帳場の山下さんの魚河岸日々雑感

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ライカ犬より、私は幸せ。

2011-02-21 14:52:00 | 河岸のおはなし

私の書いた数字が読めねぇと二ヶ月前の伝票を掴んで帳場に怒鳴り込んできたのが、実はこれが同じお客さんで三度目で、毎度ヤクザの親分のような迫力で恐ろしいのだが、今回もいくら謝っても許してもらえず、20分間、私の前を岩のように動かずに睨みつけ、「何も考えてねぇんだろ」「何も感じてねぇんだろ」「もうしないと俺と約束しろ」と罵唐オまくり、その剣幕に誰も割って入れず、やっと解放されても手が震え、声が出せず、隣の先輩がぽんと優しぃに腕を叩いてくれてうっとこみ上げ、ごごごごご、ごめんなさい、ちょっとトイレとベタな言い訳して帳場を飛び出し、そんなに私が悪いのかと自己正当化する呪詛を唱え、ギャオースと怪鳥のごとくトイレの水を流しながら号泣し、しかしもういい年したアラフォーの女がお客さんのクレームごときで泣くだなんてなんて恥ずかしい、なんて醜い、みんな立派な社会人はこんなことはよくあることだろうにと思うと、いかに日々、寛容で心優しき常連さんたちに甘えてノウノウと仕事をしていたかと、弱った犬のように尻尾を垂らしてすごすごと帳場に帰った。


ふと心に浮かんだのは、あのいたいけなイングマル少年のつぶやき。


人工衛星に乗せられたライカ犬を思えば、僕は幸せ。


そうだ、私もライカ犬よりも幸せだ。
ふかふかのえちがそばにいてくれる私は、ライカ犬よりもずっとずうぅーっと幸せだ。
のえちとの幸福な生活のために、私はもっと立派な社会人として精進しなければならない。





句点が少ないのはきっと、今読んでる町田康の影響。