言葉の還る場所で 谷川俊太郎 × 俵 万智 対談集

2025年02月05日 | た行の作家
コロナ禍の時にオンラインで行われた対談を書籍化したもの。

本の初めにある、俵万智さんについて谷川さんが書かれた「俵の中身」が秀逸でした。
俵さんから「精」を引き出して、そこに漢和辞典を登場させて、「ティンカーベル」までも登場させてしまう。

長所、短所、見方によってはそれが裏返るように、それを感じられるように書く。
それでいて、それも「詩」に感じられるのです。

本のタイトルは「言葉の還る場所」。
このタイトルに対して本の内容は?と読後、初めは疑問に思っていました。

そもそも言葉の還る場所は、どこなのか?
還る場所があるとしたら、生れ出たところしかないんじゃないか?
ということに至って、このタイトルの意味を理解しました。

結局、言葉を奏でたその人に還るしかない。

言葉の還る場所を探すなら、その言葉を奏でた人を知るしかない。

でも、谷川俊太郎さんの詩や俵万智さんの短歌の還る場所を、私はわかる必要があるのか?と言ったら、わからないくてもいいな…と思ったり。

音楽と一緒です。
ベートーヴェンをよく知らなくても、ベートーヴェンの音楽を楽しむことは出来ます。それを聴く人がそれぞれ楽しんでそれぞれ感じればいい。
楽しみ方も感じ方も「みんなちがってみんないい」、です。

なので、ふたりの相反する思いや生き方や言葉の紡ぎ方や、ふたりのこの対談の嚙み合わなさが「みんなちがってみんないい」に思えるかどうか。

本の最後は、俵万智さんが対談後に書く「豊かな時間のあとに」。
その最後に、谷川俊太郎は「言葉は疑うに値する」ということを信じている、と書いています。

なので、最初の「俵の中身」はどうなのか?と疑ってみると面白いと思ったりしました。

言葉だけじゃなく、いろいろな情報も「疑うに値する」で見てみると良いのかも…。
それでも、私は結局は「好きか嫌いか」の判断になってしまうような。

…言葉の還る場所は「好きか嫌いか」なのでしょうか?????
うーーーん…(-_-;)



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Your present・Red /  青山美智子(著)・U-ku(絵)

2025年01月28日 | あ行の作家
水彩作家・U-ku(ゆーく)さんの絵から受けるインスピレーションを手掛かりに、青山美智子さんが短い物語を綴った絵と言葉のコラボの作品集。

物語というより詩のような感じです。

「猛獣たち」「死写会」とダークな物語が続いたので、ここでちょっとひと一息。
深呼吸のような一冊です。

冬ならば「赤」。
冬は冬の太陽の不足な部分を補うような「赤」が欲しくなります。
赤いシクラメンを置いたり、赤いセーターを着たり。
赤い模様の入ったクッションカバーやラグもほしい。
冬は赤に惹かれます。

赤は冬の私へのエールのような存在なのかも。

この本もエール。

日々、生きる私への、あなたへの。
ラブレター。

文字を遊ばせて、飛ばせて、弾かせて。
色を流して、重ねて、形作って。

自由でいいんだよーーー!

ゆるーく、ゆるーく。
力を抜きましょ。

そう詩う本です。



<本文より>

ナクシタモノハ未来ニ取リニカエレバイイ



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死写会 / 五十嵐貴久

2025年01月23日 | あ行の作家
今日、女性とのトラブルが報じられている中居正広さんが芸能界からの引退を発表しました。


「性被害」と一言で言いますが、「性」は「心が生きる」ことです。
「性」に被害を受ければ心は生きられないのです。
心のない人間はいないので、心=人間です。

「死写会」はまさに「性被害」の物語です。
  
セクハラ・パワハラのその結果、どうなるか?
多くの被害者たちの想いが結集した時、どんなことになるか?

想像を絶する物語です。
男性はぜひ読んでみてください。

所詮、小説、物語じゃないか?と思われるかもしれませんが、あながちこの物語のようなことが起こらないと断言できないのではと思います。

怨念、こわいです。

主人公は誰なのだろうと思いながら読んでいきした。
初めは、試写会に参加したプロデューサーや映画誌編集者かと思いましたが、まさかの亡き人。
この主人公を想像すると、彼がしてきたセクハラ・パワハラを全部受け止めてそれでも彼を擁護して彼の仕事をサポートして生きてきたんですよね。
若い女性を無理やり愛人にして、若い清純派女優をはじめとするたくさんの女性たちにセクハラして、男性たちにはパワハラ…。
こんな人に何故尽くすのか?と思ったらそれは偏に映画製作のため。

盲目的に彼の映画にかけてきたのに…。

盲目的が覚めるのは命を失った、彼が命を救わなかった時。悲し過ぎます。
そして、この盲目的が反転したらどうなるか?

