映画の感想など・・・基本的にネタばれです。
しづのをだまき
初恋
2021年09月21日 / 本
著者 中原みすず 発行所 リトル・モア 発行年 2002年
映画「初恋」の原作。2012年に映画を見てから読みたくて探したのだが、松江では手に入らず、今回偶然、図書館の書架で発見、やっと読むことができた。さぞ素晴らしい胸のときめくような文かと期待したもの………。
一読して、ものを書きなれたプロの文に見える。いまどきの若者向けのいやに滑りの良い文が、TVドラマか漫画の雰囲気ですらすら繰り出されている。前世紀の大犯罪、府中三億円強奪事件に加担した本人が長年秘めた思いを、乾坤一番吐き出したような迫力がない。表紙は色どり美しく、今風である。直感では、話を聞いたライターによる小説化であろう。
この小説に立ち込めたあの当時、1968年の東京新宿のジャズ喫茶の雰囲気は好きではない。18歳のヒロインと大学生との、いかにも上下関係が固定したやり取りは不愉快だ。(”お前”呼ばわりとか)
父親に反発したひとりの若者が、父を含めた体制側に一泡食わせるための行動を夢見て、持ち前の丈夫な頭脳を駆使して緻密に計画し、たまたま身辺に現れたうぶな小娘を利用してまんまと成功したというそれだけのお話だが、どうして体制側の古狸は、青臭い彼らの思惑通りには動かないのであった。そこが、社会を知らない者の悲哀である。そこでこの若者=ばかものは、海外流浪の旅に出る。そしてスペイン広場からのハガキが少女のもとに届く。(彼女の母親には、欧州の血が混じっていたらしい。)一少女が警官に化けるなんて無理だと思っていたが、彼女は日本人の平均より体が大きかったこと、ヘルメットについたマイクには男の声になる細工がしてあったと聞くと、それなら可能だったかもしれないと思う。ただし350㏄のバイクに乗り、仕事の直後に免許を取りに行くなどの危うい綱渡り。そしてすぐあとに大学受験して合格なんて、あまりに水際立っている。高3でジャズ喫茶に入り浸り、疑似恋愛をし、世紀の大犯罪に加わり、そして”一流私大”に現役合格などの離れ業のできる、彼女と彼らの享受している生まれながらのよい環境への妬み羨みは否定できない。
第2章、女主人公が新宿御苑で読書中にナンパを仕掛けた男に肘鉄を食わせてレイプ未遂事件がおきる。単なる挿話かと思っていたら、第14章(終わりから2章目)でその男が実は主役の男と関連があった…という話になる。これは作者のたくらみだろうか、この一件での男たちの無知・無謀・無様さと対抗する女の頑な反撥は、1968年の硬直した青春を象徴しているのかもしれない。考えると憐れである。
→「貴族の巣」22-5-30
→映画「初恋」12-2-15
→本「真犯人・三億円事件31年目の真実」12-2-20
→映画「実録三億円事件」14-12-3
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