もう少しで年明けです。
今年も皆々さまにはお世話になりました。
来年もよろしく、です。(*´ω`)
Paper Plane - Status Quo
スカートとPUNPEE - ODDTAXI / THE FIRST TAKE
The Who - I Can't Explain
"Gabriel's Message" 日本語訳 字幕付きスタジオ居間 那須高原 - eastern bloom
(ちんちくりんNo,65)
二階のかほるの部屋は広くさっぱりしていた。畳敷きの十二畳くらいだろうか。窓辺の左角に勉強机、その上には細長い笠の付いた卓上電気スタンド。後方には壁に密着したベッド。部屋の角に合わせているので、嵌っていると表現した方が適当なのかもしれない。嵌っていると言えば、まさに出入り口のドア横の埋め込み収納。壁いっぱいに木製の開き扉と引き戸がついている。恐らく前者が洋服ダンス、後者が押入れになっているのだろう。本の類は・・・、と思って見回してみたら勉強机から横に見る壁に背を寄せた向きで本棚があった。下二段がアルバムを立てかけられる程度、二、三段が雑誌とか教科書あたり、最上段が単行本とか文庫を入れられるくらいの高さで、中央が縦板で区切られている茶色いレトロな雰囲気が漂う木製の本棚だ。へえ。
僕はかほるがどんな本を読んでいるのか興味津々で本棚に近づき、すらあと文庫本の棚を右から左へ、左から右へ軽く目視してみた。―と、目に留まった一冊があった。カフカ、"変身"て・・・。かほるは女子高生だ。昨今の女子高生がこういう不条理小説を読むなんて偏見かもしれないが、僕の中の常識では考えられなかった。いや、昨今であろうとなかろうと、昔からそのくらいの年齢の女の子が読む小説といったら決まっている。"不思議の国のアリス"だとか"悲しみよこんにちは"だとか、古いものになれば"風と共に去りぬ"だとか。日本文学だと太宰とか流行の村上春樹の作品あたりではなかろうか。僕は思わずそれを棚から引き抜いてかほるに訊いた。
「かほるはこういうの好きなの?」
「ああ、うん。まあまあ"好き"に入るかな」
かほるは大きなスーツケースを開けて中身の確認をしていた。そもそも年頃の女の子が男のいる前で、あけっぴろげに下着なんかが入っているスーツケースを開けるだろうか。そうだ、かほるはもともとそういう奴だった。僕は眉をひそめた。
「何?」
かほるはブラジャーを手にしながら僕の表情を読む。
「・・・ああ、これね。これ。だいじょぶよお、ちゃんと別の袋に入れて仕舞うから」
「そういう問題ではない」
「そうなの?」
かほるは下着が入っているらしいクマさん柄の布袋にブラジャーを仕舞いながら、「ええと、なんだっけ」と話をもとに戻した。
「あ、ああ。かほるはカフカが好きなのかって」
「そうそう、それがいけないの?」
「いや、いけなくはないけど、昨今の女子高生にしては珍しいなって」
「へえ」とかほるは首を捻り、黒目を斜め上にあげる。
「薫りいこ」
「へっ」
「ヒロコさんが、よくそんな風の、もうどうにもならない、っての書くでしょ」
薫りいこの作品はそれほど読んでいるとは言い難いが、ああなるほど、と思った。僕の読んだ薫りいこの作品はどれも人間の究極の絶望を書いた小説だった。その過程が非常に面白いのだが、読後感が充実した気分と嫌悪感とそういったものが綯い交ぜになった不思議な感覚の小説だった。カフカとは違うが読後感は同じだ。「なるほどねえ」そう言いながら、今更ながらかほるの意外な面を知って「明日までの時間」がもっと欲しいと思っている自分に気が付いた。
それからは夕飯までテーブルの上に置いたポータブルテレビを観ながら二人で夕飯まで過ごした。時間を気にしながらも、こんな風に二人でゆったりと何もせずに過ごすのも初めてのことだなとつくづく思った。かほるとのこういう機会はもう二度と訪れないのかと思うと何だか胸に空洞ができたような気分になる。明日、俺はちゃんとかほるを送り出すことができるのだろうか・・・。