いや、命を失う前からその時を待っていたのかも?
用意周到に、静かに。そんな気がしてきました。

読者は、出来る女性の、私のような傍観者も許さない、凄まじさを見せつけられることになります。

心をなきものにされたあらゆる怨念を集合させプロデュースして、全員を残酷な方法で死に至らしめる。
この力に抗うことができますか?



<本文より>
わたしたちは何も見ていないふりをした。何も気づかないふりをした。今、その罪を問われている。
わたしたちだけではない。誰もが同じ罪を犯している。おそらくは無意識のうちに。




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猛獣ども / 井上荒野

2025年01月12日 | あ行の作家
カバーのこの落ち着いた赤に惹かれて手に取り、読み始めました。
装画は杉本さなえさん。
男女の背景に戦う猛獣たちと真ん中に禁断(?)の赤い実…。
この物語そのものの絵だと思いました。

そもそも猛獣たちははどうして戦っているのでしょう?
同じ仲間、同士であるはずなのに。
同志、夫婦、カップルになると決めたのは自らなのに。
いつしか、敵対する間柄になり、角と角を突き合わせて戦っている。

物語の舞台は、町から離れた管理人もいる別荘地。主な登場人物は、別荘地に定住している6組の夫婦と男女の管理人です。
その別荘地の近くに熊が出没し町に住む男女ふたりが襲われ殺されました。
この殺された男女が不倫同志。

この物語はミステリーやサスペンスやホラーではありません。
あくまでも、6組の夫婦のそれぞれの物語として綴られていきます。
間に管理人たちの過去や恋も含めて。

でも、気になっちゃうんですよね~。本当に熊なの?って。
殺された後に熊が来たんじゃないの?って。
もしかしたら、自らふたりで死を選んだ可能性だってあるんじゃないの?って。

この物語は隠し事の物語だと思うのです。
それぞれが秘めていた表に出していない出来事や本心を、自らが確信していく、自分の気づきみたいな。
だから、作者の読者に対する隠し事もありかな?なんて思います。
隠していても隠された方は気づいていたり。

それから、気づいたことがもうひとつ。
6組の夫婦たちはみんな夫が妻のお荷物的な存在になっていること。
年が行けば行くほど妻が面倒をみることになる…。その中で妻に対して夫は猛獣化してくるような。

死んでしまった男女についてはあまり描かれていないので、相手に対してどんな感情があったのかわかりませんが、わからないから良いのかも。

そして、もうひとり死んでしまった別荘地の住人も、本当に病死なの?って思ってしまいます。
本当に病死なら、張り合うことでかろうじて立っていられたのに、張り合う相手をなくして立っていられなくなった、それだけ相手に依存していたということなのでしょう。

依存、それこそが猛獣なのかもしれません。

家庭って檻なのかもしれませんね。
猛獣の檻。
自分の中の猛獣が顔を出す場所。
そして家から一歩出るときは、猛獣を檻の中(家)に閉じ込めておく。
猛獣になんて出会いたくないもの、結婚する人が減っていくわけです。


<本文より>
子供みたいな私の夫は、決して成長しない。



☆追記

改めてカバーの絵を眺めていたら、二頭の猛獣は鏡のような感じで描かれていることに気づきました。
夫婦、カップルって、お互いを映す鏡なのですね。




きっと私も同じ顔をしているだろう、と七帆は思った。
この最後の一行がそれを表しています。



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悪霊物語 / 江戸川乱歩+粟木こぼね

2025年01月06日 | あ行の作家
江戸川乱歩氏の物語にイラストレーターの粟木こぼね氏が絵を担当した立東舎の乙女の本棚シリーズ41弾の本。

このシリーズは絵に惹かれて何作か読みました。
今回もまずは絵の美しさが目に留まりました。

物語はこの一冊で完結というわけではなく、発展篇を角田喜久雄氏、解決篇を山田風太郎氏が執筆しています。
発展篇、解決篇も読みたいのでぜひ乙女の本棚シリーズで本にしていただきたいです。

物語は、まだほんの入口で終わってしまっているので、消化不良というか、録画の再生の途中でストップしてしまっている状態。
どこかで、続きを読めたらいいのだけれど…。

怪奇小説家大江蘭堂が老人形師伴天連爺さんとどう対決していくのか、モデルの美女最上令子を助け出すことができるのか、とっても気になります。


<本文より>

手が自然にすべって行く、そのすべり方に、異様な快感があった。それは触覚だけでなくて運動感覚にも訴える美しさであった。

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