ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

雀獲りの羽裏

2011-04-26 16:20:54 | 着物・古布

 

枝垂れ桜の下で、今雀を獲ろうとしているところ…。

今も使われるシンプルな「わな」、大きなザルの下には小米か雑穀が撒いてあるのでしょう。

今ちょうど雀が降り立ったところ、ちゅんちゅんと近寄ってきています。

おつきの少年は「あっ!きましたよっ!もうちょっと」とでもいっているのでしょうか。

若君のほうは、紐を引くタイミングをはかるのに、全神経を集中させているようですね。

 

   

 

こちらはキケンな立場の雀さん。

 

   

 

あぶないよ、えさにつられちゃだめだよぅ。

この雀獲りは成功したのでしょうか。

 

二人の少年は、それほど年齢も変わらないように見えますが、右側の少年は若君、左は従者。

若君はすでに烏帽子をかぶっていますから、元服しています。

平安時代は、元服は「年齢」ではなく、状況によって「位」を授けるかどうかです。

それまで角髪(みずら、あげまき)に結っていた髪を切り、「冠下の髻(かんむりしたのもとどり)」とよばれる

細い棒のような髷を結いました。これに冠をかけるようにしてかぶるわけです。

冠は、お雛さまのかぶっているもの、烏帽子は源氏物語の源氏などが普段にかぶっているもの。

いずれにしても、頭に何かかぶるということは「身分が確定している」ということで、

子供が「冠をかぶれるだけの器量を持った…」ということで元服させるわけです。

「加冠(かかん)」とか「初冠(ういこうぶり」といいます。

 

おつきの少年は、後ろでひとつにまとめています。これは「稚児」の形。

稚児といいますと、お寺の稚児さんを思い浮かべますが、貴族に使えた少年もこんな髪形をしていました。

うんと身分の高い人につく子供のおつきは、それもまた身分の高い子弟でしたが、

それほどでもないものに使えるおつきは、いわゆる一般就職…。

この若君がどれくらいの身分かはわかりませんが、こんなやんちゃをするのですから、

東宮様ってこたぁありませんね。

 

さて、雀を獲ってどうするの?

スズメ焼きというのがありますが、あれは「輸入物」、今は雀を食用であれ、飼育であれ、

捕獲することは国内では認められていません。

でも戦時中の話などでは「カスミ網でよく捕まえたもんだ」なんてそんなことを聞いたりしたものです。

では、日本人は昔はみんな雀を食べていた?そゃまぁ食べるひともいたかもですが、

使われたのは「鷹のえさと訓練」、鷹狩は平安時代から、貴族にとってのたしなみであり楽しみでした。

だから雀に限らず、鷹のえさとして、狩の訓練として、鳥を捕まえました。

またもうひとつ、江戸時代には「放生会」にも、雀は捕獲され、売られました。

「放生会」は、殺生を戒めたり、また日ごろの殺生を懺悔するという行事。

八幡さまで行われますが、この日はみな鳥売りや亀売りから雀や亀を買い求め、

それぞれ空に放ったり、池や川にかえしてやったりする…。まぁしらじらしくもありますが。

 

そんなわけで、雀は昔から人に近いところにいたわけですね。

「鳥刺し」という職業もありました。「鳥刺し」といっても、鳥の刺身じゃありませんよ。

この場合の鳥は雀にかぎりませんで、観賞用の声のいい鳥、見栄えのうつくしい鳥など、

鷹用の雀や鳩のほかにも、さまざまな目的で鳥を捕まえて売る商売。

またよく「鳥はトリモチでとる」といいますが、あの「モチ」は「餅」ではありませんで「糯」、

樹液や樹皮からつくるものです。といっても私は見たことありませんが。

 

雀獲りに夢中になっている少年二人、題材が題材なだけに、本来真ん中にくる主人公が、

右下にきて、左の雀獲りのザルへと視線がつながる…

これといってポイントのないまんなかにある柱が、実は柄をきゅっとひきしめています。

大きなお屋敷と広大な庭がひろがるサマを想像しながら、雀の味方をしようかなぁ…早くお逃げって。

 

 

この柄を見ていて久しぶりに伊藤 遊の「えんの松原」を思い出しました。

引っ張り出して再読…やっぱり児童文学って好きだわー。

「えんの松原」は「宴の松原」とも「怨の松原」とも書くとか。

今はもう「跡」しかありませんが、ここには昔怨霊が棲んでいた…という前提のお話です。

お話の主人公は「音羽丸」という少年。ひょんなことからであった東宮、つまり皇太子が襲われる

怨霊の正体を突き止めるお話。挿絵に出てくるのが、ちょうどこんな感じの少年二人です。

よろしかったら読んでみてください。クリックすると、アマゾンのほんの詳細に飛びます。

  

えんの松原 (創作童話シリーズ)
クリエーター情報なし
福音館書店

 

 


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (陽花)
2011-04-26 17:09:12
なんとも微笑ましい可愛い柄ですね。
捕まえる気満々でも、棒が倒れるまでに
雀はうまく逃げるんですよ。
小さい頃、こんな事していました。
懐かしいです。
返信する
なんとまぁ! (りら)
2011-04-27 05:16:50
情緒のある図柄と絵でしょうか・・・・
雀の今にも飛び立ちそうな油断の無さも伝わってきますし、子供二人の顔の表情も、本当によく描かれていますよねぇ。

「えんの松原」、面白そうですねぇ。
しっかり読んでみたくなりました!
返信する
Unknown (とんぼ)
2011-04-27 21:12:40
陽花様

私も子供のころ、近所の男の子たちがやっているのを
見ていました。
まーずつかまりませんよね。
雀もこのごろ見なくなりました。
寂しいです。
返信する
Unknown (とんぼ)
2011-04-27 21:17:25
りら様

美少年たちではないんですが、風情がある絵ですね。

えんの松原の主人公は、巣から落ちた雀をひなから育てて
友達になっているんです。
それもあってすぐ思い出したんですよ。
返信する

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