映画の感想など・・・基本的にネタばれです。
しづのをだまき
「クリスマスの休暇」
2020年09月28日 / 本
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サマセット・モーム著 中村能三訳 三笠書房1951年刊(原著1939年)
ある英国の若者が、クリスマスの休暇にパリを訪れ、そこで出会った人々や事件を描いたもの。彼の英国的な良識や常識とは相いれない情熱的な恋愛とか犯罪を目撃したかれは、また英国の両親の待つ温かい家庭に帰っていく。ゲイとして、作者が、保守的な価値観を持つ家族や同国民に反発する気持は常にあり、生涯のほとんどをフランスなど外国で過ごした。それが至る所にほとばしり出ているようだ。それは「人間の絆」にも共通する。
この本を手に取った動機は、先日DVDで映画「クリスマスの休暇」(1944米国)を見たところ、記憶とだいぶ違っていたので、原作で確かめようと借りてきた。すると私は「失われた週末」という映画と混同していたので違うのも当たり前、この原作も初めて読むのだった。本の状態は、1953年刊なので表紙がとれかかり紙も破れそうに劣化しており、図書館では厚紙の箱に入れて保管されていた。それにしても三笠書房といえば往時は十代向けに特化しており「パレアナ」「15歳のころ」「17歳のころ」「そばかす」などを友人のあいだで先を争って読んだのを思い出す。あのころ13、4歳の少女で、みずみずしい肌をや眼をしていた友人もわたしも、歳月を経てこの本のように脆弱(フレイル)化しているということかと感慨にふけった。
訳者の中村能三氏にはもう50年近く前の1973年に、四谷の翻訳学校で、開校当初から数か月間だけ教わり、提出課題に、センスを持っているから大事にせよと言っていただいた。(不肖わたしは、その道から撤退したのだが)本のあとがきで、40代の血気盛んな能三氏が、モームを擁護しつつ、純文学と大衆文学をわける習慣のクダラなさや無意味さを激越に批判しているが、そういえば70歳になっても盛んな能三節をしのんだ。
→「人間の絆」13-10-5
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