

あるいは移動力いっぱいにこのラインまで撤退してもいいだろう。


メイアはエジプトへの勝利の証を必要としていた。その標的としたのはエジプト第3軍である。イスラエルは戦地にいたエジプト軍の半数にあたる2万人を包囲しつづけた。
10月24日、ブレジネフはニクソンにあてて最後通牒となる緊急の書簡をおくった。
「イスラエルがわれわれをあざむき進撃していると知っているだろう。イスラエルがこれ見よがしに停戦決議を無視しつづけているのは明白だ。われわれはイスラエルの勝手な行動を許しておくわけにはゆかない。『一方的に適切な措置』をとる緊急の必要にせまられるだろう」
書簡を読んだキッシンジャーはすぐにニクソンへ連絡をとる。
しかしニクソンはこの時期、マスコミのはげしい批判にさらされ執務不能におちいっていた。
大統領補佐官は「自分たちでなんとかしてください」と答えるしかなかった。
「大統領は酔っぱらって床に寝転んでいます。核戦争の危機という話は絶対につたえられません」
停戦当日の10月22日、エジプトは停戦直前のイスラエルが報復できないタイミングで、威嚇のため2発のミサイルをうちこんだ。
ソ連国防大臣アンドレイ・グレチコは、停戦直前エジプトからスカッドミサイルの使用許可を求められたさい、ためらうことなくこうさけんだという。
「グズグズしないでさっさと撃ち込んでやれ」
10月23日、停戦発効から20時間後、キッシンジャーのもとに衝撃的な情報がとどく。イスラエル軍が国連の停戦決議を無視し、戦闘をつづけているというものであった。
この違反行為に激怒したブレジネフは23日の夜、イスラエルに対して警告を発した。
「イスラエルの停戦受諾はエジプトを攻撃するための、欺瞞にみちた嘘だった。ソ連政府はイスラエル政府に対し警告する。アラブ諸国への攻撃をつづけた場合は、最終的に最も深刻な結果がもたらされるだろう」