“夕”
あたたかき海は笑ひぬ。
花あかき夕日の窓に、
手をのべて聴くとしもなく
薔薇摘み、ほのかに愁ふ。
いま聴くは市の遠音か、
波の音か、過ぎし昨日か、
はた、淡き今日のうれひか。
あたたかき海は笑ひぬ。
ふと思う、かかる夕日に
白銀の絹衣(すずし)ゆるがせ、
かく愁ひ、かくや聴くらむ、
紅の南極星下
われを思ふ人のひとりも。
角川文庫 北原白秋詩集より
あたたかき海は笑ひぬ。
花あかき夕日の窓に、
手をのべて聴くとしもなく
薔薇摘み、ほのかに愁ふ。
いま聴くは市の遠音か、
波の音か、過ぎし昨日か、
はた、淡き今日のうれひか。
あたたかき海は笑ひぬ。
ふと思う、かかる夕日に
白銀の絹衣(すずし)ゆるがせ、
かく愁ひ、かくや聴くらむ、
紅の南極星下
われを思ふ人のひとりも。
角川文庫 北原白秋詩集より