山之上もぐらの詩集

山之上もぐらの詩集

山之上もぐらの詩集

2024年01月27日 | 日記

橋の下 列車が流れる


この信号を渡って 君はやってきた
白い手を 振りながら

十九の歳のあの頃と 今も変わることなく
橋の下を 列車が流れる

あの時 君を待ちながら
僕は 思い出していた

幼い頃 母と一緒に ここに立って
列車が 煙を吐きながら流れてゆくのを
眺めていたことを

あれから何度も この場所に来た
違う人とも この橋の上で 待ち合わせをした

その人には この橋の思い出を話さなかったし
すぐに 会わなくなった

僕は今 君の若さを思い出す
君の初々しさを思い出す

なのに 君も僕も もうとっくに
死んだ母の歳より 老いてしまってる

ここの信号はなくなった
おばちゃんたちが 回数券をばら売りしていた
バスの停留所も もうとっくの昔に なくなった

橋の上から見る夕焼けは
十九の頃のあの頃と 少しも変わらず紅い

橋の下を流れる列車は
煙は吐かぬが  あの頃と 少しも変わらない

この信号を渡って 君はやってきた
老人の僕は そこに顔を向ける

白い手を振りながら 君はやってきた
橋の下を 列車が流れる

 


山之上もぐらの詩集

2024年01月26日 | 日記

わたしの神さま


わたしの神さまは お父さん お母さん
イエスさまもマリアさまも 嫌いじゃないけど
わたしには 用がない

わたしの神さまは お父さん お母さん
お釈迦さまも観音さまも 嫌いじゃないけど
わたしは 要らない

わたしの祈りは お父さん お母さん
阿弥陀さまでも 法蓮華経でもない

わたしの幸いを守ってくれるのは
お父さん お母さん

わたしの命を守ってくれるのは
お父さん お母さん

かわいそうな命たちの魂を 受けとめてくれるのも
お父さん お母さん

わたしの願いを 聞きとどけてくれるのも
お父さん お母さん

お父さんとお母さんが 待ってくれているから
わたしは こわくない

 


山之上もぐらの詩集

2024年01月25日 | 日記

死臭


今朝 黒ねこが死んだ
誇り高い黒いのらねこだった
そののらねこが放つ死臭が懐かしい

この家に引っ越して来てから
何匹のねこが死んだろう

最初のねこは 母が弔った
そして母が死に父が死に
後を追うように 二匹の飼いねこが死んだ

それから僕は 何匹のねこを弔ってきただろう
何度 彼らの死臭を嗅いだことだろう

父と母が亡くなってから 何年が経つやら
何をしてきたのやら 僕の記憶は疎い

ただねこ達の死臭と その弔いを憶えているばかりだ
存命の父と母の身体が 発し始めていた微かな死臭と
その弔いを憶えているばかりだ

僕の肉体も 微かに死臭を発し始めている

 


山之上もぐらの詩集

2024年01月24日 | 日記

お母さん ありがとう

 

お母さん わたしを殺してくれて ありがとう

 

お母さん もうお母さんを 苦しめたりしないよ

お母さん もうお母さんを 泣かせたりしないよ

お母さん もうお母さんを 怒らせたりたりしないよ

お母さん もうお母さんを 辛くさせたりしないよ

お母さん もうお母さんを 追っかけたりしないよ

お母さん もうお母さんに 甘えたりしないよ

お母さん もうお母さんに おねだりなんかしないよ

お母さん もうお母さんに だだをこねたりしないよ

お母さん もうお母さんを 悲しませたりしないよ

 

お母さん わたしを殺してくれて ありがとう

 


山之上もぐらの詩集

2024年01月23日 | 日記

わたしの七夕

 

夕べの風 サラサラサヤ ささの葉ゆれる

短冊に 点字でかいた わたしの願いごと

神様の指は 読んでくださるかしら

クチナシの あまい香りが ながれてくるよ

天ノ川の ほとりから

 

わたしの目は 生まれつき きれいなお星さま

見たことはないけど 母さんが話してくれた

下駄の歯音 カタコトカタ 路地を駆けてゆく

風呂上がりの シャボンの香が 匂ってくるよ

天ノ川の ほとりから

 

夕べの風 ヒラヒラヒラ お飾りゆれる

短冊に 点字で書いた わたしの願いごと

神さまの指が なぞっているのかしら

織り姫さま 機織る音 聞こえてくるよ

天ノ川の ほとりから