弁護士辻孝司オフィシャルブログ

京都の弁護士辻孝司のブログです
弁護士の活動、日々感じたことを弁護士目線でレポートします
弁護士をもっと身近に・・・

京都大学ロースクールで授業をしてきました。2012.12.19

2012-12-19 16:25:11 | インポート

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5年前から京都大学法科大学院で、弁護実務の特別授業をしています。

完全に落ちこぼれの不良学生だった私が、母校で授業をするのは不思議な思いもありますが、

そこが京都大学の懐を深さ、不思議な魅力なんでしょうね。

   

教えるテーマは「刑事弁護」、3回にわたって、
被疑者弁護、公判前整理手続、公判弁護(尋問技術)のレクチャーをしています。

今日は、第1回目の「被疑者弁護」

  

ロースクールの学生に、実際に(模擬)接見をしてもらって、講評と講義をしました。

被疑者との信頼関係を気づくことが重要であること、そのために対等な立場で接すること、

被疑者の話をよく聞くこと、オープンに聴くこと、捜査機関と弁護人の違いをわかってもらうこと、

シンプルにアドバイスすることなど、

弁護士も、なかなか出来ていない弁護実務の技術について話をしてきました。

大阪府警の実際の取り調べの様子を録音した音声も聞いてもらい、弁護人がどのような相手と戦っているのかを実感してもらいました。

刑事弁護の空気を少しでも感じてもらえていればと思います。  

  

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彼ら、彼女たちの中から、日本の刑事司法を担う人が出てきてくれることを期待します。

あと2回、刑事弁護に興味を持ってくれる学生が生まれるように頑張ってきます。

   

   


さいばんちょー!! 本音が透けてます! 

2012-12-18 21:16:53 | インポート

  

「裁判員法にありますので、その趣旨にのっとって、簡単に説明します。」

  

ある裁判長が、裁判員に刑事裁判の基本原則を説明するときに使った言葉です。

この言葉に続いて、裁判長は、
刑事裁判では検察官に有罪であることを証明すべき責任があること、
合理的な疑いを超える証明がない限り有罪とすることは出来ないこと、
証拠のみに基づいて判断しなければならないこと
などの刑事裁判の基本原則を早口で 「簡単に」 説明しました。

この裁判長のセリフ、どうでしょう?

    

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裁判員法39条では、「裁判長は、裁判員および補充裁判員に対し、・・・・裁判員および補充裁判員の権限、義務その他必要な事項を説明するものとする。」とされています。 

検察官の立証責任・合理的な疑いを超える証明・証拠裁判主義

これらはいずれも、冤罪や誤判を防ぎ、被告人の人権を守り、公平な裁判を実現するための最も重要な原則、人類の叡智です。

法律専門家でなく、初めて裁判に参加する裁判員にも、こうした基本原則にしたがった裁判をしてもらう必要があるため、裁判長から説明することになっているのです。

 

さて、冒頭の裁判長のセリフに戻って、どうでしょう?

あんまりだと思いませんか?

 

「裁判員法にありますので」 

法律に書いてあるから、仕方なくて言うのか! と思わず、突っ込みたくなります。

 

「簡単に説明します。」

裁判でいちばん重要な基本原則を、簡単に済ますなよ!と蹴り上げたくなります。

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冒頭の裁判長のセリフ、日本語としては間違ってはいません。 

 しかし、

「本当は説明なんかしたくない」

「説明するのは面倒くさい、早く終わらせたい」

「基本原則なんてどうでもいい」

そんなメッセージを暗黙のうちに裁判員に伝えてしまっています。

裁判長の本音?

メンタリストでなくても、わかっちゃいます。

Daigo

 

刑事裁判の重要原則なのですから、法律に書いてなくても、丁寧に説明すべきです。

裁判長は、本当は、

「刑事裁判にはとても大切な原則がありますので、丁寧に説明します。」

と説明すべきだったのです。

  

心の中は、言葉の微妙な表現に表れます。

言葉使いは大切ですね。 

    


日弁連国選シンポ~岡山に来ています。 2012.12.14

2012-12-14 16:33:49 | インポート

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岡山コンベンションセンターで開催されている日弁連主催の国選シンポジウム

「みんなで担う国選弁護 ~すべての被疑者に弁護人を~」 

に参加しています。

日本では、刑事事件で裁判を受けることになった被告人については、国選の弁護人が認められていました。お金がなくても弁護士を国の費用でつけることができたのです。

ところが、警察に逮捕されてから起訴されるまでの間(「被疑者」と呼ばれます。)は、長らく国選弁護人の制度はありませんでした。

そのため、弁護人の援助もないまま厳しい取り調べが行われ、無理矢理に作られた虚偽自白が、いくつもの冤罪事件を生み出してきました。

この被疑者段階にも必ず弁護人が必要であるとして、弁護士会では、一回だけ無料で接見してアドバイスをするという当番弁護士制度をスタートさせ、被疑者段階の国選弁護制度の実現に向けて運動をしてきています。

平成18年からようやく被疑者段階の国選弁護が始まり、平成21年に対象となる事件が大幅に拡大されました。

しかし、まだ、暴行や公務執行妨害、迷惑行為防止条例違反(痴漢)などの事件には国選弁護人をつけることができません。

また、逮捕されてから勾留されるまでの間(最大3日間)も、国選弁護人をつけることができません。

こうした部分にも国選弁護制度を拡大していこうというのが、今回のシンポジウムです。

  

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  岡山弁護士会マスコットキャラクター

   「たすっぴ」

   

   

   

    

   

   

シンポジウムでは、全国の弁護士からの事例報告、韓国やイギリス・ドイツでの調査の報告が行われました。

外国と比べて、日本では捜査のために身体拘束(逮捕・勾留)される割合が圧倒的に高いこと、取り調べ時間が長く、供述調書が多数作られること、それにもかかわらず弁護人の援助が限定的であることなど、日本の刑事司法の問題点が指摘されました。

  

痴漢事件で冤罪が多いことは、周防正行監督の「それでもボクはやっていない」で有名になりました。

勾留後は弁護人がついてしまうために、今では、警察は逮捕直後に強引に自白調書を作っています。

  

一日も早く、被疑者国選弁護制度を拡大することが必要です。

    

    


オオッと!そこは危ない!! ~弁護技術生活にvol.18~

2012-12-10 23:22:54 | インポート

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今日から、放火、殺人事件の裁判員裁判が始まりました。

裁判の内容は新聞に譲るとして、法廷弁護活動について・・・・

  

法廷で弁護活動をするとき、どこに立つか? 

