2010 No.1 1/1~1/3
作者:アガサ・クリスティー(早川書房クリスティー文庫)
評価・・・
★★★★☆ 4.5
平成22年の読書第1冊目はクリスティーを選びました。
これはミス・マープルものです。
ちなみに、クリスティーが亡くなった年である1976年に刊行された作品です。死後に発表された彼女最後の長編小説なのです。でも、実際に書かれたのは第2次世界大戦中の1940年代らしいです。タイトル通り“眠れる殺人”ミステリー作品だったのですね。
内容もタイトル通りで、眠れる殺人(作品中の表現では“回想の中の殺人”)を扱ったもの。
誰も殺人事件とは認識していないある失踪事件を、実は殺人事件ではないかと疑って真実を明らかにしようとするストーリー。ミス・マープルはその謎解きに夢中になる若い夫婦を暖かく見守りながら導くという役どころで、彼女の優しい人柄がにじみ出た作品です。
でも、犯人にとっては過去の事件を蒸し返されたということで当然おもしろいはずが無く、新たな悲劇が起こるのではという不吉な影がつきまといます。
真犯人には驚かされましたが、過去の殺人を扱った作品ではポアロものの『五匹の子豚』の方がわたしはおもしろいと思うので★は少なめにしました。
ポアロと人気を二分するミス・マープルですが、わたしはポアロ派。でも、ミス・マープルの短編はすごく好き。
本作ではミス・マープルが警察筋ではすっかり有名人になっているような記述があるのですが、『火曜クラブ』などの初期の作品では、ミス・マープルは見た目でただのおばあちゃん扱いされちゃうんですよね。しかも、いきなり関係ないような彼女の村人のエピソードを話しだしたりするので、このおばあちゃん大丈夫かな、といらぬ心配までされてしまう。
でも、実は事件の背景(特に人間関係)とその村人のエピソードが同じような構図になってたりするんですよね。それで真相が明らかになったときみんなびっくり仰天してしまうのですが、そのあたりがミス・マープルのおもしろさだと思います。
どんな事件だって、それを起こした人間の複雑な(あるいは単純な)人間性に基づいて起こったものである、ということを気づかされます。
そういえば今年、クリスティーの未発表短編作品が刊行されるそうです。ポアロものだとか。クリスティーファンとしてはうれしい限りです。
以前にも「幻の作品発掘!」ということで早川書房から「マン島の黄金」が刊行されたのですが、まだ未発表作があったなんて!
ちなみに「マン島の黄金」の日本での発行は1998年。我が家にはハードカバー版、ミステリ文庫版、クリスティー文庫版の3冊があります。同じ作品(しかも同じ訳者)を3作も買っちゃうなんて、クリスティーだけですよ。(クリスティー文庫版には前作には未収録だった短編2作品が入っている分お得感はありますが)
未発表作が刊行される日が待ち遠しいです