側だって、少し安い目ならこっち、とか少々高くてもやっぱり訪問着、とか、
選択肢がちゃんとした形で提示されるわけです。もっとも、この本の中の訪問着と付け下げは
10000円しか差がありませんでしたが…。
なんといいますか、わからなくなっている分、なんだろう…ま、いっか…みたいなことで、
線引きしたほうがいいところを、きちんとした説明もなしに、あいまいにしていく方法は、
格やしきたりをきちんと育てて、時代にあった変化をさせていくのとは違う気がするのです。
着物全体にとってもいいことではないと思う…というお話しです。
こだわりすぎといわれればそれまでてすが…。
ふだんから着用している「洋服」では
こういった決まり事はどうなんだろうかと。
「おしゃれ」で「今風」の紹介はあっても
「TPO」までは解説していないなぁと。
それだけ、入り乱れているのでしょうね。
成人式用に祖母につくってもらった着物は振袖ではなく訪問着といわれたのですが(紋なし)、表はクリーム色の紋綸子に四季花、八掛は柄の一色をとったオレンジです。これはもしかして付け下げ?
付け下げも「付下」と書いたり「附下」と書いたりして名前からして曖昧ですね。
洋装は、フォーマル以外は、もう慣れていますから、
感覚的にこれじゃまずいとか、聞かなくても
わかるんじゃないでしょうか。
しきたり本にもフォーマルくらいしかのっていませんね。
共八掛と言うのは、最初から反物にその分ついているものですから、
一般的には表の地色と同じに染めるのが多いのですが、
例えば八掛だけ地紋が違って同じ染とか、八掛に柄をとばすとかもあります。
柄の一色をとることもあります。
普通の着物は、白にぼかしですよね。だから、例えば付け下げに、
八掛だけ別生地を同じような色に染めてつければ、
訪問着だといってもわからない場合もあるわけです。
だから、仕立てる前までさかのぼってみないと、わからないんですね。
解く機会がありましたら、前身ごろとおくみの間をみれば、
訪問着の場合はたいがい柄が反幅の三分の二くらいまでしか入っていません。
付け下げは全部描かれているものが多いです。
名前の書き方もあいまいです。それだけいろんな意味で、
きちんと定着していないのだと思います。
古い本だと「附下げ」「附け下げ」「附下」など、ごちゃごちゃです。
訪問着だと一目瞭然ですが、仕立て上がった
状態で訪問着or付け下げと聞かれても本当に
見分けがつかないですね。
付け下げ訪問着とかの言葉も、線引きがどうなっているのか分かりません。
なるほどそういうことだったんですね。
今までなんとなくぼんやりとしていたことがくしてキチンと説明されると良く判ります。
しかし染めの仕方が違うとは全く考えもしませんでした!
いっそまぜこぜで、同格…になれば
考えなくていいんでしょうけれど、
そこまではねぇ…。
附け下げ訪問着って私も見ましたが、
どっちかにしてよ、と腹立ちましたわ。
別にきっちりしなくていいなら、同格に使えるとすれば
いっそシンプルなのに、格はイロイロ言うし、作るほうか好き勝手作るしです。
お金儲けが優先になってしまうと、いろいろ弊害が出てくるものだと思います。