お昼にアポを求められていた。
面会を求められたのは、大体18時頃の予定だった。
既に失意の底にあった私は行きつけの喫茶店から自転車を走らせていた。
有るはずだった品物。
でもそれは無いという。
もしあの金が入らなくてもこれがある。
私の安心の源であったのに。
それはもろくも崩れ去っていた。
たとえ自分のものであったとしても、手元を離れてしまったら、それはもう自分のものではないんだよ。
手元に置いておくことの大事さを、思い知らされた一瞬であった。
物に対する執着・・・。
あの砂漠で、あの旅路で、信じられるものは唯一貴金属、宝石であると私は聞いた。
そんなことがあるものかと、まだ幼い私は思っていたし信じていた。
今あの言葉が重い。
彼の言うことを、もっと真剣に聞いてあげれば良かったのかも知れない。
経験が浅いと言うことは他人に対して残酷だと言うことだ。
今身をもってそれを知った。
私の中で、一つが終わった。
失うべきものが、一つ一つ体から剥げ落ちていく。
私はだんだん身軽になっていく。
憑き物が落ちたように、私は次の仕事へと移っていく。
又新しい日常が始まったのだ。
18時少し前、私の携帯が鳴った。
私は次の仕事の段取りを終えて、その電話を聞いていた。
迎えに行くからと言うことだったので、家に急いだ。
手にするはずだった品物は既に諦めていた。
明日は明日の風が吹くさ。
そう思わないと私に明日はない。
夕食も摂れずに私は家で待っていた。
チャイムが鳴ってそこに彼は居た。
「実はこの前の講演会以来どうしてもあって話を聞きたいと彼が言うんだよ。」
私にとっては講演会で初めて顔を合わした人だった。
車は彼の自宅に急いだ。
そしてそこには新しい人が待っていた。
事務所に入り話を始めた。
講演会は私にとって成功だったことを話し、その理由、これからの展開、全ての計画を話した。
その上で彼の話を聞いた。
納得して貰うことが話を深める唯一の方法であると私は思っている。
そのためには先ずお互いを理解することが必要だ。
初対面の人に何もかも話すのは本当は一寸気が引ける。
しかし今回は講演会に来ていただいた数少ないお客さんの一人だ。
私は先ず彼を理解するために自分を理解して貰うことから始めた。
そして、彼の話を聞いた。
彼は自分の作った書類を持っていた。
全てを見せるのは恐らく躊躇われたのだろう。
話を聞きながら徐々に出してきた。
早い話が彼は特許を取ろうとしていたのだ。
そして私に意見を求めてきた。
私は彼の話を聞いて先ず、先日の漆の作家親子の話から始めた。
欲しいものがそこにないなら、それは自分で作ればいいことだ。
結局話はそこに尽きる。
彼のアイデアに対し、私はどんどんアドバイスを与える。
体術で言うと流すと言うことを彼は知らないようだった。
だから設計は可成り強引なところが見られた。
これでは金がかかりますよ。
一つ一つ最適と自分が思う方法を話し、自分で出来ないところは知人に電話をしてアドバイスを求めた。
結局彼は多分自分の持っている殆ど全てを私にさらけ出した。
時間は結局21時を回ってしまった。
空腹感が限界に来ていた。
話を終え、私は家に送ってもらった。
家に帰ると彼に幾つかのサンプルを見せた。
そしてこれからの構想を話した。
彼が全てを理解したかどうかそれは分からない。
しかし、私に相談を求めた彼と共に何が必要かを理解してくれたと私は思っている。
それが次から次へと構想を見せてくれた彼らの態度に出ていたと私は感じる。
世の中まだまだ捨てたものではない。
やる気のある人は近くにもいる。
一人じゃない。
そう思える。
口だけで、人の話を面白がる人と、構想を持ち込む人。
色々居るけど、金がない人ほど真剣味は伝わってくる。
金を持って守りに入った人ほど醜いものはない。
疑心暗鬼で人を見る。
それなら初めから偉そうなことを宣うな。
一連の事を通じ、地位のある者の醜さを更に実感した一瞬でもありました。
彼らとは協力関係を結び、サンプルを預かり、製造の可能性を探る約束をして、私は明日(もう既に今日か)に向かうことになった。
