雪の華 2020 黒い砂漠 Ver. (FULL MV)【黒い砂漠PC】
Pete MacLeod and Bonehead: Rolling Stone
ザ・ピーナッツ エピタフ (Live) 1972 / Epitaph キング・クリムゾン・カヴァー
Maika Loubté - Show Me How (Lyric Video from 2019 Live at Shibuya WWW)
ヤナくんは虚弱体質。
小さいころからあらゆるスポーツを試みるも、体力がそれについていかず、挫折の連続だった。
そんなヤナくんが中学生になって選んだ部活動が柔道部。
先に入部を決めていたワタルたちは、幼馴染のヤナくんが柔道部に入ると知って反対したのだけれど、”強くなりたい”というヤナくんの言葉に負け、一緒にやることにした。
柔道部は休部していたのをワタルたちが再度立ち上げたもので、先輩もいないことだしこれならヤナくんでも続けられるだろうというのも理由の一つだった。
入部したヤナくんは一生懸命頑張った。
それこそ一生懸命頑張ったけれど、やはり運動が不得手なヤナくんはみんなにはついていけなかった。
最初はみな似たり寄ったりだった。でも2年生になるころには、ワタルたちとヤナくんとの差はぐんと広がり、ヤナくんの役割はもっぱら”投げられ屋”になっていた。
”投げられ屋”とは文字通り投げられる役目を負い、調子の落とした選手の相手をして、調子を取り戻させるいわばブルペンキャッチャーのような存在だった。
毎日何十回となく他の部員の相手をさせられヤナくんは投げられ続けた。
特に、ワタルは好不調の波が激しかったのでよくヤナくんを練習台にしていた。
そんなある日のこと、社会科の教師であるクルモ先生がワタルたちの練習を見に来た。
顧問の先生が用事で来られないので、柔道経験のあるクルモ先生が代わりにきたのだった。
クルモ先生の噂は知っている。高校時代県大会で優勝したほどの猛者だ。
ワタルたちは緊張し、普段にも増して気合を入れて練習した。
クルモ先生は最初はワタルたちの練習風景をのんびりと見ていたようだったけれど、やがて抑えきれなったのか選手たち一人ひとりに口を出し始めるようになってきた。
その中でヤナくんが気になったのか、ヤナくんに対しては特に厳しく足の運び方から手の掛け方、腰の動きまでみっちりと指導を始めた。
「そうじゃ、ない。そうじゃないといってるだろう」
クルモ先生の激しい足払いでヤナくんは空を舞い、畳に叩き付けられる。
ヤナくんが間違いを犯すたびにクルモ先生は容赦なくヤナくんを投げた。
ヤナくんも負けじと起ちあがり、クルモ先生の懐に飛び込んでいった。
それからヤナくんは数えるのが嫌になるほど投げられた。もういいだろう、そんな空気が見ている部員の間で立ち込めてきたとき、「それ最後だ」とクルモ先生は叫び、一本背負いでヤナくんを担ぎ上げ、ヤナくんの背中を畳に激しく打ち付けた。
ヤナくんは悶絶し、転げまわるとやがて動かなくなった。
クルモ先生はそれを見て満足したのか「しばらく休ませてやれ」という一言を残して道場を後にした。
次の日、ヤナくんは退部届を顧問に出した。
それを聞いたワタルはヤナくんに理由を問いただすべく放課後体育館裏に呼び出した。
「なぜやめるんだ?昨日のことが原因なのか?」
体育館裏でワタルはヤナくんに務めて冷静に尋ねた。
「いや・・・」
「柔道がいやになったのか?」
「いや、違う。」
「じゃあ、なぜなんだ」
ワタルはヤナくんに対して冷静な態度を保ちつつ、詰め寄った。
するとヤナくんはしばらく考える仕草を見せ、それからため息をついた。
「・・・・ばかにしてるだろ」
「えっ?」
「おまえらは、俺のことをばかにしている」
「・・・・・」
「俺は柔道を始めて一年も経つのに技の一つも習得できていない。投げられてばかりだ。特にワタル、お前にはよく練習台にさせられたよな。俺はもう限界にきていたんだ」
