ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

留守模様

2011-10-02 08:19:25 | 着物・古布

 

写真は「ココロに鍵」の簪。まぁタイトルが「留守」なもんで、シャレです。

 

 

あの「江戸KIMONO展」でのこと、若い方は少なかったのですが、

親子ではなくて…年の離れたお友達のような、そんな感じの女性二人連れがいらっしゃいました。

「松滝模様小袖」という、ちょっと濃いグリーンの着物がありまして…。

コレがまたいい色だったんです。腰から下辺りに青も冴え冴えと「滝の流れ」がありまして、

周りに松の木や草花があります。その下の方にさして目立つ風でもなく、

「ひょうたんと杯」、少し上に「鎌と柴の束」が描いてあります。

その説明に「留守模様」という言葉がありました。

私がその説明を読もうと前に出たときに、お二人は私の横から先へ進まれました。

離れていくとき、若いほうの女性が小声で「留守模様ってなんでしょ」と言いました。

既に向うに向かって歩き始めておられたし、なにしろ館内は静か~なんです。

話すときもみなさんひそひそ・・・なので、お連れの方が教えられたかどうかはわかりませんが…。

そういえば「留守模様」という言い方なんて、このごろ聞かないよなぁと。

 

留守模様、というのは、何か物語とか、伝説などのお話しを絵の題材としたとき、

その主人公を直接描かずに、関連のある情景、或いはその人の持ち物を描いて、

その人や、その物語を連想させる柄…です。

つまり、この「松滝模様」は、ひょうたんと杯ですから「養老の滝」の物語です。

説明にもそう書いてありました。

私は最初は滝ばかり見ていて、読んでからあらひょうたんあるんだ…で見直したんですが。

息子が年老いて眼の不自由な父親のために、唯一の楽しみのお酒を買うのに山仕事に励んでいた。

ある日山の中でお酒の匂いがするので行ってみると、とうとうと流れ落ちる滝の水がお酒だった。

喜んでそれを汲んで父親に飲ませると、眼が見えるようになった…というお話。

鎌や柴は働き者の若者を表し、ひょうたんと杯は、父親に持っていくお酒…ですね。

つまり、どこにも「養老の滝伝説」とは書いていないし、水を汲む若者の姿はないけれど、

絵を見れば誰の話か、何の物語かわかる…というわけです。

単純に道具が置いてある柄は「器物紋様」ですが、

こんなふうに主人公の代わりに置いてある道具は「留守模様」というわけです。

しゃれた図法であり、またそれを「留守」というあたり、心憎い命名だと思います。 

この手法、着物の柄だけでなく、煙草入れとか矢立、茶道具などにも使われました。 

何かいいたとえはないかと探しましたら、こんなのを見つけました。

 

こういう「留守」とか「見立て」とか「判じ物」とか、これは日本人独特のセンスではないかと思います。

例えば、江戸時代の店の看板には「判じ物」が多くて楽しいですね。

元々は字の読めない人のために、見てすぐわかる「絵看板」にしたのが始まりですが、

ちょっとひねったシャレとか見立てとか…描くほうも見るほうもわからなければなりませんから、

つまりはしゃれっけやお遊びのアタマがないと通じないわけで…つうじないのをヤボと申します…。

最近、食べ物屋さんの「営業中」の看板が「商い中」となっているのを見かけます。

「営業中」より優しくていい感じですが、ちょいと昔風に「春夏冬中」ならもっとオシャレ?

春夏冬で「秋」がないので「あきない中」ですね。今その看板出してもなかなか通じないでしょうねぇ。

 

江戸時代の役者の浴衣柄などは、今も受け継がれてその名前を継いだ方の柄になっていますが、

まさしく判じ物オンパレード。当て字もこじつけも含まれていますけれど、

「これをこうして、こう読ませる」というのは、難しくも楽しいものです。

 