面会を求められたのは、大体18時頃の予定だった。
既に失意の底にあった私は行きつけの喫茶店から自転車を走らせていた。
有るはずだった品物。
でもそれは無いという。
もしあの金が入らなくてもこれがある。
私の安心の源であったのに。
それはもろくも崩れ去っていた。
たとえ自分のものであったとしても、手元を離れてしまったら、それはもう自分のものではないんだよ。
手元に置いておくことの大事さを、思い知らされた一瞬であった。
物に対する執着・・・。
あの砂漠で、あの旅路で、信じられるものは唯一貴金属、宝石であると私は聞いた。
そんなことがあるものかと、まだ幼い私は思っていたし信じていた。
今あの言葉が重い。
彼の言うことを、もっと真剣に聞いてあげれば良かったのかも知れない。
経験が浅いと言うことは他人に対して残酷だと言うことだ。
今身をもってそれを知った。
私の中で、一つが終わった。
失うべきものが、一つ一つ体から剥げ落ちていく。
私はだんだん身軽になっていく。
憑き物が落ちたように、私は次の仕事へと移っていく。
又新しい日常が始まったのだ。
18時少し前、私の携帯が鳴った。
私は次の仕事の段取りを終えて、その電話を聞いていた。
迎えに行くからと言うことだったので、家に急いだ。
手にするはずだった品物は既に諦めていた。
明日は明日の風が吹くさ。
そう思わないと私に明日はない。
夕食も摂れずに私は家で待っていた。
チャイムが鳴ってそこに彼は居た。
「実はこの前の講演会以来どうしてもあって話を聞きたいと彼が言うんだよ。」
私にとっては講演会で初めて顔を合わした人だった。
車は彼の自宅に急いだ。
そしてそこには新しい人が待っていた。
事務所に入り話を始めた。
講演会は私にとって成功だったことを話し、その理由、これからの展開、全ての計画を話した。
その上で彼の話を聞いた。
納得して貰うことが話を深める唯一の方法であると私は思っている。
そのためには先ずお互いを理解することが必要だ。
初対面の人に何もかも話すのは本当は一寸気が引ける。
しかし今回は講演会に来ていただいた数少ないお客さんの一人だ。
私は先ず彼を理解するために自分を理解して貰うことから始めた。
そして、彼の話を聞いた。
彼は自分の作った書類を持っていた。
全てを見せるのは恐らく躊躇われたのだろう。
話を聞きながら徐々に出してきた。
早い話が彼は特許を取ろうとしていたのだ。
そして私に意見を求めてきた。
私は彼の話を聞いて先ず、先日の漆の作家親子の話から始めた。
欲しいものがそこにないなら、それは自分で作ればいいことだ。
結局話はそこに尽きる。
彼のアイデアに対し、私はどんどんアドバイスを与える。
体術で言うと流すと言うことを彼は知らないようだった。
だから設計は可成り強引なところが見られた。
これでは金がかかりますよ。
一つ一つ最適と自分が思う方法を話し、自分で出来ないところは知人に電話をしてアドバイスを求めた。
結局彼は多分自分の持っている殆ど全てを私にさらけ出した。
時間は結局21時を回ってしまった。
空腹感が限界に来ていた。
話を終え、私は家に送ってもらった。
家に帰ると彼に幾つかのサンプルを見せた。
そしてこれからの構想を話した。
彼が全てを理解したかどうかそれは分からない。
しかし、私に相談を求めた彼と共に何が必要かを理解してくれたと私は思っている。
それが次から次へと構想を見せてくれた彼らの態度に出ていたと私は感じる。
世の中まだまだ捨てたものではない。
やる気のある人は近くにもいる。
一人じゃない。
そう思える。
口だけで、人の話を面白がる人と、構想を持ち込む人。
色々居るけど、金がない人ほど真剣味は伝わってくる。
金を持って守りに入った人ほど醜いものはない。
疑心暗鬼で人を見る。
それなら初めから偉そうなことを宣うな。
一連の事を通じ、地位のある者の醜さを更に実感した一瞬でもありました。
彼らとは協力関係を結び、サンプルを預かり、製造の可能性を探る約束をして、私は明日(もう既に今日か)に向かうことになった。