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【映画】明日への遺言

2007年 監督 小泉尭史 120分 鑑賞 松江SATY東宝
出演 藤田まこと 富司純子 原作 大岡昇平「長いたび」

第二次大戦後、占領軍によるBC級戦犯裁判で、絞首刑の判決を受けた岡田資中将の法廷闘争の物語。彼の問われた罪は、昭和20年の名古屋空襲で、被弾して降下してきたB29搭乗員38名を処刑したこと。

岡田中将は本で見たら美男子(ロバート・テイラーをいかつくしたような)で、享年59歳だったそうだ、容貌と年齢、そして関西喜劇出身と言うハンディにも拘らず、藤田まことは半年ためらった後この主役を引き受けたというだけあって、なかなかの好演。しかし、妻の富司純子(セリフなし)の傍聴席での表情に、この人はいつもこんなだが、良妻気取りの嫌味を感じる。その点では、「それでも僕はやってない」で被告の母を演じていたもたいまさこのさりげなさが好感をもって蘇る。まあ、映画の柄が違うけど。

岡田の立派さは「まな板の鯉」のように、極限状況で見苦しくない態度をとったことに尽きる。保身も責任逃れもせず、堂々として自己主張し、信念を変えない。ついには敵側の尊敬までも獲得する。その上、チェロとピアノのBGM、花(白百合、コスモス)、満月などのシーンが、しみじみと岡田の生き方の潔さや純粋さを讃える役割を果たしている。

文部省選定、文化庁支援、産経新聞ほか製作。製作者いわく「今こそ、日本人の誇りと品格を讃える時だ」ーーこの言葉に危ういものを感じる。確かに、かれは武士道精神?の持ち主のように見え、無恥無責任な風潮がはびこる昨今の日本人は、かれの爪の垢でも煎じて飲めばいいのだろうが、それはそれとして

問題なのは、彼の命じた斬首刑が妥当だったかと言うこと、そして名古屋やその他の大都市での空襲&無差別爆撃で何万何十万が死んだ責任はどこにあるかということだ。岡田は米軍の非人道的攻撃を非難する。まことにもってその通り。だが一方、国民がそういう事態に陥っているのを十分知りつつ、何の方策もとらず、放置していた日本の指導者たちには責任はないのか。むしろ「本土を焦土にしても、最後の一兵まで」などと、唱えていたのではないか。

今フッと思い出したことだが、小学生時代、家に「絞首台のひびき」という本を見つけた。内容の詳細は忘れたが、強い衝撃を受けた事だけは憶えている。そして中学生の時(まだTVがないので)近所の家で見たTVドラマ「私は貝になりたい」は、命令により中国人捕虜※を殺したため戦犯として処刑された床屋が主役。この映画の主人公、岡田中将のように、部下をかばい自分一人が死刑に甘んじた人もいた一方で、このようにろくに裁判もされず、あるいは上官に偽証されて、処刑されたBC級戦犯がどの位いたかと言うことは、知っておかなくてはと思う。

※実は米兵(08/06/30付記)
参考:松尾三郎著「絞首台のひびき」(シンガポール・チャンギー刑務所)
   あるインテリ戦犯死刑囚の手記 1952年 世界社 後に復刻されている 

→「私は貝になりたい」8-6-28
コメント ( 8 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
TBありがとうございました (ミチ)
2008-04-25 23:00:44
こんばんは♪
「明日」という単語が同じと言う事で、間違った記事をTBしてしまいました。
お手数をおかけしますが、間違っている方は削除していただけると嬉しいです。

戦争モノ、戦後モノというのはかなり個人的に興味あるジャンルです。
「わたしは貝になりたい」は今度再映画化されますよね。
せっかく良い題材なのに、主演が中居君なので鑑賞意欲をそがれています(汗)
 
 
 
ミチさんへ (Bianca)
2008-04-25 23:31:51
TB&コメント有難うございます。
あら!私も戦争・戦後ものに大いに興味があるんですよ。自分の親とか兄弟が経験していますし。日本だけでなく、外国とくにユダヤ人とナチスの関係は出来るだけ見るようにしています。「わたしは貝になりたい」はフランキー堺の印象が強いですが、中居君も真剣に取り組んでいるようですしどういう演技を見せてくれるのか一寸興味ありますね。
 
