goo

【本】ゼロの焦点

作者・松本清張は、これを自分の代表作であり、自信作だといっている。
有名な割に、ちゃんと読んだのはこれがはじめて。

キーワードは、戦後の一時期、米国の占領軍との間にいた夜の女性達、
いわゆる「パンパン」で、あれほどいた彼女等が、その後10年あまりして、
どこへ消えたかを疑問に思った作者が、想像をめぐらし、きっとこうもあろうかと描いたという。この言葉は、私の小学3~4年生のころ、まだ生きていた。男子が給食のパンを両手に持って、「パンパン」だと言ったのも記憶にある。
その後、中学2年のとき、叔母が使っていたのを聞いたことがある。
その場合は、占領軍相手ではなく、一般的な街娼をさしていたのだろう。

当時の私にはそれが何か暗い悲惨なものと関係が有るとは想像がつかなかった。明るくはじけるようなこの語感と裏腹な実態はどうだったか。中には、学歴も教養もある、もと良家の子女もいただろうが、と作者は考えた。

もう一つのキーワードは、能登半島、日本海の暗い海と空に突き出した風土だ。

この小説・映画が世にでたあと、能登ブームが起きたようだ。
そのころ、21歳の姉が、卒業旅行として能登に一人旅したのを憶えている。

映画は、久我美子が、育ちの良い、教養もある、新婚そうそう夫に失踪された新妻を演じている。彼女が東京から金沢に夜汽車で行く、その光景は、映画ならではだった。H=湯とC=水のボタンが硬かった洗面台に残る黒い煤、扁平な紙コップ(その前はアルミコップ)と飲料水タンク、初めは素焼きだったが、のちにポリ容器に入って売られた10円の緑茶、夜明け、人より先に起きて洗面し、化粧して席に戻る女性、肘掛を枕に膝を曲げて寝る男性などなど、夜汽車の旅の細部が甦って来る。小説では、当たり前のこととて説明していないので、映画というものの持つ、タイムカプセルのような機能が実感される。

1994年中央公論社 初出「零の焦点」は「宝石」1958年3月号ー1960年1月号

映画「ゼロの焦点」1961年 監督:野村芳太郎 出演:久我美子 高千穂ひずる

※「蟹工船」もそうだったが、これも(松本清張生誕100周年記念として)再映画化中
 犬童一心監督、広末涼子・木村多江主演、2009年11月公開とか。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 「難易度が高... アメリカに旅... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。