着物を着るとき、母は細かくはいいませんでしたが「アタマ使って着たらおもしろい」と言いました。

それはちゃんと言葉で言うと「物語を作るのもオシャレだよ」ということで、

昔から「梅に鶯」というように「コレにはこれをあわせる」というもの。

例えば着物が海岸の風景で網干柄なんて感じだったら、帯は貝あわせの蛤とか。

母も私も、どちらかと言うと小紋より紬が好きでしたから、そうそういつも「コレにはこれで、意味はこう」なんて

やっていたわけではありませんが、着物というのは「柄on柄」であればこそ、

そういう楽しみもあるのだと思ったりします。

また色目でいけば、最近は洋風のイベントも当たり前になってきていますから、

10月はハロウィンで、黒地の着物にオレンジの帯…というだけでも「季節」ですよね。

だれにわからなくてもいいのです。自分が密かに楽しむ、聞かれて答えたら「なるほどねねぇ」といわれる、

そういうのも楽しいものだと思うのです。

 

着物の柄には、これでもかというほど細かく名前がついていたりします。

最近のショップやヤフオクで「いい加減な名前のつけ方」をしているのを見ると、がっかりするのは

日本の柄は「名前ごと柄なのだ」と、そう思うからです。

秋がようやくやってきました。

秋向きの紅葉を散らした小紋なら、帯に水の流れを持ってきて「韓紅に 水くくるとは」としゃれてみたら…。

そんな着物も帯もないっての…よしっヤフオクだっ?!(待ちなはれ…)。


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12 コメント

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スチャラカ (りら)
2011-10-02 04:14:31
「留守模様」素敵な言い方ですねぇ!
こういうことこそ、「日本の伝統文化」なんだと思います。
私の場合は「スチャラカ」方向ですが・・・でへへ
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素敵ですね。 (穴熊の女房)
2011-10-02 05:33:21
「留守模様」始めて知りました。ブログ訪ねて色々教えていただくことばかりです。
近頃しゃれ とか 粋とか 通じない世の中になった気がします。 皆心が狭くなったのでしょうか。
長屋の貧乏人はそれらしく 智恵を働かして暮らしていましたよね。
昔のよきものを 段々 失って行くような気がします。
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留守? ()
2011-10-02 18:28:24
留守模様
留守を知るには 博学で無くてはいけませんねぇ
判じ物も 頭の回転が良く無くてはいけないし
面白いですね。
頭のネジを巻かなくては
犬を連れて(抱いて)お散歩中 だから 留守?
と 思いきや 心に鍵 でしたか
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Unknown (陽花)
2011-10-02 20:19:47
主人公がいなくても描かれているもので、
理解する、読み取るとは知りませんでした。
桃太郎さんがいなくても犬、猿、キジなどが
描かれていれば分かる程度の私では、とっても無理ですね。
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Unknown (とんぼ)
2011-10-03 00:17:44
りら様

いえいえ、いつも楽しい「取り合わせ」に、
ほぉぉへぇぇなるほど…
感心しておりますです。

こういう文化は、廃れてほしくないですね。
なんでも「リアル」に「まんま」で、説明しなくてもわかる、
そういうことがいいことのようになっている現代が、
ちょっとこわいなぁと思っています。
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Unknown (とんぼ)
2011-10-03 00:19:55
穴熊の女房様

庶民の間で、こんなことも広まっていて、
けっこう楽しかったんじゃないかと思います。
昔の人は、いろんな意味で「マメ」でしたね。
なんでも「便利」優先の今は、考えることが減っていく気がします。
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Unknown (とんぼ)
2011-10-03 00:21:20
惠様

なるほど、抱っこした犬に見えますね。
それもまた面白いです。
番犬散歩中につき…あはは。

この簪、江戸時代の意匠のようです。
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Unknown (とんぼ)
2011-10-03 00:22:53
陽花様

だいたい有名な物語「源氏物語」とか、
あと謡曲などが多いようで、
私もおんなじ程度ですよ。
たぶんこれとこの柄がヒント、でも答えがわかんない…なんてね。
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番犬は散歩中 ()
2011-10-03 01:36:53
留守模様という題名と写真だけを見て

犬を散歩させているから 家は留守!

なんて 頭に浮かんだ私。

やっぱり 学 無い事を再確認 
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Unknown (とんぼ)
2011-10-03 14:50:53
惠様

犬に見えるあたり、すごいですよ。
いわれて私もほんとだって思ったんですから。
ちょっとライトの関係で変な陰影ついてますし。
いや、ほんとに「テリヤ」みたいなワンちゃんに見えますがな。
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