 
 
こんばんは (狗山椀太郎)
2008-04-26 00:35:34
コメント&TBありがとうございました。

無差別爆撃をした米軍の非人道性をしっかり訴えつつも、それに対する糾弾口調だけに終わってしまうことは回避して、徐々に主人公の高潔な人格を称賛する流れへと話を持っていく。こういう作品構成っていかにも日本的だし、観客の心をつかむ方法としては非常に巧いなあとも思うのですよ。
ただ、映画では直接触れていない部分(Biancaさんの指摘された日本軍上層部の無責任体質、あるいはジョン・ダワーが取り上げたアメリカ人側の人種的偏見など)も、戦争の非人道性を考える上では重要な部分ですね。
 
 
 
Unknown (Bianca)
2008-04-26 10:21:53
狗山さんから1月遅れでしたが見ることが出来ました。
忘れていました、この映画の冒頭にピカソの「ゲルニカ」が出て来たのでした、そしてドイツがスペインに、日本が中国に、英国がドイツに、アメリカが日本に、無差別攻撃をした惨状が映し出されました。どの陣営でも同じ、すべての戦争の悪を訴える映画だということが、すでにここで分かります。しかし、いつの間にか、主人公がいかに立派だったに力点がおかれ、結局それのみが蝶々される結果になると、危険だと感じるのですが。ところで、狗山さんの言われた半藤一利って面白いですね。昭和史の大作を立ち読みし、「漱石先生お久し振りです」を買ってしまいました。
 
 
 
コメント&TBありがとうございました (べっち)
2008-04-29 01:23:31
はじめまして!
内容、監督、主演・・・と興味をもって観に行ったのに、個人的には実に残念な出来映えに感じました。

どうも「感動的な映画にしようじゃないの」というスポンサーあたりからの圧力があったんでは、と勘ぐってしまいたくなるのでした。

映画としては、冒頭にゲルニカ、そしてある意味万遍なく無差別爆撃を「紹介」することで、岡田をめぐる裁判に内在する「欺瞞性」-まさにBiancaさんが指摘された点-をもあぶりだせる構造を持っていたのに、と思うとなおさら残念。

でも、ま、こういう「残念な映画」を観ることも映画を観る目を養うとおもって、手当たり次第に観ております。
 
 
 
Unknown (Bianca)
2008-04-29 16:02:06
スポンサーの一人は産経新聞社ですしね。感動的な映画というか、感傷的な映画になるのは、日本の特に戦争映画の特徴だと思います。ほって置けばそうなるので、意識的に歯止めをかけなければいけないのです。最近、この国には、道徳教育とか歴史を見直し、日本人としての誇りを取り戻そうという動きが出ていますが、正にそのためにこの主人公を利用しようとしたのではと取れます。
 
 
 
Unknown (niki)
2008-10-26 02:28:44
>スポンサーの一人は産経新聞社ですしね。

この映画はそういうスポンサーの事情とは全く違うところから、スタートした映画です。
小泉監督が黒澤監督の助監督をしていた時代に
低予算でも作れる、そして岡田中将の姿に近づくことで司令官たる黒澤監督の気持ちをもっとわかるようになりたいという、小泉監督の個人的動機から始まった映画です。
出来れば、この小泉監督の全作品を見た方が
この作品の意図もよく伝わると思います。
 
 
 
Unknown (Bianca)
2008-10-26 23:08:19
nikiさん、こんばんわ。
小林泉尭史監督検索して見ました。
「八月の狂詩曲」「まあだだよ」など黒澤の助監督時代の作品は私も見ていましたが、監督になってからの「雨あがる」「博士の愛した数式」「阿弥陀堂だより」は見ていませんでした。師匠の偉大さと比べ物にならないとはいえ、先ず良心的な佳作のようではあります。しかし、師匠に近づきたいと言うのが製作動機だとしたら、余にも志が小さいと言わざるを得ません。苛烈な歴史の瞬間に生きて死んだ岡田中将をテーマとするのに、単にそういう見方で近づくのは、ちとどうでしょうか。だから、思想的に一方に偏ったした新聞を資金源にするという残念なことをしでかしたのだと思います。
 
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