「限界?」
「そう、限界さ。昨日のことはいいきっかけになったよ」
ワタルは言いかえせなかった。ヤナくんがそう思っていたなんて考えもしなかった。ヤナくんのことを幼い頃からよく知っているようでなにも分かっていなかった。
「・・・でも強くなりたくて入った柔道部だろ?」
そう言うのが精いっぱいだった。
「ああ、そのはずだったんだけどな。俺にはやっぱり無理だったんだよ。・・・・・それに・・・・」
「それに?」
ヤナくんはワタルのその問いには答えなかった。答えずにどこか遠くを見つめているようなそんな瞳をワタルに見せていた。・・・まるでどこかにいってしまうんじゃないかと思わせるような。
「じゃあな、俺帰るわ。今日から帰宅部、気軽な人生さ」
ヤナくんは踵を返すとワタルの前から離れて行ってしまった。
ワタルはひとり残され、考えていた。
・・・・「それに」って何なんだ。
いくら考えても分かるはずもなかった。
それから数年後にヤナくんは病魔に襲われることになる。
筋力が極端に低下する筋ジストロフィーという難病で、それは遺伝的要素の強い病気であり、ヤナくんの父親も同じ病気で亡くなったということをその時はじめて知った。
ワタルは病院に見舞いに行こうとは考えていたが、中学時代の苦い思い出もあり、またヤナくんも自分の訪問を喜ばないだろうと勝手に決めつけ、ついに見舞いには行かずじまいになってしまった。
ヤナくんの最後の半年は壮絶なものだったらしい。
筋力が低下したためか痩せ細り、呼吸もままならないためにのどを切り、チューブを差し込まれ、毎日声なき声で「殺せ」と繰り返していたという話をどこかからか聞いた。
ヤナくんはもういない。
最近になってワタルはヤナくんのことをようやく偲ぶ気持ちになってきた。
あのときのヤナくんの本当の気持ち、想い、今なら分かるような気がしていた。
「それに」の意味も。
Pete MacLeod and Bonehead: Rolling Stone
ザ・ピーナッツ エピタフ (Live) 1972 / Epitaph キング・クリムゾン・カヴァー
Maika Loubté - Show Me How (Lyric Video from 2019 Live at Shibuya WWW)
ヤナくんは虚弱体質。
小さいころからあらゆるスポーツを試みるも、体力がそれについていかず、挫折の連続だった。
そんなヤナくんが中学生になって選んだ部活動が柔道部。
先に入部を決めていたワタルたちは、幼馴染のヤナくんが柔道部に入ると知って反対したのだけれど、”強くなりたい”というヤナくんの言葉に負け、一緒にやることにした。
柔道部は休部していたのをワタルたちが再度立ち上げたもので、先輩もいないことだしこれならヤナくんでも続けられるだろうというのも理由の一つだった。
入部したヤナくんは一生懸命頑張った。
それこそ一生懸命頑張ったけれど、やはり運動が不得手なヤナくんはみんなにはついていけなかった。
最初はみな似たり寄ったりだった。でも2年生になるころには、ワタルたちとヤナくんとの差はぐんと広がり、ヤナくんの役割はもっぱら”投げられ屋”になっていた。
”投げられ屋”とは文字通り投げられる役目を負い、調子の落とした選手の相手をして、調子を取り戻させるいわばブルペンキャッチャーのような存在だった。
毎日何十回となく他の部員の相手をさせられヤナくんは投げられ続けた。
特に、ワタルは好不調の波が激しかったのでよくヤナくんを練習台にしていた。
そんなある日のこと、社会科の教師であるクルモ先生がワタルたちの練習を見に来た。
顧問の先生が用事で来られないので、柔道経験のあるクルモ先生が代わりにきたのだった。
クルモ先生の噂は知っている。高校時代県大会で優勝したほどの猛者だ。
