「裁判員法にありますので、その趣旨にのっとって、簡単に説明します。」
ある裁判長が、裁判員に刑事裁判の基本原則を説明するときに使った言葉です。
この言葉に続いて、裁判長は、
刑事裁判では検察官に有罪であることを証明すべき責任があること、
合理的な疑いを超える証明がない限り有罪とすることは出来ないこと、
証拠のみに基づいて判断しなければならないこと
などの刑事裁判の基本原則を早口で 「簡単に」 説明しました。
この裁判長のセリフ、どうでしょう?
裁判員法39条では、「裁判長は、裁判員および補充裁判員に対し、・・・・裁判員および補充裁判員の権限、義務その他必要な事項を説明するものとする。」とされています。
検察官の立証責任・合理的な疑いを超える証明・証拠裁判主義
これらはいずれも、冤罪や誤判を防ぎ、被告人の人権を守り、公平な裁判を実現するための最も重要な原則、人類の叡智です。
法律専門家でなく、初めて裁判に参加する裁判員にも、こうした基本原則にしたがった裁判をしてもらう必要があるため、裁判長から説明することになっているのです。
さて、冒頭の裁判長のセリフに戻って、どうでしょう?
あんまりだと思いませんか?
「裁判員法にありますので」
法律に書いてあるから、仕方なくて言うのか! と思わず、突っ込みたくなります。
「簡単に説明します。」
裁判でいちばん重要な基本原則を、簡単に済ますなよ!と蹴り上げたくなります。
冒頭の裁判長のセリフ、日本語としては間違ってはいません。
しかし、
「本当は説明なんかしたくない」
「説明するのは面倒くさい、早く終わらせたい」
「基本原則なんてどうでもいい」
そんなメッセージを暗黙のうちに裁判員に伝えてしまっています。
裁判長の本音?
メンタリストでなくても、わかっちゃいます。
刑事裁判の重要原則なのですから、法律に書いてなくても、丁寧に説明すべきです。
裁判長は、本当は、
「刑事裁判にはとても大切な原則がありますので、丁寧に説明します。」
と説明すべきだったのです。
心の中は、言葉の微妙な表現に表れます。
言葉使いは大切ですね。