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詩と物語を紡ぎます

阿芙蓉

2017-07-19 07:25:00 | poem
     阿芙蓉



 霞を喫めば霞がかり
 また霞を喫めばまた霞がかり
 およそ人らしい体裁は歪に崩れては蕩けて

 ――ただ一個の人形と化す

 ただ一個の人形の傍らに
 又ただ一個の生き人形が鎮座坐し
 ひたすら清らかな眼差しを注いでいる

 体温を失った肌には
 生き人形の仄かな温みが相応しい

 遠い昔に身罷った妹にどこか似た
 ――どこか似た好い匂いのする
 生き人形を抱き仄かな温みを食む


 捻れた『奇妙な季節』は真夏の吹雪
 外は何と凍てついた世界なのだろう

 金剛石の屑が漂う硬質な硝子の大気に
 鎮痛薬の粉が降りしきり舞い落ちる雪原に

 人々の思惑がさざめいて蠢いて

 甘い言い訳をしながら人は人を見捨て
 曖昧な微笑を浮かべて人は人を裏切り

 罪も懺悔もなく悪意だけが蠢いて
 何とも救いようのない寒々しい世界だ


 遠い昔に愛しんだ妹を
 罪も懺悔もなく黄泉に追いやった

 痛みを葬り去ることは決してできない
 何とも救いようもなく寒々しい生き物だ


 霞を喫めば霞がかり
 また霞を喫めばまた霞がかり

 ただ一個の人形と化した傍らに
 ただ一個の生き人形が鎮座坐し

 体温を失った肌に相応しい

 遠い昔に身罷った妹にどこか似た
 ――どこか似た好い匂いのする
 生き人形の仄かな温みを食む



written:2017.07.18.〜19.


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