ワタルたちは緊張し、普段にも増して気合を入れて練習した。
クルモ先生は最初はワタルたちの練習風景をのんびりと見ていたようだったけれど、やがて抑えきれなったのか選手たち一人ひとりに口を出し始めるようになってきた。
その中でヤナくんが気になったのか、ヤナくんに対しては特に厳しく足の運び方から手の掛け方、腰の動きまでみっちりと指導を始めた。
「そうじゃ、ない。そうじゃないといってるだろう」
クルモ先生の激しい足払いでヤナくんは空を舞い、畳に叩き付けられる。
ヤナくんが間違いを犯すたびにクルモ先生は容赦なくヤナくんを投げた。
ヤナくんも負けじと起ちあがり、クルモ先生の懐に飛び込んでいった。
それからヤナくんは数えるのが嫌になるほど投げられた。もういいだろう、そんな空気が見ている部員の間で立ち込めてきたとき、「それ最後だ」とクルモ先生は叫び、一本背負いでヤナくんを担ぎ上げ、ヤナくんの背中を畳に激しく打ち付けた。
ヤナくんは悶絶し、転げまわるとやがて動かなくなった。
クルモ先生はそれを見て満足したのか「しばらく休ませてやれ」という一言を残して道場を後にした。
次の日、ヤナくんは退部届を顧問に出した。
それを聞いたワタルはヤナくんに理由を問いただすべく放課後体育館裏に呼び出した。
「なぜやめるんだ?昨日のことが原因なのか?」
体育館裏でワタルはヤナくんに務めて冷静に尋ねた。
「いや・・・」
「柔道がいやになったのか?」
「いや、違う。」
「じゃあ、なぜなんだ」
ワタルはヤナくんに対して冷静な態度を保ちつつ、詰め寄った。
するとヤナくんはしばらく考える仕草を見せ、それからため息をついた。
「・・・・ばかにしてるだろ」
「えっ?」
「おまえらは、俺のことをばかにしている」
「・・・・・」
「俺は柔道を始めて一年も経つのに技の一つも習得できていない。投げられてばかりだ。特にワタル、お前にはよく練習台にさせられたよな。俺はもう限界にきていたんだ」
「限界?」
「そう、限界さ。昨日のことはいいきっかけになったよ」
ワタルは言いかえせなかった。ヤナくんがそう思っていたなんて考えもしなかった。ヤナくんのことを幼い頃からよく知っているようでなにも分かっていなかった。
「・・・でも強くなりたくて入った柔道部だろ?」
そう言うのが精いっぱいだった。
「ああ、そのはずだったんだけどな。俺にはやっぱり無理だったんだよ。・・・・・それに・・・・」
「それに?」
ヤナくんはワタルのその問いには答えなかった。答えずにどこか遠くを見つめているようなそんな瞳をワタルに見せていた。・・・まるでどこかにいってしまうんじゃないかと思わせるような。
「じゃあな、俺帰るわ。今日から帰宅部、気軽な人生さ」
ヤナくんは踵を返すとワタルの前から離れて行ってしまった。
ワタルはひとり残され、考えていた。
・・・・「それに」って何なんだ。
いくら考えても分かるはずもなかった。
それから数年後にヤナくんは病魔に襲われることになる。
筋力が極端に低下する筋ジストロフィーという難病で、それは遺伝的要素の強い病気であり、ヤナくんの父親も同じ病気で亡くなったということをその時はじめて知った。
ワタルは病院に見舞いに行こうとは考えていたが、中学時代の苦い思い出もあり、またヤナくんも自分の訪問を喜ばないだろうと勝手に決めつけ、ついに見舞いには行かずじまいになってしまった。
ヤナくんの最後の半年は壮絶なものだったらしい。
筋力が低下したためか痩せ細り、呼吸もままならないためにのどを切り、チューブを差し込まれ、毎日声なき声で「殺せ」と繰り返していたという話をどこかからか聞いた。
ヤナくんはもういない。
最近になってワタルはヤナくんのことをようやく偲ぶ気持ちになってきた。
あのときのヤナくんの本当の気持ち、想い、今なら分かるような気がしていた。
「それに」の意味も。