ということは弁護人にとって、とても重要な問題です。

法廷というのは、こういう感じの場所です。

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正面に裁判官と裁判員、その前に裁判所書記官、中央に証言台

左右に検察官と弁護人の席があります。

  

普通にやるなら、弁護人席のところで立ち上がって、そのまま話をすることになります。

しかし、それはあまりに無策! 

そんなところに立って話をしていたのでは、誰も耳を傾けてくれない・・・

危険な立ち位置なのです! 

 

人に話を聞いてもらおうとするとき、普通は、面と向き合って話をしますよね。

法廷でも一緒です。

裁判官、裁判員とちゃんと正面から向き合える位置に立って話をすることが大切です。

それはどこか?

法廷の真ん中、証言台のあたりです。

そう、法廷の中央まで出て行って、弁護人は話をしなければなりません。

    

でも、いつも中央がいいとも限りません。

証人尋問で尋問をする時・・・・ 裁判官、裁判員に話をする主役は証人です。

弁護人が中央に行って目立ってしまうと、証人がかすんでしまいます。

そういう時は、そっと脇に潜んで、目立たない位置から質問することになります。

そして、証人を打ち負かしたいような時だけ、舞台中央に出ることになるのです。

  

今日の裁判員裁判でも、冒頭陳述の時は法廷の中央に出て行き、証人尋問(主尋問)の時は、弁護人席の端の方に立って、裁判員の視界から消えるように立ちました。

さあ、裁判の結果は! 判決は木曜日です。

   

人前で話をするときは、どこがベストポジションかをぜひ考えてみましょう。

すべらない話をするためには、まず足下にご注意を!

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「ライファーズ~終身刑を超えて」上映&監督講演会 2012.12.8

2012-12-08 18:35:01 | インポート

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映画上映&監督講演会(京都弁護士会)に参加してきました。

映画は、アメリカの刑務所で、終身刑受刑者(ライファーズ)の更生を支援するアミティという支援団体の活動等を取材したドキュメンタリーです。

アメリカの終身刑には、仮釈放が認められる終身刑と認められない完全終身刑の2種類があるそうです。

年に一回仮釈放審査委員会で、仮釈放の審査が行われるということですが、実際には仮釈放になることはかなり難しいようです。

アミティというNPOは刑務所での更生プログラムで活躍しているのですが、
元受刑者によって組織、運営されています。

元受刑者が自分たちの経験を生かして、受刑者たちとの対話を通じて、問題性を掘り起こし、希望を与え、更生を支援している様子が映画で映し出されていました。

「サンクチュアリ」(安全な場所) がキーワードで、
受刑者にとって「あなたにとってのサンクチュアリは何か?」ということを問いかけていました。

「サンクチュアリ」にいることができれば、苦しむこともなく、犯罪に至ることもない、だからサンクチュアリを見つけようということのようです。  

    

Kousoku

  

なるほど、犯罪を繰り返す人でも、ほとんどの人は刑務所では犯罪を犯すことはありません。

しかし、それでも社会に戻れば、再び犯罪を犯すことがあります。

そうなるのは刑務所は規律と監視が厳しいからということもあるのでしょうが、彼らにとって、刑務所は安全な場所で、社会は危険な場所だからなのかもしれません。

   

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監督の坂上香さんも、アメリカの女性刑務所の取材から今朝5時に帰国され、その足で京都にお越しくださっていました。

深刻な虐待を受け続けた人が、そのまま大人になったときにどうなってしまうのか、

その結果として、すさまじい暴力をふるってしまう人になってしまうのではないのか、

そういう人に対してどうしたらいいのか

ということに関心を持って、ライファーズの取材を始められたそうです。

   

映画に出てくるライファーズは、仮釈放の認められている終身刑受刑者だそうです。

映画を作り始めたころ、仮釈放が認められずどんどん受刑期間が長期化していき、受刑者が希望を失っているという問題が生じていたそうです。

今の日本の無期刑と同じような状況ですね。

  

今回のアメリカ取材は、「ライファーズ」には登場させられなかった女性ライファーズを取り上げるために、女性刑務所に行ってきたそうです。

取材に行かれたときには、受刑者が映画を見るプログラムだったそうですが、とても感性豊かで、喜怒哀楽様々な反応があったそうです。

7人の女性ライファーズから話を聞くことができたそうですが、その全員が性虐待を受けていたり、夫などのパートナーから暴力を受けていたりしたそうです。

また、彼女たちがライファーズになったことによって、その子どもたちが経済的に困窮したり、性暴力を受けたりする過酷な状況におかれることになり、刑務所の中でも苦しみ続けている人がいたそうです。

日本でも、死刑を廃止した場合の代替刑や死刑と無期刑の中間の刑罰として終身刑が議論されることがありますが、アメリカのライファーズも、仮釈放という「希望」があるからこそ更生への意欲が生まれるようです。

日本での終身刑を考える上で、大いに参考になるのではないかと思います。