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未開の顔・文明の顔

     夾竹桃の花は何故か地中海沿岸を連想させる。

著者 中根千枝 発行所 中央公論社 初出1959

先月なかば亡くなった中根千枝(1926~2021)の、本日は偶然、誕生日。

世界旅行が夢のまた夢だった10代の私にとって、この本は、世界への窓の働きをするとともに、優れた女性学者というロールモデルともなっていた。その達者な文章は、エッセイとしても素晴らしく、あまり繰り返し読んだので、大半は憶えているくらいだ。フェミニズムもウーマンリブも承認を得ていなかった時代、優れた男性に対する尊敬と憧れ、慕情のようなものをのびのびと述べているが今日ではこれほど男性崇拝の念をあからさまにすることは難しいかもしれない。それというのも彼女が、女性としては例外的に高い位置におり、4年間もの世界の僻地でのフィールドワークに耐えた精神的身体的な強靭さを持ち合わせていて、その点で妙な劣等感を持たずに済んだからだろう。

しかし60年近くたった今見ると、「そんなのヤダわ」と彼女が顰蹙したような男女平等の社会に、世界は向かっている。例えば、当時スウェーデンでは「そのうち男性に育児休暇を取らせよう」という運動がまさに生まれつつあった。彼女はスウェーデン男性の覇気のなさに、これじゃオムツを替えさせようと言われるのも無理もないという。英国紳士をサラブレッドに、労働者階級を駄馬にたとえているのも、問題かもしれない。「未開」と「文明」を対比するのも、どうなんだろう。彼女の代表作に、この書物が挙げられていないのもその辺と関係あるのかもしれないが、わたしには最近2、3冊読んだ学術的な作品よりも断然面白かった。

ローマでコロセウムの真向かいの部屋を借りる際のサスペンス・ミステリー風のいきさつや、虎狩りをするインド人男性への賛嘆。イタリーで若い男性とのちょっとしたやりとり。いずれも、学問一色でない彼女の20代~30代のエネルギーを感じさせる。

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