Matt Berninger - Walking on a String (feat. Phoebe Bridgers)
エンターテイメント!」佐野元春 & ザ・コヨーテバンド
Kitri Billboard Live 2021SS『Kitri & The Bremenz Live』 Jul.10.2021 at Billboard Live OSAKA
Sting - Rushing Water (Official Video)
Phoebe Bridgers – Moon Song
(ちんちくりんNo,54)
次の日もかほるは姿を現さなかった。僕は、朝、ごめんごめんと手を合わせてこちらに駆けてくる彼女を期待して駅前に待機していたのだが、いつもの時間を過ぎても来ることはなかった。それから大学に行って部室のドアを開けると、いきなり圭太と貢の顔が向かってきたが、二人とも何かを言いかけて、言葉を呑んだ。分かっている。"かほるは"だろう。
予定通り本を作る作業を始めた。原稿はB4判の用紙に中心を折り目にして、右を一ページ、左を二ページ目という風に複写されており、それを表にして中心を折り一枚一枚ページ番号順に重ねて揃えてある。かほるに描いてもらったイラストが、指定の場所に差し込まれていて、凡そ五十数枚。巻頭を目次、巻末に奥付、まずは一束ずつ中身の確認に入った。僕が三冊、圭太と貢が二冊ずつ、かほるが一冊と、全部で必要冊数は八冊、確認作業といっても中身はすでに修正するものは修正し終わっているし、あとは並びの確認位のことなので、作業を終えるのに大した時間はかからなかった。三十分もかからなかった。それが終わったら次に一冊分を、五つに分けて個別にホッチキスで綴じ、右端をパンチで四つ穴を空けた。そうしたらいよいよ接着だ。接着剤は木工用の速乾接着剤を使った。五つに分割した内、順番に中三つの、のり代部分に接着剤を塗り延ばしたら、即座にまた一冊になるように合わせ、貼付した。そのとき空けた四つの穴がずれないように気を付けた。しばらく上から押さえて接着剤が乾いたところで、一旦休憩に入ることにした。
三人で八冊分、そこまで進めるのに昼までかかった。僕たちは昼食を摂るため、近隣のファミレスへ三人揃って行った。
「本当にかほるちゃんどうしちゃったのかな」
テーブルを挟んで、向かいに座っている貢がそう話し始めたのは、ハンバーグ&ライスを食べ終え、セットになっているコーヒーをゆったりとして味わっているところだった。丁度僕が、作った本を届けなきゃ、と頭の中で密かに考えていて、ちょっとした唐突感があったものだから、思わず「えっ」と聞き返してしまった。
「だから、かほるちゃん、もしかしてこのまま来なくなっちゃうんじゃないか、って。ねえ、海人君は何か知ってるでしょ、本当は」
「俺か?何で俺って・・・、知らねえよ、そんなの」
「ガールフレンドでしょ。知らないなんて却って変だよ」
そう疑われて、今度は隣の圭太が眉毛をハの字にして、僕の眼球を眼底まで覗き込むようにして見た。
「そやね。お前の膝枕までさせた仲やしなあ」
「だからって、ガールフレンドじゃ・・・」
「ほうか、じゃあ愛人かあ」
「馬鹿も休み休み言え」
そう抗議した後で、耳元で囁く声がしたような気がした。―じゃあ何なのだ―
かほるのことは分からない。でもたった二、三日会えないだけでも寂しい。もしこのまま会えなくなったら、それ以上に恋しく悲しい。
「ま、俺らはええんやが、お前は違うんやろ?電話出来なきゃ、直接行け。これから完成するあてらの作品を持って」
相変わらず変ちくりんな関西弁だ。やはり行くしかない。きっかけをくれた貢と圭太に感謝。
エンターテイメント!」佐野元春 & ザ・コヨーテバンド
Kitri Billboard Live 2021SS『Kitri & The Bremenz Live』 Jul.10.2021 at Billboard Live OSAKA
Sting - Rushing Water (Official Video)
Phoebe Bridgers – Moon Song
(ちんちくりんNo,54)
次の日もかほるは姿を現さなかった。僕は、朝、ごめんごめんと手を合わせてこちらに駆けてくる彼女を期待して駅前に待機していたのだが、いつもの時間を過ぎても来ることはなかった。それから大学に行って部室のドアを開けると、いきなり圭太と貢の顔が向かってきたが、二人とも何かを言いかけて、言葉を呑んだ。分かっている。"かほるは"だろう。
予定通り本を作る作業を始めた。原稿はB4判の用紙に中心を折り目にして、右を一ページ、左を二ページ目という風に複写されており、それを表にして中心を折り一枚一枚ページ番号順に重ねて揃えてある。かほるに描いてもらったイラストが、指定の場所に差し込まれていて、凡そ五十数枚。巻頭を目次、巻末に奥付、まずは一束ずつ中身の確認に入った。僕が三冊、圭太と貢が二冊ずつ、かほるが一冊と、全部で必要冊数は八冊、確認作業といっても中身はすでに修正するものは修正し終わっているし、あとは並びの確認位のことなので、作業を終えるのに大した時間はかからなかった。三十分もかからなかった。それが終わったら次に一冊分を、五つに分けて個別にホッチキスで綴じ、右端をパンチで四つ穴を空けた。そうしたらいよいよ接着だ。接着剤は木工用の速乾接着剤を使った。五つに分割した内、順番に中三つの、のり代部分に接着剤を塗り延ばしたら、即座にまた一冊になるように合わせ、貼付した。そのとき空けた四つの穴がずれないように気を付けた。しばらく上から押さえて接着剤が乾いたところで、一旦休憩に入ることにした。
三人で八冊分、そこまで進めるのに昼までかかった。僕たちは昼食を摂るため、近隣のファミレスへ三人揃って行った。
「本当にかほるちゃんどうしちゃったのかな」
テーブルを挟んで、向かいに座っている貢がそう話し始めたのは、ハンバーグ&ライスを食べ終え、セットになっているコーヒーをゆったりとして味わっているところだった。丁度僕が、作った本を届けなきゃ、と頭の中で密かに考えていて、ちょっとした唐突感があったものだから、思わず「えっ」と聞き返してしまった。
「だから、かほるちゃん、もしかしてこのまま来なくなっちゃうんじゃないか、って。ねえ、海人君は何か知ってるでしょ、本当は」
「俺か?何で俺って・・・、知らねえよ、そんなの」
「ガールフレンドでしょ。知らないなんて却って変だよ」
そう疑われて、今度は隣の圭太が眉毛をハの字にして、僕の眼球を眼底まで覗き込むようにして見た。
「そやね。お前の膝枕までさせた仲やしなあ」
「だからって、ガールフレンドじゃ・・・」
「ほうか、じゃあ愛人かあ」
「馬鹿も休み休み言え」
そう抗議した後で、耳元で囁く声がしたような気がした。―じゃあ何なのだ―
かほるのことは分からない。でもたった二、三日会えないだけでも寂しい。もしこのまま会えなくなったら、それ以上に恋しく悲しい。
「ま、俺らはええんやが、お前は違うんやろ?電話出来なきゃ、直接行け。これから完成するあてらの作品を持って」
相変わらず変ちくりんな関西弁だ。やはり行くしかない。きっかけをくれた貢と圭太に感謝。